やはり、「老後不安」というナラティブに踊らされている
ではなぜ、多くの人がやりたいことを犠牲にしてまで、お金を貯め、増やし続けるのでしょうか。
それはやはり、「老後不安」というナラティブがあるからです。人間の行動を強く促す要因には「欲」と「恐怖」がありますが、中でも「恐怖」の力は大きいといえます。
そもそも、老後というのは将来のことです。将来のことは誰もわかりませんから、不安が生じるのは当たり前です。
しかも最近ではメディアが「老後貧乏」だとか「老後破綻」などという言葉を使って、さらに不安を煽りますから、次第に不安が恐怖に変わっていきます。
その上、「老後不安」というナラティブは、金融機関の営業にとっても非常に都合のよい話ですから、これを武器にして金融商品の購入を一生懸命勧めてきます。
結果として、どこまでいっても果てのない不安から、お金を増やすことに意欲を燃やし続け、最終的には「死ぬ時に一番たくさんお金を持っている」という状態になるのでしょう。
でも繰り返しになりますが、私は、過剰な老後不安を持つ必要はないと思います。日本においては、自営業の人であれば公的年金だけで生活していくのは難しいですが、普通のサラリーマンであれば、そんなに心配する必要はありません。
厚生労働省のモデル年金額では、妻がずっと無職であったサラリーマン家庭の場合の年金支給額は、月額で約22万円です。毎年海外旅行に行くとか、頻繁に豪華な外食をするということでなければ、日常生活はこの金額でも可能です。
事実、私は定年後、夫婦2人でだいたい生活費は月に21万~23万円ぐらいでまかなえています。
もちろん、自分が何歳まで生きるかは誰もわかりませんから、「死ぬ時にゼロにしろ」といってもそんなにうまくはいきません。ただ、仮に90歳までに持っているお金を全部使ってしまったとしても、公的年金は死ぬまで支給されます。
私の経験上、年を取るほどお金は使わなくなりますから、同じ年金額で支給されるのであれば、たとえ何歳まで長生きしようと生活に困ることはないでしょう。
だから私自身は、自分が持っているお金は、90歳までにほとんど使ってしまってもよいと考えています。
もちろん、不測の事態に備えるために、ある程度の現金を持っておくべきだという考え方もありますし、それは間違いではありません。でも、どんな事態になるとどれぐらいのお金が必要かは、事前にある程度読めます。
それに、自分のお金でまかなえないような事態に備えるには保険を使えばよいですから、必要以上に過剰なお金を蓄えたり増やしたりしておく必要はないと思います。
むしろ、人生後半に向けて考えるべきことは、「お金を増やす」ことではなく、「お金をどう使うか」ということでしょう。