頭では理解しているが…「役職定年」の切なさ
会社員である以上、だれもがいつかは「定年」を迎える。人事院『民間企業の勤務条件制度(令和2年調査結果)』によると、「定年制がある」企業は99.5%。そのうち定年の年齢を「60歳」としている企業は81.8%、「61~65歳」としているのが3.4%、「65歳以上」が14.4%となっている。
2013年の「高年齢者雇用安定法」の改定により、企業は65歳までの雇用確保が義務づけられ、現在は経過措置期間中。2025年4月からは、65歳までの雇用確保が義務となる。従業員の定年を定めている場合は、
①65歳までの定年の引上げ
②65歳までの継続雇用制度の導入
③定年の廃止
の、いずれかの対策を講じる必要がある。
定年制変更の有無について企業に尋ねた結果、「変更することが決まっている」が2.8%、「検討中」が19.1%、「変更予定なし」が77.7%となり、多くの企業は定年はそのままに、②で対応をする模様だ。実際に「定年退職者の継続雇用の状況」を尋ねたところ、「継続雇用制度がある」とした企業が96.5%であり、定年後も就労できる環境はほぼ整備されているといってよい。
このことから「ひとまず60歳で区切り」という現状は、大きく変わらないといえそうだ。
だが、いわゆる「勝ち組」会社員のなかには、定年の前にもうひとつ、「役職定年」という区切りがあるケースもある。
同じく人事院『民間企業の勤務条件制度(平成29年調査結果)』によると、「役職定年制がある」と回答した企業は16.4%。企業規模500人以上の大企業に限ると30.7%だた。
役職定年は、1980年代に定年年齢が55歳から60歳へと引き上げられた際、組織の活性化を図るとともに人件費の抑制などを狙って導入されたケースが多い。役職定年制を導入している企業の多くが「55歳」を区切りとしているのは、そのような背景がある。
役職定年後、どうしても保てない「モチベーション」
そんな役職定年だが、働き手にとっては大きな問題がある。まず第一に、給与の減額だ。
厚生労働省『賃金構造統計基本調査』(2021年)によれば、大企業・大卒の部長(平均年齢52.4歳)※の平均給与(所定内給与)は月74.46万円。手取りだと51万~52万円程度で、年収は1,238万円程度になる。
*従業員1,000人以上、男性、大卒の場合。
同調査で非役職者の給与をみていくと、部長の肩書がなくなった場合の平均給与は、月42.29万円。手取りで31万~32万円、年収は617.6万円にまで下がってしまう。要は、肩書がなくなった途端、給与が半減するということだ。
第二の問題は、役職定年後の仕事内容・ポジションだ。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査では、役職定年後の主な仕事は「社員の補助・応援」が20.3%、「部下マネジメントの管理業務」が10.8%、「所属部署の後輩社員の教育」が5.4%と、役職定年を機に補助・サポートにまわるケースががある一方、「所属部署の主要な業務」が52.8%となっている。つまり、半数以上は仕事内容に変化がない。
このような状況下、「仕事に対する意欲が下がった」従業員は59.2%と、「変わらない」の35.4%を大きく上回る。本来なら、貴重なキャリアと経験を活かし、部下や後輩の育成に注力してほしいところだが、ここまで意欲が下がった状態では期待薄ではないだろうか。
役職定年となった人を、若いスタッフたちはどのように扱えばいいのか迷い、困ってしまうこともある。給料は下がるわ、周囲からは敬遠されるわとなれば、転職に心型向く人も多い。だが、会社を去られてしまっては、企業側にとってはそれなりの損失だ。
そのため、役職定年を廃止した企業もあるが、今度は、若手から「いつまで居座るのか」という空気が漂ってくる。シーソーのように、あちらを上げればこちらが下がり…といった状態になりがちなのである。
会社の空気感もなかなかしんどい問題だが、やはりいちばん打ちのめされるのは、給与の大幅減額だろう。いずれ役職定年になることは理解していても、それなりの給与額を受け取り続けていれば、生活水準も金銭感覚も、そちらに慣れてしまうもの。生活水準を急に落とすことは想像以上に難しく、場合によっては、生活破綻のきっかけになりかねない。
「部署内のいたたまれない空気に、予想外のダメージを受けている」
「私の目と脳が、給与額の確認を拒絶する…」
「居場所も金も、なくなるばかり…」
正真正銘の「勝ち組」ポジションといえる大企業の部長。だが、いずれ迎える役職定年、そして定年退職後の人生設計をどうするべきか、早い段階で見通しを立てておくことが重要だ。
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