(※写真はイメージです/PIXTA)

先進国のなかで唯一、賃金が低迷している日本。ブラック企業からの脱出、あるいは、実力への正当な評価と報酬を得るために「転職」を考えている人も多いだろう。政府は、自己都合退職でも会社都合と同じく1週間程度での失業保険給付を検討するなどの動きを見せているが、統計を追うと、転職と賃金に関する厳しい状況が見えてきた。

政府、自己都合の失業給付も7日程度となるよう検討

内閣が、新しい資本主義の実現に向けたビジョンを示し、その具体化を進めるために設置した「新しい資本主義実現会議」だが、令和5年2月14日に行われた第14回会議にて、「リ・スキリング・労働移動・構造的な賃上げの方向性」の討議が行われた新しい資本主義実現会議〈第14回〉。そして、雇用保険の失業給付は今後、自己都合も、倒産や解雇といった会社都合での1週間と同水準にするという検討に入った。

 

自己都合による退職の場合、およそ2カ月の給付制限がある。受給資格決定日から初回の失業手当の支給までは、およそ約3カ月後となるが、給付制限が取り払われて速やかな給付が行われるのは、就労者にとってありがたいといえるだろう。

 

とくに、低賃金で長時間拘束されているような状況では、満足な貯蓄ができず「退職=生活困窮」となりがちとなることから、心身がつらくても退職をためらう人も多い。

 

だが、「これで転職しやすくなる」と考えるのは早計かもしれない。

転職活動、「なにも準備せずに行った人」66.1%。

厚生労働省『令和2年 転職者実態調査』によると、転職者のうち「自己都合による転職」は76.9%だった。また、転職活動において「準備を行った人」は30.9%、「特に何もしていない」が66.1%だった。

 

転職する際の離職期間は、多くが収入ゼロとなるため、短いほど望ましいわけだが、実際位には「離職期間なし」で転職を成功させたのは26.1%、「1ヵ月未満」が27.6%、半年以上の長期戦となったのが10.7%だった。

 

転職先を決めた理由で多いのが「仕事内容・職種に満足がいくから」で41.0%。「自分の技能・能力が活かせるから」は36.0%、「賃金以外の労働条件がいいから」は26.0%、「転勤が少なく、通勤が便利だから」は20.8%だった。

 

 

転職後の職場の満足度だが、「満足」が53.4%、「どちらでもない」が34.5%、「不満足」が11.4%だった。転職者の10人に1人は失敗したということになる。

 

転職後の給与は、「増加した」が39.0%、「変わらない」が20.2%、「減少した」が40.1%だった。「増加」と「減少」が拮抗しているかたちだ。

 

給与の減少については、「1割未満の減少」が全体の11.7%、「1~3割未満」が18.1%、「3割以上」が10.9%だった。転職者の10人に1人は「転職で給与が3割も減った」ことになる。

 

給与3割減となっても、本人がそれでいいなら問題ないのだろうが、ほとんどは「不本意な結果」ではないか。

50代の転職、給与額3割減の衝撃

「転職で給与3割減」となった人を年齢別に見ていくと、ここでもまた非常に厳しい結果が見えてきた。20~40代は3割台のところ、50代では5割前後に上昇。なかでも、50代前半に集中していることが見て取れる。

 

【年齢別「転職で給与減」の割合】

 

20~24歳:33.2% / 7.3%

25~29歳:33.0% / 10.4%

30~34歳:32.8% / 12.7%

35~39歳:37.7% / 13.0%

40~44歳:37.4% / 9.9%

45~49歳:32.5% / 7.5%

50~54歳:53.2% / 18.2%

55~59歳:49.9% / 11.8%

 

出所:厚生労働省『令和2年 転職者実態調査』より

※数値左:転職者全体に対する「給与減」の割合、右:転職者全体に対する「給与3割減」の割合

 

本来なら50代は、会社員人生で給与が最も高い水準にある年代だ。大卒で大企業(従業員規模1,000人以上)勤務のサラリーマンなら、平均給与(所定内給与)は月43万1,500円、手取りにすると33万円ほどになる。賞与も含めた年収は推定740万円程度。給与のピークに達するのが50代前半で、月収は56万7,300円、手取りで41万円、年収は971万円と、1,000万円も目前だ。

 

転職を決意しても、2割弱の人は「給与3割減」の結果となってしまう。月収は39万7,110円と40万円を割り込み、手取りは30万円ほどに。これでは30代後半の頃に逆戻りだ。給与を見る限り「負け組確定」といえる。

 

定年が視野に入ってくる年齢で、給料度外視で「本当に自分がやりたかったこと」を追及したいなら、それもまたいいだろう。


だが、それなりの経験やキャリアを期待されたうえ、ポジションも限られているとなれば、「転職前の高すぎる給与」が足かせになりかねない。

 

そしてまた、50代は最後の稼ぎ時であり、老後資産形成を行う重要なタイミングでもある。そこで「給与3割減」を本当に許容できるのか。

 

50代の転職は、老後生活まで視野に入れたうえで決断したほうがいいだろう。

 

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