「国有企業に入れば一生安泰」のはずが…
「『内巻(ネイチュアン)』に巻き込まれないように就職先を国有企業にしたのに、いまでは"巻王"になっている」――。
国有建築大手で働く知人が暗い顔でつぶやいた。中国の流行語にもなった「内巻」。これは「不条理な内部競争」を指す。「巻王」はそのトップなので、「社内の不毛な競争の勝ち組」とでもいえよう。
中国では国有企業は"鉄飯碗"(食べることには困らない)と例えられる。地位が安定していて仕事はラク、福利厚生も悪くない。入社できれば一生安泰とされ、競争が激しい民間企業とは正反対。ただ、その生ぬるい環境はここに来て変わり始めているようだ。
残業代はナシ、日付を超えるまで仕事は当たり前…国有企業の“実態”
国有の通信キャリア大手で働く別の知人も「残業代が出ないのは当たり前。日付が変わる午前0時前に退社できれば早帰りだ」とグチる。「働いた分、ボーナスも期待できるのでは」と慰めてみたところ、「結果に結びつかない精神論が中心の会議や中身のない競争が増えただけ。こんな会社が成長するわけない」と返された。
彼を特に悩ませているのは週末に開かれる部門会議だという。形式上は自由参加だが、ほとんどのメンバーが出てくる。休日出勤手当は皆無。上司から評価されるのは成果ではなく、休日にも働く精神。そのため安易には休めない。
この風潮は普段の仕事にも影響をおよぼしている。効率よく業務を終わらせて早めに退社するという当たり前の行為は、上司からやる気が足りないと喝を入れられることもある。
職場の正義は長時間労働。成果は二の次になっている。仕事のスピードをわざと緩め、誰が一番遅く退社するかという我慢大会(チキンレース)が毎日繰り広げられているようだ。会社で寝泊まりする同僚が現れたときは彼もさすがに出世を諦めたそうだ。
大きな期待は、政府が掲げる国有企業改革に伴い、無意味な競争が効率重視の方向にシフトしていくこと。ただ、この改革が成功するまでは、人員削減の対象にならないように精神論で勝ち抜く。彼は覚悟を決めている。