(※写真はイメージです/PIXTA)

この春は、若年世代を中心に賃上げを実施する企業が続出したが、非正規社員は蚊帳の外に置かれたまま。「最低賃金を全国一律1,500円」というムーブメントもあったが、実現はまだまだ先になりそうだ。非正規の従業員が置かれている、厳しい状況を見ていく。

50歳過ぎ男性、転職を繰り返して「非正規」に

平成バブル崩壊の憂き目にあったものの、なんとか新卒で就職し、堅実な人生設計を描いていたはずの男性。ところが、上司との関係がうまく築けず、出社拒否気味に。

 

――上司と関係が悪かったとのことですが、どういう問題がありましたか?

 

男性「最初の就職先は業界大手で、同期もそれなりの人数がいましたが、なんというか、自分だけ上司との距離が遠かったように感じました」

 

――相性の問題として受け流すことはできなかった?

 

男性「そうですね。1人だけ風当たりが強く、同じミスをしても、自分だけ名指しで叱られるといったことが続きました。そのうち、叱られる、緊張する、ミスをする…というループにはまってしまいまして。耐えられなくなり、退職しました」

 

――そのあとは?

 

男性「焦って就職活動し、同じ業界の会社に就職しましたが、待遇が悪くて。上司がパワハラ気味な人で参ってしまい、そこでも1年持たずに転職しました」

 

………

 

男性は、転職を繰り返すたびに条件が悪くなり、無職の期間もはさみながら、50歳を過ぎた現在は、月収20万円の非正規社員として働いているという。

 

月収20万円が額面なら、手取り16万円程度。よほど切り詰めないと生活が立ち行かないだろう。

この春は、賃上げに踏み切る企業も続出したが…

ここ最近の物価高の流れから、一時期「最低賃金を全国一律1500円に」という声もSNS等に上がった。

 

●最低賃金制度とは

最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。

 

●最低賃金の種類

最低賃金には、地域別最低賃金及び特定最低賃金の2種類があります。なお、地域別最低賃金及び特定最低賃金の両方が同時に適用される場合には、使用者は高い方の最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。

 

出所:厚生労働省「最低賃金制度の概要」より

 

最低賃金の「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」だが、前者は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用されるものであり、後者は、特定の産業について設定されているもので、令和2年4月1日現在、全国で228件の最低賃金が定められている。

 

最低賃金が適用されるのは、毎月支払われる基本的な賃金だ。実際に支払われる賃金から「①結婚手当など、臨時に支払われる賃金」「②賞与など、1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」「③所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金」「④所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金」「⑤午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分」「⑥精皆勤手当、通勤手当及び家族手当」を除外したものが対象となる。

 

2022年度の全国平均(全国加重平均:全国の最低賃金を都道府県ごとの労働者数で重み付けして平均した額)は961円。SNSで話題となった「1,500円」と比較すると、500円以上の開きがある。

 

都道府県別では、最も最低賃金が高いのは「東京都」で、1,072円。最も最低賃金が安いのは「沖縄県」をはじめとした10の地域で853円。

 

【都道府県「最低賃金」上位5】

 

1位「東京都」1,072円

2位「神奈川県」1,071円

3位「大阪府」1,023円

4位「埼玉県」987円

5位「愛知県」986円


出所:厚生労働省『地域別最低賃金の全国一覧』より

平均月収21万円の非正規社員、時給換算すると…

厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』によると、正社員(男女)の平均月収(所定内給与)は32.3万円。労働時間から換算すると、時給は1,948円だ。男性に限ると、平均月収は34.8万円、時給は2,088円と「時給2,000円超え」となっている。年齢別(20代~60代前半)では、男性正社員の場合、20代前半は時給1,305円だが、20代後半で1,546円超。以来、全年代で時給1,500円に届く格好だ。


一方の非正規社員(男女)だが、こちらは平均月収は21.6万円、時給換算1,345円で150円ほどのギャップがある。男性に限ると、月収は24.1万円で時給換算1,480円。惜しくも1,500円には届かない。年齢別では、男性非正規社員の場合、時給1,500円を超えるのは50代前半と60代前半のみであり、現役時代はほぼ1,500円には届いていないという状況だ。

 

【年齢別「非正規社員と正社員」の時給】

 

20~24歳:1,145円/1,305円

25~29歳:1,298円/1,546円

30~34歳:1,342円/1,781円

35~39歳:1,364円/2,008円

40~44歳:1,414円/2,183円

45~49歳:1,432円/2,324円

50~54歳:1,505円/2,531円

55~59歳:1,472円/2,566円

60~64歳:1,685円/2,105円

 

出所:厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』より算出

 

もし最低賃金が1,500円だったら、非正規社員の月収は24.5万円、手取りは19万円ほどになる。十分かどうかは別として、上述の「手取り16万円」と比べれば、まだ人間らしい生活が送れるかもしれない。

 

この春は、大手企業の動向から「賃上げ」ムードが高まったが、非正規社員の賃上げは期待できそうにもない。

 

東京商工リサーチによると「賃上げを行う」とした企業は全体の80%だが、「非正規社員の賃上げ」となると55%に留まる。一部、イオンなどの大手で非正規社員の賃上げの動きがみられが、日本全体に広がる勢いはなさそうだ。

 

賃上げはまず正社員から。非正規社員の順番はその次に…となるのが現実的か。非正規社員が〈人間らしい生活〉を手に入れるのは、果たしていつになるのだろう。

 

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