SDGsを具体的な取り組みに落とし込む
【Step3 目標を設定する】
3番目のステップは、Step2で定めた優先課題に期限と定量的な目標を付与することである。定量目標とはKPI(主要業績評価指標)を設定することである。例えば、「2050年にカーボンニュートラルを実現する」という大きな目標を立てたとする。しかしこれだけでは2050年までの進捗状況をはかることができない。
そこで「2025年には2020年比で温室効果ガス排出量を△△%削減する」などと具体的な指標を設定するのである。この場合2020年の数値をベースラインと呼ぶ。ベースラインに対して「2025年には□□%改善する」といった考え方となる。ベースラインの設定のあり方が目標達成の可能性を大きく左右する。ベースラインの選択理由を明確にしておくことが重要である。
ベースラインに対して設定した目標は、一見「到達が難しいのでは」とも見てとれる意欲的な目標が良い。これをムーンショットと呼ぶ。控えめな目標より意欲的な目標の方が、大きな影響や達成度が期待できるのである。その高い目標を達成すべく、イノベーションや創造性を発揮させる活動が生まれる。
意欲的な目標を設定するにあたっては「アウトサイド・イン・アプローチ」という考え方を取り入れる。これは、外部(自社を取り巻く業界、社会、世界)から求められる期待値に基づいて目標を設定することであり、企業は現状の達成度と求められる達成度のギャップを埋めていくことになる。
ここでの重要なリーダーシップは、いかに意欲的な目標設定を行えるかということになる。そこから逆算して1年後・3年後・5年後のKPIを設計するバックキャスティング思考がポイントとなる。
【Step4 経営へ統合する】
4番目のステップは、目標を設定した優先課題を経営へ統合する、すなわち事業活動や経営活動に具体的に落とし込む活動である。またそれらは自社単独での取り組みで終わるのではなく、より大きな成果を目指して広くパートナーシップのもと取り組みを強化することも検討しなければならない。
設定した優先課題はそれ自体では大きな概念で抽象的なものも多い。それを事業活動や経営活動に落とし込むには、取り組みの主となる部門や個人を明確にして具体的なアクションに紐づけることである。
例えば、環境に配慮した調達活動を具体的に推進するのは主に調達部門、温室効果ガス排出を削減する取り組みは製造部門が主体となる。このように、全社の課題→部門の課題→個人の課題とブレークダウンすることで具体性が増す。また、一部門だけでは解決できない課題に対しては部門横断のプロジェクトを組成して取り組むことになる。
課題への取り組みによるインパクトを最大化させるためには、社外とのパートナーシップで取り組むことを検討していただきたい。検討していただきたいパートナーシップのタイプは3つある。バリューチェーン内の企業とのパートナーシップ、業界におけるリーディングカンパニーとのパートナーシップ、行政とのパートナーシップの3つである。
ここでの重要なリーダーシップは、具体的な活動に落とし込むプランニング力となる。どの部門の誰をリーダーとするのか、そのリーダーを中心としていかにメンバーを巻き込むのかといった具体的な活動につながるプランニング力が求められる。また、日本人は苦手だとされる社外とのパートナーシップの構築は、まさに重要なリーダーシップとなる。
【Step5 報告とコミュニケーションを行う】
最後の5番目のステップは、積極的な情報発信、情報開示であり、さらなるチャンスを呼び込むことにつながる重要な活動である。
持続可能な取り組みやそれによる定量的な成果を開示することをSDGsは強く求めている。SDGsは世界共通言語であり、正しく取り組んでいる成果を社内外へ発信することは国内外問わず様々な面でプラスの効果をもたらす。社内に向けての情報発信は社員のエンゲージメントやモチベーションの向上につながる。
自分たちの日々の活動が社会貢献につながっているということが自負心となり、実際に離職率の低下や生産性の向上、イノベーションの創出につながった企業も多い。また、社外に向けての情報発信は企業のブランディングにつながる。新しい顧客との接点を生み出すことや、優秀な若手人材との接点創出につながった企業も多い。
ここでの重要なリーダーシップは、情報発信力をいかに高めるかというPR力になる。SDGsへの取り組み情報を正しく大いに発信することが企業価値を高めるのである。
SDGs経営を成功させる重要なポイントは“自社らしさ”
ここまで見てきたように、それぞれのステップにおいて重要なポイントは多々あるため、一つ一つ本質を押さえて取り組んでいただきたい。そのうえでSDGs経営を大局的に俯瞰してみると、結果的に「自社らしいSDGsへの取り組みとなっている」ことが重要なポイントである。
自社だからこそ解決できる課題、自社だからこそ解決せねばならない課題への戦略的な取り組みが未来の良き社会環境を作り上げ、その上に立つ自社の持続的な成長が実現するのである。
(参考)
・SDG Compass
https://sdgcompass.org/
巻野隆宏
株式会社タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
エグゼクティブパートナー