T氏の家計は破綻寸前…CFPが行った「5つの助言」
筆者はT氏から話を聞き、CFPとして以下の5つの助言を行いました。
2.年金の受給額には限度がある
3.身の丈にあった生活をする
4.借入金での心配事は躊躇なく借入先の金融機関に相談する
5.年齢や自分の気持ちに正直な生活をする
それぞれ、詳しくみていきましょう。
1.ライフプラン(人生設計)はターニングポイントごとに見直す
家計の収入・支出や貯蓄額は、就職や結婚、子どもの誕生、住宅購入、退職、相続など、人生の節目ごとに見直すべきものです。
しかし、T氏は長いあいだ、住宅購入時にハウスメーカーでしてもらったシミュレーション結果を信じ込んでいました。
そのため、子どもが誕生し、妻が働くのをやめ、家計の支出が変化しても、T氏の給与が順調に増えていたこともあってか、ターニングポイントごとに見直すことはありませんでした。T氏は常々会社の内外で、「60歳の定年で完全リタイアする」と公言していたのです。
ところが、このままでは60歳以降も働かなければ62歳で退職金を使い果たし、住宅ローンの残債を約2,309万円も残して家計破綻する未来が迫っています。
2.年金の受給額には限度がある
公的年金のうち「老齢基礎年金」の受給額は、20歳から60歳までの40年間滞りなく国民年金保険料を納付していれば、77万7,800円(令和4年度)です。納付していない月があれば、ここから減額されます。
また、「老齢厚生年金」は、厚生年金保険料を納めた人が、老齢基礎年金といっしょに受給できます。老齢厚生年金の受給額は「報酬比例年金額+経過的加算額+加給年金額」の計算式で算出できます。
詳しい計算方法は省略しますが、報酬月額(ここでは“毎月の給与”と読み替えてよい)を保険料額表※の1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分け、その等級に該当する「標準報酬月額」によって、受給額を算出します。
※ 日本年金機構HP「令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和4年度版)保険料額表」
したがって、T氏のように100万円以上月収があっても、標準報酬月額の上限は32等級の65万円で計算されるため、思うほど年金がもらえないことがわかります。
3.身の丈にあった生活をする
T夫婦のように見栄を張った生活を続けても、高揚するのはそのときの自分たちだけで、周りがなにか評価をしてくれるわけではありません。また、いずれ家計の行き詰まりが懸念されます。
収入と支出、そして将来の支出に備え、貯蓄をしながら地に足をつけた生活をするのが一番です。
4.借入金の心配事は、躊躇なく借入先の金融機関に相談する
心配事を金融機関に相談するというのは、見栄っ張りのT氏にとっては屈辱的なことかもしれません。しかし手遅れになる前に、現在のT氏がもっともすべき行動です。銀行に現状を話して、善後策を検討してもらいましょう。
なお、T氏に、子どもの大学受験の時期を考慮したい気持ちや、「任意売却して住宅ローンを完済し、手元に残った資金でどこかに住みたい」といった意向があれば、それも相談時に話すといいでしょう。
5.年齢や自分の気持ちに正直な生活をする
T氏がある夜、ぼそっと「会社勤めに疲れた」と妻にこぼすと、妻も「実は近所に隠れてパートに行ったり、無理してお金持ちと付き合うのには疲れた」と話したそうです。
人生100年とはいわずとも、T夫婦は人生の折り返し点を過ぎたばかりです。夫婦間でも話し合いながら、決して派手ではないかもしれませんが、いまの2人に合った生活ができることが幸せな老後の秘訣でしょう。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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