(※写真はイメージです/PIXTA)

消費税収(一般会計分)は、増税前の2013年度に比べて11兆円以上も増えました。しかし、家計消費は6.4兆円以上も減ってしまっています。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

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消費税率を引き上げると物価があがる?

■未完のアベノミクス

 

アベノミクスのなかで物価が上昇しつづけた理由は、消費税の増税です。2014年4月、安倍政権は消費税を5パーセントから8パーセントに引き上げます。

 

繰り返しますが、消費税増税分は消費者にとっては小売価格の値上げと同じなので、当然ながら需要を押し下げます。そして落ちる需要を引き留めるために値下げが行われるので、デフレ傾向を強めていくことになります。

 

内閣府でこの増税を仕組んだ某エリート官僚は、「消費税率を引き上げると物価が上がりますからねぇ」と私にうそぶいていたものです。手段はなんであれ、物価さえ上がれば脱デフレだという不見識極まる官僚が日本を壊してきたと言えます。

 

この消費税増税、じつは安倍氏はためらっていました。それでも三党合意に束縛されました。三党合意とは、2012年6月に行われた民主党政権(野田佳彦内閣)のときに民主党、自民党、公明党の三党による社会保障と税の一体化改革に関する合意のことです。

 

そのなかで社会保障の安定財源を確保するために、消費税を5パーセントから8パーセントにすることが盛り込まれていました。三党合意を反古にするためには、法改正が欠かせません。

 

そればかりではありません。信頼を置く日銀黒田総裁の進言です。2013年秋は、翌年四月からの増税を実施するか延期するかの最終判断を迫られます。そのとき、黒田総裁が「テールリスク」(発生確率は極めて低いが、起きれば破滅する)論を振りかざし、国債暴落リスクを口にし、安倍氏を脅したのです。

 

安倍氏は後で周辺に、「ポリティカル・キャピタルがなかった」と語っていたそうです。ポリティカル・キャピタルとは米国の政治用語で、反対勢力に対して自らの意見を押し通せるだけの政治的影響力という意味です。

 

これで消費税率の引き上げが終わったわけではなく、2019年10月には景気減速の最中にもかかわらず10パーセントに引き上げられます。それも、三党合意のなかにあったからです。安倍氏は、10パーセントへの引き上げを2回にわたって延長して抵抗しますが、ついには上げざるを得なくなりました。

 

消費税率引き上げは、せっかく労働者が受けとる賃金そのものである名目賃金が上がっていたにもかかわらず、名目賃金から消費者物価指数を除した実質賃金を下げることになりました。これによって、GDPの6割を占める家計消費は萎縮してしまいます。

 

2021年度の政府の消費税収(一般会計分)は、増税前の2013年度に比べて11兆円以上も増えました。しかし、家計消費は6.4兆円以上も減ってしまっています。それだけ、国内需要が減ったことになります。

 

国内需要の減退を目の当たりにした企業は、人件費の節約を一層強化します。製品が売れなくなって利益が減る分だけ、コストを抑えなければやっていけないからです。

 

正規雇用でも、転職が難しくなる40歳以上の給与水準の低下は顕著で、給与を下げても退職されるリスクも少ないので、企業側も安心して下げるわけです。中高年に比べて昇給が優先される傾向にある若手も、先輩たちの低賃金を見て労働意欲を失うことになります。経営側としては工夫したつもりでも、全体の労働効率を下げてしまっているのが現実です。

 

2021年4月に、安倍氏が会長を務める「ポストコロナの経済政策を考える議員連盟」の勉強会に、私は講師として招かれました。その冒頭で私を紹介する安倍氏は、「田村記者には筆誅を加えられました」と述べました。全国紙がことごとく消費税増税に賛成するなか、私だけがデフレ圧力を強めるとして、安倍政権の消費税増税を批判したからです。

 

そして安倍氏は『正論』2022年2月号、米エール大学の浜田宏一名誉教授との対談で、「最初の消費税の3パーセント引き上げですが、税収の5分の4は借金を返すために引き上げたことが(中略)デフレ圧力にもなってしまった」と語っています。

 

さらに、「デフレから脱出するというロケットの推進力が大気圏外にでていく際に少し弱まってしまった」とも述べ、「プライマリーバランス(社会保障などの政策的経費を税収で賄えているかを示す指標)の黒字化をめざしていくという大きな政府与党の方針である程度縛られてしまった。私の反省点です」と無念さをにじませていました。

 

安倍氏が言及している「プライマリーバランスの黒字化」は、国債償還費を除く財政支出を税収・税外収入の範囲で抑えることを意味しています。防衛、インフラ整備、教育、基礎技術研究など国の安全や成長基盤をつくるための財源は、国債発行で賄うのが国際常識です。現行の税収の範囲にとどめようとすれば、先行投資は限られてしまうからです。

 

国力を自らの手で衰退させかねないのが、プライマリーバランスの黒字化です。

 

米国をふくむ先進国で、プライマリーバランスの黒字化を財政目標にしている国は、日本以外にありません。1997年に橋本龍太郎政権が導入して以来、自公政権はもとより民主党政権ですら守ってきました。

 

それが招いたものは、経済のゼロ成長と需要の萎縮です。即ち、デフレ圧力でしかありません。それは、現在も続いています。

 

次ページ安倍暗殺で日本の脱デフレは遠のいた

本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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