(画像はイメージです/PIXTA)

少子高齢化・都市部への人口集中が止まらない日本。進学や就職で故郷を離れ、都市部に生活拠点を築く方が増えています。しかし、その後の相続の発生により、「空き家となった地方の実家」を持て余してしまう方は少なくありません。故郷に戻る予定はないけれど、思い出が詰まった実家を手放すには忍びない…ということで、「空き家状態のまま放置」されるケースが散見されますが、実はこの行為は、法律的に見て非常に大きなリスクとなる可能性が高いため、要注意なのです。本記事では、地方の空き家の保有にまつわる問題を、法的見地から考えます。

地方の実家…売りたい兄・売りたくない弟

以下のような相談事例をもとに考えてみましょう。

 

「私の母が亡くなり、相続が発生しました。母は父が亡くなってから長い間、地方の実家でひとり暮らしをしていました。母の相続人は長男の私と二男である弟の2人で、私は早いうちに実家の土地建物を売却したほうがよいと考えていますが、弟は思い入れのある実家を売りたくないと反対しています。しかし、実際に弟が住むわけでも、私たちが頻繁に帰郷できるわけでもありません。この土地建物を長期間にわたって事実上〈放置〉することになった場合、相続人である私たちには、どのようなリスクが発生するのでしょうか?」

行政との間で起こる可能性が高いトラブルとは?

まず、空き家の所有者と行政との間で、以下の点が問題になります。

 

①敷地内の樹木、道路側への越境で市町村長等から切除の指示も

土地(敷地)に樹木が植えられている場合、定期的な管理(専門業者による剪定など)を怠ると、樹木が成育して道路側に越境することがあります。これによって道路の構造、または交通に支障を及ぼすおそれがある場合には、道路管理者(国土交通大臣、県知事、市町村長など)から、切除等を命じられることがあります(道路法43条、71条)。

 

②建築物の老朽化による倒壊リスク

また、建築物の所有者は、建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならないとされているため(建築基準法8条)、所有者が定期的な修繕を怠る、建物の老朽化が進むなどして倒壊の恐れがあり、歩行者や近隣住民などに危険が生じる場合には、特定行政庁が必要な措置をとるよう命じることができます(同法9条)。さらに、必要に応じて行政代執行(行政庁が義務者のなすべき行為を代わって行う行政上の強制執行の一種で、その費用は原則として義務者の負担になります)を行うことができるとされています。

 

③ごみの不法投棄や不審火などによる周辺環境への悪影響

加えて、空き家対策特別措置法においても、空き家等の所有者は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空き家等の適切な管理に努めるべきとされています(同法3条)。管理せずに放置することで、害獣が棲みつく、ゴミの不法投棄が行われる、不審火が発生するといった懸念があります。そのため、適切な管理がなされない場合は、市町村長が必要な措置の勧告・命令を行い、最終的には行政代執行を行うことができるとされています(同法14条)。

 

④「住宅用地の特例」からの除外

最も懸念されるのが、「住宅用地の特例」からの除外です。住宅用地の特例とは、住宅の敷地である住宅用地の税負担を特別に軽減してもらえる制度です。しかし空き家については、状態によっては住宅とは認定できないものもあるため、この特例が適用されない場合があると国から示されました(平成27年2月26日付け総務省・国土交通省「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」)。

 

そして、①構造上住宅と認められない状況にある場合、②使用の見込みはなく取壊しを予定している場合、③居住の用に供するために必要な管理等を怠っている場合など、今後人の居住の用に供される見込みがないと認められる場合には、住宅には該当しないものとされています(平成27年5月26日付け総務省自治税務局固定資産税課長 総税固第42号)。

 

以上を踏まえ、空き家等の状況調査を進めていくと公表している自治体もありますので、十分な留意が必要です。

近隣住民との間で起こる可能性が高いトラブルとは?

隣地の所有者などの周辺住民や通行人との間にも、以下のような問題が生じるリスクがあります。

 

①敷地内の樹木の越境による、切除の手間・費用負担の発生

土地にある樹木が大きくなりすぎ、隣地に越境してしまったら、所有者が枝を切除しなければならなくなる可能性があります(民法233条)。そしてその費用は、所有者が負担することになると考えられます。

 

②建物の外壁の崩落、屋根の積雪などによる危害の問題

また、建物の外壁が崩落するなどして道路の通行人が怪我をした場合や、必要な雪下ろしを怠り、落雪によって隣家に被害を及ぼした場合など(土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたとき)は、これらの建物の所有者は、被害者に対して損害賠償する責任を負う可能性があります(民法717条但書)。

 

③民法改正で、保有者の義務はさらに重く…

加えて、民法改正により2023年4月1日から、所有者による土地や建物の管理が不適当なため、他人の権利や、法律上保護される利益が侵害された場合または侵害されるおそれがある場合、裁判所が必要だと認めるときは、利害関係人の請求によって、該当の土地や建物を対象として、管理人による管理を命じる処分ができるようになりました。そして、管理に必要な費用や報酬は所有者の負担になるとされています(民法264条の9~14)。

売却か保有か、相続後に適切かつ速やかな判断を

もちろん、「子ども時代を過ごした思い入れのある家だから、すぐには売りたくない」という気持ちはわかります。しかし、上記のことから、実家の不動産の管理を継続し、建物を適切に維持する義務があること、また、その費用を自ら負担しなければならないことを念頭に置いておく必要があります。

 

思い入れのある家だから手放さない、けれども、適切な修繕管理は行わずに放置する…といった行動は、将来、行政や周辺住民との関係において、大きな問題が発生するリスクとなり得るのです。

 

したがって、もし「手放さない」という選択肢を考えるなら、今後の維持管理にどの程度の費用がかかるのか、専門家に見積もってもらうことも必要でしょう。その結果、費用負担が難しいようなら、近隣住民や実家近くに暮らす親族など、土地建物を有効活用してもらえる方への売却等を、速やかに検討すべきだといえます。

 

空き家として放置される前なら、購入希望者も早く見つかる可能性が高くなります。逆に、放置される期間が長くなるほど、売却は難しくなっていきます。

 

それらのことから、相続後はできるだけ速やかに必要としてくれる方に売却する、売却に抵抗があるなら、賃料を低めに設定してでも賃貸に出すといった措置が必要だといえるでしょう。(情報は2023年3月8日時点のものです。)

 

 

山口明
弁護士、日本橋中央法律事務所

※本連載は、NTTファイナンス株式会社の楽クラライフノートから転載したものです。

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