進む、日本企業の国内回帰
やすお:今の日本は、この通りに進んでいるのでしょうか。
永濱:そうですね。今の日本は、2022年の3月から急に円安が進みましたから、輸出の量が増える効果は、2023年から大きく出てくるでしょう。
設備投資に関しては、生産拠点の国内回帰が、2022年からいろいろなところで出てきています。日本企業だけでなく外資系の企業も日本に工場を作り始めました。
その代表的な例が、世界的な半導体受託企業である台湾・TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company:台湾積体電路製造)の熊本工場です。
やすお:あれ、それって四大卒の技術者の初任給が28万で、近隣の賃金よりも3割も高くて…みたいなニュースが出てた企業でしたっけ?
永濱:そうです、よくご存じですね。熊本市街地はコロナ禍の影響で空き店舗が乱立し、厳しい状況が続いているようなのですが、TSMC熊本工場の近辺は超好景気らしいです。
やすお:へえ! そうなんですか。
永濱:TSMCの熊本工場の周りには、以前からシリコンアイランドとして名だたる企業の工場が立ち並んでいるのですが、そこにさらに大きな工場ができると、その周りの住居やお店や学校などが足りなくなります。そうした建設ラッシュで沸いているのです。
やすお:すごいな。周辺の経済がかなり活性化するんですね。
永濱:この熊本のような例のみならず、生産拠点の国内回帰が他の地域でも少しずつ起き始めていて、地元が大盛り上がりとなることもあるようです。
やすお:いやあ、すごいな、円安効果。
永濱:もちろん、国内回帰が起きている要因は円安だけではありません。「半導体確保のような経済安全保障※のため」「他国への技術流出を防ぐため」「国内の人件費に割高感がなくなってきたから」など、さまざまな要因があります。
※ 一国の経済体制や国民の社会生活の安定の維持を目的に、エネルギー・資源・食料などの安定供給に努めること
ただ、もし今が1ドル80円の状況だったら、ここまで国内工場の新設計画は出なかったでしょう。
やすお:生産拠点が新たにできることで、景気が良くなりそう。喜ばしい傾向ですね。
永濱:設備投資の増加はマクロのデータでも証明されていて、日銀が調査を実施している日銀短観(全国企業短期経済観測調査)によると、2022年度の設備投資計画は、現行基準で集計された2004年度以降で最高の伸びを見せています。このまま行くと2022年度の設備投資は95兆円程度まで行く可能性があります。
これはバブル崩壊直後の92年以来の水準です。設備投資はちょっと輸出よりも早めに効果が出やすいんですね。
やすお:ここにも、円安のプラスの効果が出ているのですね。
永濱:2022年の夏から秋にかけては、円安になってそんなに時間が経っていないので、一番先に効いてくる輸入品の値上がりの影響が出ていて、マイナスを感じやすい状況でした。
「だから、円安はけしからん」みたいな大騒ぎになりましたが、経済全体で見ると、そういう側面だけではないんです。