共働き夫婦の年金額でも、ゆとりある老後生活は厳しい
厚生労働省のデータによると、2021年、国民年金受給者の平均年金額は老齢基礎年金で月5万6,479円、厚生年金受給者は老齢厚生年金で月14万5,665円。ここには繰り上げ受給者も入っているため、65歳以上に限定すると、男性で16万9,006円、女性で10万9,261円となる。
単純計算、元会社員の夫と専業主婦という組み合わせなら、月22.5万円程度。元会社員の共働き夫婦なら、月28万円程度を受給することになる。
老後の生活で、ほとんどの人が収入の柱としている公的年金だが、当然ながら、いくらもらえるかによって生活の状況は大きく変わる。年金で足りない分は、貯蓄から取り崩す形になるが、ひたすら減り続ける預金残高を見れば、不安は増大していくだろう。本当なら、貯蓄を大きく取り崩すことなく生活していけることが望ましい。
総務省の『家計調査』によると、2021年「無職:65歳以上夫婦のみの無職世帯」の平均月支出額は26万円程度。共働き夫婦だったなら、年金だけでの生活も可能だろうが、片働きだと月3.5万円、1年で42万円ほど貯蓄を取り崩す必要がある。
また、生命保険文化センターの『生活保障に関する調査』(2022年)によると、「老後の最低日常生活費」は平均23.2万円だ。分布は「20万~25万円未満」が最多で27.5%、「30万~40万円未満」が18.8%、「25万~30万円未満」が14.4%と続く。「ゆとりのある老後生活費」の場合は平均37.9万円。旅行やレジャー、日常生活の一層の充実のためには、最低生活費プラス、月15万円近い余裕が必要だ。
これらから考えると、余裕のある老後を叶えるなら、共働きでも月10万円、1年で120万円、片働きであれば月15万円、1年で150万円ほど足りないという計算になる。
このことからも、多くの年金受給者にとって、年金のみで余裕ある老後の実現は難しいといえる。
想定外の長生きで「老後破綻」のリスクも
では、余裕のある老後の実現を目指すなら、貯蓄はいくら必要か。
2021年、男性の平均寿命は81.47歳、女性の平均寿命は87.57歳。65歳から年金を受給し、そこから20年強と想定した場合、単純計算で共働きなら2,400万円、片働きなら3,000万円が必要だ。
だが、平均寿命以上に生きる人は少なくないし、自分がいつまで生きるかなど、だれにもわからない。平均寿命に基づいて預貯金額を算出しても、そでもって「長生きリスク」をカバーできるとは限らないのである。
そもそも平均寿命とは、若くして亡くなった人たちの数値も含まれており、「生存率」と比較すれば、若干のズレも生じる。
厚生労働省『簡易生命表』によると、男性の生存率は27歳まで99%台。62歳で90%を割り込み、原則、年金を手にするようになる65歳では生存率86.75%。平均寿命である81歳の生存率は51.85%で、82歳で50%を割り込みます。つまり、平均寿命を過ぎても、役半数の人は、そのも人生が続いていく。以降は死亡率の増え方が急になり、90歳の生存率は16.72%だが、それでも6人に1人は存命している。100歳の生存率は1.41%。100人に1人は人生100年を迎えます(関連記事:『【早見表】年齢別「生存率」0~100歳…<令和3年 簡易生命表>』)。
注目すべきは、女性の生存率のさらなる高さだろう。65歳の時点で93.27%が生存し、男性の平均寿命となる81歳でも73.79%は生存している。そのため、男性の平均寿命を前提に資産形成を考えるのは危険だ。
女性の場合、平均寿命である87歳では52.55%、90歳では38.06%と、4割弱が90代を迎える。そして100歳の生存率は8.84%。およそ11人に1人が100歳まで生存する。
この数字を見る限り、女性の場合「人生100年時代」は比喩ではなく現実だ。老後35年は見据えたほうがいい。つまり「余裕のある老後」を叶えるのであれば、共働きなら4,200万円、片働きなら5,000万円強が必要となるといえる。
もちろん、年金生活に入った当初の出費が、以降も継続するとは限らない。単純計算で導いた金額ほどは必要ないかもしれない。だが、現役時代とは異なり「増やせない」という前提を考慮するなら、「いくら準備したところで、十分とはいいきれない」というのが実情ではないだろうか。
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