年金受給額「足りないのは明らか」
近年、多くの日本人は不安にさいなまれている。長期にわたるゼロ金利の一方、加速するインフレ。社会保険料・税金はジワジワと上昇を続け、公的年金の不足や老後資産の形成も、非常に頭の痛い問題だ。一般的な日本国民の生活から、次第に「安心」「ゆとり」が消えている。
このような状況下、現役世代の手取り収入はどうなっているか。
国税庁『民間給与実態統計調査』(令和3年分)によると、日本の給与所得者数は5,270万人、平均給与は433万円。正社員(正職員)508万円、正社員(正職員)以外198万円となっている。
平均給与443万円、月換算で37万円程度。人にもよるが、手取りではだいたい30万円程度といったところか。年金は「手取り収入のおよそ5割」であるため、14~15万円が給付水準と考えられる。
厚生労働省年金局発表の『令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』から年金受給額の状況を見ていくと、公的年金被保険者数は、令和3年度末現在令和3年度末現在で7,698万人。前年度末に比べて 33万人(0.4%)増加している。
令和3年度末における厚生年金保険(第1号)の老齢給付の受給者の平均年金月額は、併給する老齢基礎年金の額を含めて、老齢年金が14万6,000円、通算老齢年金が6万3,000円となっている。
一方、月々の支出は、厚生労働省『平成29年 年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)』によれば、平均支出額(月額)25万5,000円だ。65歳以上は年齢の上昇に反比例して平均支出額が下がっていくものの、それでも年金月額15万円弱の生活は厳しいことに変わりない。
定年後、自営業をするはずが「そもそも仕事がない」
現在、年金についても、繰下げ受給して少しでも増額しようと考える人が増えているようだ。
東京都在住の61歳・自営業の男性は語る。
「60歳まで、割と古くからある編集プロダクションで働いていました。新卒で印刷会社に就職したのですが、転属先の上司と合わなくて悩んでいたとき、仲良くしていた編集者が声をかけてくれて、20代後半で転職しました」
――入社以降、ずっと編集制作の仕事を?
「まあ、そうですね。入社した当時の社長は顔が広くて、大手出版社にいくつもツテを持っていました。書籍とか雑誌とか、いろいろ担当しましたよ。時間に追われて、結構大変でしたけれど…」
――60歳で定年退職されたのですね。
「なし崩し的に居座ることも可能でしたが、人間関係がややこしくて。途中から社長の息子が営業部門の責任者として入社してきたのですが、パワハラ気味な人で、若い子はどんどん辞めちゃうし、私も一回り以上年下に、ガミガミいわれるのに疲れてしまったというのが、正直なところです」
――退職金などの状況は?
「退職金制度はありません」
――いまはどのようなお仕事をされているのでしょう?
「自営業で、編集者兼ライターのような仕事をするつもりでした。カメラマンやデザイナーのコーディネートなども。月に20万円ぐらい稼げればいいと思っていて、大丈夫だと踏んでいました。しかし、定年退職してもうじき1年ですが、ほとんど仕事らしい仕事がありません」
――ほとんど仕事がない状態ですか?
「ええ。取引先もどんどん仕事の規模を縮小していますし、頼みの綱にしていた知り合いも、いつの間にかいなくなってしまいました。企業相手に営業メールなどを送っていますが、なしのつぶてです。だからいまは、いろいろなアルバイトをしながら、別の道を探しています」
――年金は?
「今から受け取ってしまったら、金額が下がってしまうでしょう? 予定では、できる限り繰り下げるつもりでしたが、それも厳しいかもしれません。このまま65歳まで持ちこたえるのが、とりあえずの目標です」
この男性の配偶者は50代の会社員だという。
「妻は小さな会社の中間管理職なんですが、定年退職後も嘱託として残れるそうなんですよ。プロダクション勤務のときも給料で負けていたのに、いまもこんな状態で、本当に肩身が狭くてたまりません」
――ご家族の状況や、老後生活の準備などはいかがでしょう?
「息子がひとりいますが、もう30代で、かなり前に結婚して家を出ていますよ。いま暮らしているマンションは、妻が相続したもので、正直助かっています。貯金は私が400万円ぐらい。妻はマンション以外に現金も相続したみたいですが、絶対に口を割りません(笑)。妻からは、アルバイトでいいから働け、とにかく働けと、日々プレッシャーをかけられています。もらえる年金も少ないですし、生きていくにはとにかく働くしか…」
この男性は、定年退職後は自営業でなんとかなるという見通しが、そもそも甘かったと語った。
「働く意欲ある高年齢者が、能力を発揮できるよう…」
2021年4月1日より改正高年齢者雇用安定法が施行された。厚生労働省のウェブサイトには、下記のような説明が掲載されている。
日本経済や少子高齢化の現状を思えば、長く働くことは理にかなっているのだろうが、やはり人それぞれ、健康状態も、気力体力の面でも、個人差は大きい。仕事の内容も、当然だが、好きに選べるわけではない。
老後資産形成として、金融商品への投資も選択肢だが、商品選びや運用には正しい理解や慎重さが求められる。
安定した老後を送るには、慎重な人生設計と「適切なお金の知識」を持つことが何より重要だといえる。
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