動物医療でも「早期発見・早期治療」が重要だが…
大都市でペットを飼おうと思ったときの入手先の多くはペットショップです。ペットを購入する際は、いつ頃どんなワクチン接種をしたらよいか、犬種(猫種)によってどういう病気になりやすいから注意してほしいなどと、アドバイスを受けます。また、飼い主となったときからペットがかかりやすい病気など基本的な知識と意識をもつよう働きかけられ、必要な場合にはサポートを受けることもできます。その結果、ワクチン接種を受けるならどの動物病院に行こうかと考えたり、病気になったらどの動物病院にいけばよいかをリサーチしたりする人が多いはずです。
一方、地方ではまだまだ、自分が飼っているペットが子どもを産んだために引き取ってくれる人を探して譲り渡すというケースも多く、法律で決められたワクチン接種のために保健所に行くくらいで、特定のかかりつけ動物病院は決めていない飼い主もいます。そのような場合、ペットが病気になったときも状態がかなり悪くなってから飛び込みで受診してくることがほとんどです。
病気を早期発見し、早期治療をすることが大切なのは人間の医療でも動物医療でも同じです。早い段階で病気が見つかれば簡単な治療で治すことができますが、治療開始が遅れればその分症状が進行し、治療も難しくなってしまいます。もう少し早く受診してくれていたらこんなことにはならなかったのに、と思うことは当時もたくさんありました。
ただ、獣医師にも飼い主にも、難しい病気だったら諦めるという気持ちがあると、病気に立ち向かう意欲も低下し、いち早く異常を発見して治療につなげようという空気になりにくいことは感じていました。
どんな病気でも治す。だからこそ、ペットたちの様子がおかしかったら早い段階で診せてほしい、と自信をもって言えたなら、助かるペットの命はもっと多かっただろうと思うと悔やまれます。
同じ病気でも「大都市なら本当に治せる」という驚き
いくつもの命を目の前で諦めていくうちに、獣医学書に載っている治療を目の前で確かめたくなってきました。もし自分のスキルが不足しているのなら、まずは高めるしかないと思ったのです。
そこで地元の動物病院に3年勤務したのち、研修施設が充実している母校の大学病院の研修医として勤め始めました。人間の医療なら大学卒業後にそのまま母校の研修医になりますが、動物医療の場合はどの時期でも大学病院の研修医になることができます。研修医として大学病院で勤務し始めると、私のように一度学外で就職したものの、その動物病院でできないことが多かったからと、改めて学び直したいという人が思いのほか多くいました。
大学病院では獣医学書で見たような、別世界での治療が日々行われていました。
例えば、勤務医時代に多く目にしたのが胆嚢の疾患です。血液検査をすると肝臓や胆嚢の数値がとても悪く、おそらくその部位が悪いのだろうということは察しがつくのですが、適切な治療方法が分からず、そのまま症状が悪化して亡くなってしまうということがありました。
大学病院で同様の診察をすると、当たり前のように手術をして悪くなった胆嚢や破裂した胆嚢を切除していました。すると、そうした動物たちはみるみる元気になっていったのです。大学教員の獣医師たちはまず症状や血液検査から胆嚢疾患と推測し、超音波断層装置(エコー)で確定し、手術をしていました。
ほかの病気でも、エコーやCT検査をして適切な治療をすれば動物たちはまるで何事もなかったかのように元気を取り戻していくのです。同じ病気でも地方にいれば助からない動物も少なくないのに、大学病院では救ってあげられることができるという事実に強い衝撃を受けました。胆嚢疾患の例でいえば、水戸の動物病院にいたときにはその場ですぐ胆嚢疾患と特定することすらできなかったのですから、地方の医療と大都市の高度医療はこんなに違うのかと驚きの連続でした。私と同様に、高度な医療技術を身につけたいと研修医になった仲間も同じように感じていたはずです。