心地よい「成功者のアドバイス」だが…
パチンコ店やカジノなどを覗いてみると、店内には大儲けして笑いがとまらない人が大勢いるでしょう。それを見て、「この店は客に優しい店だから、自分でも勝てるかもしれない」と考えるのは危険です。
朝から1000人の客が来て、990人は負けて帰宅し、勝っている10人だけが店内に残っている、という可能性が高いからです。そんなときに読者が店に入っても、11人目の勝者になるより991人目の敗者になる可能性の方が遥かに高いのですから。
パチンコやカジノで負けるくらいならいいですが、似たような勘違いによって人生を誤ってしまうような可能性もあるので要注意です。
起業して成功した人や、アーティストとして成功した人などが、
「夢をあきらめず、思い切り努力すれば、私みたいになれる! 頑張って!!」
などと若者にいうことがありますが、そんな言葉は注意深く受け止める必要があります。
その成功者は「大勢の挑戦者の中で勝ち残った人」です。挑戦して敗れ去って惨めな人生を送っている人も大勢いるはずなのですが、そうした人は若者の前で「夢を追わずに現実を見つめろ」などと演説することはありません。したがって、夢を追うと必ず成功するのではなく、失敗する確率が高い、ということに気づかない若者がいるかもしれないのです。
本当に努力して成功を勝ち取った人の話は、まだマシです。それ以上に要注意なのは無責任な大人の言葉です。「そんなリスクは避けて無難に生きなさい」というより、「夢があるなら諦めないで!」といったほうが相手の心象がいいので、無責任な人ほど後者の言葉を選びがちです。前者を選ぶ親が子どもと衝突しがちなのは、子どもの人生と真剣に向き合っているからこそ、という場合も多いはずです。
相談に乗る大人のほうも、若者の本音を注意深く探る必要があります。「勉強や就職活動は面倒だから、好きな音楽を楽しみながら、ミュージシャンになる夢に向かって歩こう」といった甘えた本音が見えるなら、「甘い考えでは成功しない、目指すなら本気で努力しろ」と、厳しくアドバイスすべきでしょうね。
リスクを理解したうえのチャレンジなら、可能性あり
筆者は、若者の起業に反対しているわけではありません。若者が、失敗のリスクが高いこと、成功するためには本気で努力する必要があること等々を理解したうえで、それでも夢を追いかけたい、というのであればもちろん応援したい気持ちです。
ただし、「万一夢が破れても、最低限の生活はできる」という目処が立っていることは必要です。夢破れたらすべてがおしまい、というのではいけませんから。それだけでなく、そもそも「現実的な夢」であることも必要です。体育の成績がパッとしないのにプロスポーツ選手を目指す、というのも無謀でしょう。
そうした条件をクリアした起業を筆者が応援する理由は2つあります。1つは、起業の期待値はプラスだと思われること、もう1つには起業の増加は日本経済にとってプラスであること、です。
バクチ好きの人はともかくとして、多くの人は臆病(慎重?)なので、リスクを嫌います。100万円儲かるか100万円損するか五分五分ならば、賭けをしない人が多いはずです。まして、起業して失敗したら路頭に迷いかねない、というリスクを覚悟で挑戦する人は少ないはずです。本人がリスクを避けるというのみならず、親や配偶者等が反対して夢を追えない、という人も多いでしょう。
すると、「確率5割で全財産を失うが、確率5割で全財産が3倍になる」といったチャンスがあっても、だれもトライしないかもしれません。それなら、読者が世の中の人より少しだけ大胆なら(慎重な度合いが少なければ)、期待値プラスの投資チャンスに挑戦できるというわけです。
多くの人が起業すれば、日本経済が活性化します。雇用も投資も増えるでしょう。新しいビジネスが成功すれば、顧客としても、いままで入手できなかった財やサービスを手にすることができるようになるはずです。
既存企業との競争に勝って成功するなら、既存企業が淘汰されてしまいますが、既存企業より効率的で顧客ニーズに合った企業が取って代わるとすれば、それはやはり日本経済にとってプラスでしょう。
米国経済に活気があるのは、米国のほうが日本よりはるかに起業する人が多い、ということも大きな要因であるわけで、日本でも起業が増えて日本経済が活性化することが望まれます。
リスクの面から考えるなら、自分で起業せず、起業する人を10人見つけて資金を10分の1ずつ投資した方がリスクが小さくなり、望ましいかもしれません。期待値がプラスの案件に数多く分散投資しておけば、期待値どおりの利益が得られる可能性が高いからです。
とはいえ、「起業したいから資金を投資してもらいたい」と考えている人を探すのは大変ですし、その人が資金を遊興費に使ってしまうリスクもありますから、自分で起業する、というのも立派な選択肢だといえるでしょう。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家