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<ポイント>
●階段は各階の動線の起点である
●上下階ともに使いやすい配置を心がけよう
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「階段」は動線の要。間取りのセンスが問われる
都市部に限らず、2階建てや3階建てが当たり前となっている昨今では、平屋は贅沢なつくりともいえ、階段を抜きにして間取りは考えられません。階段は上下階をつなぐものですから、各階において、階段の位置の整合性をもたせることが大前提です。1階では使いやすいが2階では使いにくい、ということにならないように考えなければなりません。
各階ともに暮らしやすい生活動線をもったフロアにするために、階段を各階の動線の出発点として考えてみると、いろいろな階段のかたちが見えてきます。一直線の鉄砲階段、折り返し階段、螺旋階段など、その家の間取りに合ったかたちがあり、各階の昇り口・降り口の位置を階段のかたちの違いに応じて使い分けることで、暮らしに則した階段になります。
たとえば、階段を間取りの中心に置いてその周囲に回遊動線をつくれば、暮らしやすい生活動線ができます。階段をリビングとダイニングで挟めば、少しだけ距離感のあるLDKのフロアにもできます。もしかしたら、階段をふたつにすることで、飛躍的に暮らしやすい間取りができるかもしれません。また、階段の縦の空間を使って、上下階のつながりに視覚的な効果を生み出すことも可能です。
最短かつ多彩なのは「階段×回遊」の組み合わせ
回遊性のあるプランはとても暮らしやすいです。回遊のしかたにもさまざまなかたちが考えられますが、そのひとつとして、階段廻りを回遊する方法が挙げられます。階段室をフロアの中心に置き、その周囲のスペースをつなぐことで、自然と回遊動線ができあがります。上下階を結ぶ縦の動線を軸として、横の動線が交差するようにつくられるので、階段への動線を最も短く構成できます。
通常、動線が短くなると単調になってしまいますが、回遊動線にすると階段へ2方向からアクセスできるようになり、生活のアクセントになります。「短いが動きがある」というのは一見、矛盾するようですが、実際に階段廻りを回遊するプランの家を歩いてみると、矛盾が楽しさに変化します。
「階段室×吹抜け」で空間を有効活用
建蔽率50%・容積率80%の敷地の場合(または角地緩和で40%が50%になる場合など)、たとえば1階で45%、2階で35%、合計で容積率80%とすると、1階と2階の面積には10%の差ができます。
この10%分を捨てずに、吹抜け空間として有効に使う方法もあります。階段室は事実上の吹抜け空間となり、その隣り合わせにほかのスペースを設けると相乗効果的に容積が大きくなります。
この吹抜けを2階のLDKと一体の空間にすると、LDKの空間としての床面積は吹抜けの10%+階段室の吹抜け分が追加され、はるかに大きく開放的な空間となります。吹抜け空間は、暮らしに有形無形のよさをもたらしてくれます。
階段を真ん中に置くメリット
生活動線を短くしたいなら、階段の配置が重要な鍵となります。階段をそのフロアの動線の起点と考えると、起点がフロアの端にあれば、反対側まで行くにはどのような計画であろうと動線は長くなります。したがって動線をどこからも短くするには、階段を建物の中心近くに置くようになります。
しかし、平面で見ると、階段が中心近くに配置されることでフロアが分断されることもあります。LDKでリビングとダイニングの間に階段が置かれて分かれてしまう、という具合です。ただ、それは一概に悪いことでもありません。階段から左右に分かれるプランのメリットを有効に組み立てていけば、コンパクトな住みよい家にすることができます。家は「広い」がよいわけではなく、「コンパクト」に納めることも大切です。
本間 至
一級建築士
1956年東京生まれ。一級建築士。1979年日本大学理工学部建築学科卒業。卒業後、1986年まで林寛治設計事務所で実務を通し住宅設計を学ぶ。独立後、東京で設計事務所本間至/ブライシュティフト(一級建築士事務所)を設立し、今までに150軒以上の住宅の設計を手掛け、暮らしやすい間取りをつくる住宅設計者として高い評価を得ている。
主な著書に、『最高の住宅をデザインする方法』『最高に楽しい[間取り]の図鑑』『本間至のデザインノート』『いつまでも快適に暮らす住まいのセオリー101』『小さな家の間取り解剖図鑑』(すべてエクスナレッジ刊)などがある。