子どもがいる場合の「遺族年金」はどうなる?
生徒:公的年金には、老後に長生きしたときの生活費となる「老齢年金」だけでなく、世帯主が亡くなったあとに残された、妻や子どもの生活を守るための「遺族年金」があると聞きました。どのような制度なのでしょうか?
先生:稼ぎ頭の世帯主が先に亡くなったら、奥さんやお子さんが生活できなくなってしまいますね。そんなリスクを守るために、日本には「遺族基礎年金」の制度と、「遺族厚生年金」の制度があって、18歳までの子どもがいる遺族には、生活費が支給されることになっているんですよ。
生徒:18歳までというのは、未成年者という意味ですか?
先生:少々細かな法律の決め事なのですが、年金法上の「子ども」というのは、18歳に達する日以後の最初の3月31日までにある子、または、20歳未満で1級または2級の障害状態にある子で、現に婚姻していない人のことをいうんですよ。
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生徒:遺族基礎年金と遺族厚生年金は、どのように違うのでしょう?
先生:遺族基礎年金は、国民年金に加入していた人たちが、子どもが18歳になるまでもらえる年金のことです。20歳以上60歳未満の人たちは、すべて国民年金に加入する義務があるから、遺族基礎年金はすべての国民がもらえる年金ですね。それに対して、遺族厚生年金は、第二号被保険者と呼ばれる会社員の人たちが遺族基礎年金に上乗せしてもらえる年金なんですよ。
生徒:会社員のほうが、たくさん年金をもらえるんですね。
先生:その分、会社員は年金保険料を多く納めているのですけれどね。
生徒:国民年金に加入していると、いつでも遺族基礎年金がもらえるんですか?
先生:いいえ。年金保険料をきちんと納めていないと、年金はもらえません。保険料を免除されることもありますが、加入していた期間の3分の2以上の期間の年金保険料を納めていないといけないんですよ。
生徒:子どものいない妻はどうなんでしょう?
先生:子どものいない妻の場合、遺族基礎年金はもらえません。会社員の妻だと遺族厚生年金をもらえのですが、自営業の妻は、お気の毒ですが何ももらえないんですよね。
生徒:なるほど。遺族基礎年金は養育費のような感じなのですね。それでは、金額はいくらぐらいになるのでしょう?
先生:遺族基礎年金は、令和4年4月分からは一律77万7,800円、子どもの加算額は、1人目および2人目の子はそれぞれ22万3,800円、3人目以降はそれぞれ74,600円。ひとりっ子は100万円ぐらい、2人きょうだいだと120万円ぐらいと覚えておけばいいでしょう。3人きょうだいはちょっと少なくなって、130万円くらいなんだけどね。
生徒:年間100万円だと、月に8万円ちょっとしかもらえないんですね…。それでは生活が苦しいのではありませんか?
先生:そうかもしれませんね。だから、会社員の夫が亡くなった場合には、遺族厚生年金を上乗せして支給されるんです。しかも、子どもが18歳になったあと、一生涯にわたってもらえます。
生徒:それはいいですね! 遺族厚生年金は、会社員の遺族であれば、みんなもらえるんですか?
先生:いいえ、遺族基礎年金と同じで、加入していた期間の3分の2以上の期間の年金保険料を納めていないともらえないんですよ。
生徒:遺族厚生年金の金額はいくらですか?
先生:年金額は、夫の死亡時までの年収や加入期間に応じて変わるのですが、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3となります。
生徒:老齢厚生年金の報酬比例部分ってなんですか?
先生:老齢厚生年金というのは、会社員が65歳からの生活費として一生涯にわたって受け取ることができる年金のことですね。10年以上加入という要件はありますが…。それの点はおわかりでしょうか?
生徒:はい、老後の年金のことですね。その「報酬比例」とはなんでしょうか?
先生:これは、夫がもらっていた報酬の金額の大きさと、年金の加入期間の長さによって計算する年金額のことなんです。正確な計算式は難しいので、「毎月の報酬の0.6%に加入期間を掛けた金額が、支給される年金の報酬比例部分」と、ざっくり覚えておいたらいいですよ。この4分の3が遺族厚生年金です。
生徒:働いた年数に比例するんですか! そうすると、夫が若くして死んでしまうと、年金額はとても小さな金額になってしまいますね…。
先生:そこは救済措置があります。加入期間が25年未満の場合は、25年間すなわち300ヵ月加入したものとみなして遺族厚生年金を計算してくれるんですよ。仮に、夫が35歳で死亡したら遺族厚生年金は40万円くらい。遺族基礎年金と合わせると、140万円くらいだから、毎月12万円程度は支給されることになります。
生徒:それでも、子どもが18歳になると、遺族基礎年金がもらえなくなってしまいますから、妻の生活は苦しくなりますよね…。
先生:いいところに気がつきましたね。その通りですよ。妻が自分の老齢基礎年金をもらえるようになるのは65歳だから、それまでの期間の収入は、老齢厚生年金だけになってしまいます。そこで、「中高齢寡婦加算」という制度があるんです。
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生徒:なるほど、それはいいですね! 金額はいくらでしょうか?
先生:中高齢寡婦加算は年58万円です。妻が40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子どもがいなければ、受け取ることができますよ。ただし、遺族基礎年金よりも少なくなってしまいます。ですが、それでも子どもが独立したあとですから、妻1人ならなんとか生活できるんじゃないかな。
生徒:それで、妻が65歳になると老齢基礎年金がもらえるようになるんですね! こちらの金額はどのぐらいでしょうか?
先生:20歳から60歳までの保険料をすべて納めていると、満額の老齢基礎年金は約77万円になります。
子どもがいない場合の「遺族年金」はどうなる?
生徒:子どもがいない場合もありますが、妻が1人で残された場合は、どうなるのでしょうか?
先生:夫が会社員の場合、子どもがいなくても遺族厚生年金がもらえることは、先ほどお話しした通りです。しかし、遺族基礎年金は、子どもがいないともらえないんですよ。
生徒:では、夫が自営業の場合「遺族年金ゼロ」ですか?
先生:いいえ。遺族年金ゼロだとしたら、夫が自分で支払い続けてきた国民年金保険料が掛け捨てになってしまって、あんまりですよね。そこで、死亡一時金と寡婦年金の制度があるんです。このいずれかを選択することになっています。
生徒:金額はどの程度でしょう?
先生:寡婦年金は、「加入期間が10年以上ある夫が死亡し、障害年金をもらっておらず、夫婦の婚姻期間が10年以上ある妻」が65歳になるまでもらえる年金で、夫の老齢基礎年金の4分の3もらえることになります。
生徒:その計算だと、かなり少ない金額でしょうね…。
先生:死亡一時金は、「加入期間が3年以上ある夫が死亡し、障害年金をもらっていない場合」は、12万円から最大32万円もらえるんだ。
生徒:なるほど…。いずれにしろ、自営業の妻の生活はとても厳しくなりますね。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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