<ポイント>
●リビングの役割はあいまいなもの
●だからこそ暮らし方に合ったLDKを考えよう
「リビング」≒茶の間?それとも客間?
住宅誌や広告などでは、リビング、ダイニング、キッチンがひとつの空間にあることを前提として「LDK」と呼ぶことが一般的です。ダイニングとキッチンは、その使い勝手を考えればセットで考えるのが自然ですし、調理をする場所と食事をする場所、このふたつは家には欠かせません。
では、リビングはどうでしょうか? 「居間」という漢字を見ても、何のために居るのか、はっきりとした目的をもたない場所ともいえます。そうであれば、ダイニングとキッチン(DK)に、リビング(L)なる目的をもたない空間を付随させるかどうか、間取りを考える際に一度立ち止まり、考えてみてもよさそうです。
かつては、リビングの代わりに「茶の間」がありました。そこは家族が食事をする場であり、することがなくても家族それぞれが好き勝手なことをしていられる場所でもありました。リビングをそのような場所としてとらえたとき、LDKをワンルームとしてつくるのか、リビングだけ切り離すのか、それによって暮らし方は変わってきます。ワンルームだとしても、食事の場と何となく居る場を緩やかに分けるのか、ひとつの場としてつくるのか、椅子座にするのか、床座にするのか…、その選択肢や組み合わせは無数にあるようです。
小さな家のLDは床座のワンルームに
敷地面積がかなり小さい場合、そこに建てる建物は高さ方向に伸びることになり、ワンフロアの床面積は小さくなります。だからといって、リビング、ダイニング、キッチンを別々の階に置くと、かなり不便になってしまいます。結果、ワンフロアに3つのスペースを置くことになりますが、キッチンには、調理スペースや食器の収納スペースなど、それなりの面積が必要となります。すると、リビングとダイニングはまとめてひとつのスペースにせざるを得なくなります。
あまりに狭いとダイニングテーブルやソファを置けなくなってしまうので、それならば、ダイニングテーブルを床座の座卓とするのもひとつの手です。食事以外のことにも使える場にしてしまえば、生活しやすいスペースになります。ただし、茶の間と同じ使い勝手になるので、座る場所の近くには収納が必要です。
小さな家のキッチンはダイニングに寄り添って
小さな家では、LDKをワンルームでつくることが多いです。たとえ限られた床面積のなかでも、大きすぎず小さすぎず、それでいて十分に機能を満たす、そんなキッチンがダイニングに寄り添いながらつくられていると、そこがワンルームのなかの居心地のよいスペースになります。
キッチンとほかのスペースの関係はさまざまあり、ダイニングと一体感をもつ完全にオープンなキッチンもあれば、オープンでもシンクの手元が隠れるようにカウンターをつくることもあります。
どちらにしても、部屋全体のバランスを考えながら、落ち着けるキッチンをつくれば、近くのリビングやダイニングも落ち着いた空間になります。ただし、キッチンの手元を隠さない場合、シンクからの水跳ねやコンロからの油跳ねなどがキッチン廻りのスペースにまで及んでしまうこともあります。
広さ=心地よさではない。小さくつくるメリット
家をつくるなら、LDKはできるだけ広くしたい。住まい手の多くから出される要望ですが、限られた諸条件のなかで適切な広さを検討することになります。
ところで、LDKが広いほど、よい家になるのでしょうか。
住宅に関していえば、広さと暮らしの心地よさは単純な比例関係にはありません。その場のつくり方と密度が、居心地のよさを左右すると思います。たとえば一昔前の茶の間は、4畳半程度の広さでも必要なモノに囲まれた便利さがありました。また、広さに見合ったスケールで寸法が決められていたため、それも居心地のよさにつながっていました。
小さな空間でも、必ず心地よさをつくることはできます。それには、LDKといった固定観念にこだわらず、限られた面積のなかで家族の暮らし方を自由に発想することが大切です。
本間 至
一級建築士
1956年東京生まれ。一級建築士。1979年日本大学理工学部建築学科卒業。卒業後、1986年まで林寛治設計事務所で実務を通し住宅設計を学ぶ。独立後、東京で設計事務所本間至/ブライシュティフト(一級建築士事務所)を設立し、今までに150軒以上の住宅の設計を手掛け、暮らしやすい間取りをつくる住宅設計者として高い評価を得ている。
主な著書に、『最高の住宅をデザインする方法』『最高に楽しい[間取り]の図鑑』『本間至のデザインノート』『いつまでも快適に暮らす住まいのセオリー101』『小さな家の間取り解剖図鑑』(すべてエクスナレッジ刊)などがある。