1. DXの進め方は「デジタルガバナンス・コード実践の手引き」に基づいて行う
DXの進め方において重要なのは、経済産業省が出している「デジタルガバナンス・コード実践の手引き」を参考にすることです。
1.1.「DX実現に向けたプロセス(仮説:中堅・中小企業等版)」のフロー
中堅・中小企業等のDX実現に向けたプロセスは、以下の通りです。
- 意思決定
- 全体構想・意識改革
- 本格推進
- DX拡大・実現
「DXを推進するために、とにかくAIを使って何かやってみよう」というような漠然とした考えではいけません。DXで何を実現したいのか、明確な意思決定を行ってからでないと、うまくいかない可能性が高いです。
DXを推進するためには、ITに強い人材を採用したり、ITコーディネーターを活用したり、外部からの人材の協力が必要となります。そのうえで、DXのノウハウを蓄積しながら必要に応じて社内の人材を育成することが重要です。
1.2.「DX実現に向けたプロセス」フローのポイント
DX実現に向けたプロセスにおいては、上述した「意思決定」「全体構想・意識改革」「本格推進」「DX拡大・実現」の4つのフローごとに重要なポイントがあります。
1.2.1.【意思決定】に関するポイント
「意思決定」におけるポイントは、現在の経営理念を見直すことです。
既存の経営理念では、今の時代と合致していない可能性があります。そのため、根本から見直していかなければ、効率よくDXを進めることはできません。
経営理念の見直しによって経営ビジョンを明確にできれば、現在の経営状況と経営ビジョンの間にあるズレが見えてきます。そのズレを修正するための具体的な対策を講じるのです。
1.2.2.【全体構想・意識改革】に関するポイント
「全体構想・意識改革」におけるポイントは、見直した経営理念を元に明確にした経営ビジョンと、DX推進の必要性を関係者に細かく説明することです。
企業のトップだけがDXの必要性を知っていても、社内の協力体制がなければDXをうまく進めることはできません。そのため、DX推進に携わる関係者全員の意識改革が必要です。
経営者が時間をかけて、新たな経営ビジョンとともにDX推進の必要性を訴え続けることで、社内の意識改革が進みます。
1.2.3.【本格推進】に関するポイント
「本格推進」におけるポイントは、業務プロセスを徹底的に見直すことです。
DX推進を本格的に進めるには、デジタル技術を活用するために、業務プロセスを徹底的に見直すことが必要です。たとえば、現在の業務プロセスで基幹業務が紙ベースになっていると、関連した周辺分野にデジタル技術を導入しても、無駄が多くデータ分析や活用に時間と手間がかかりすぎてしまいます。
スムーズなDX推進を実現するには、業務の一部だけをデジタル化するのではなく、基幹業務をクラウドシステムに変更するといった業務プロセスの徹底的な見直しが必要です。
1.2.4.【DX拡大・実現】に関するポイント
「DX拡大・実現」におけるポイントは、顧客との接点やサプライチェーン全体にもDX推進の変革を提供することです。
自社企業だけがDX推進を展開しても、物流や販売など関連する企業がDXに対応していなければスムーズに業務を展開することが難しくなります。そこで、自社で培ったDXのノウハウを関連企業に提供することで、サプライチェーン全体や、場合によっては業界全体のDX推進に貢献することができます。
2. 実践向け|具体的なDXの進め方・7ステップ
DXを進めるためには、各企業が実務的に取り組む際の流れを知ることが大切です。具体的なDXの進め方について、7つのステップに分けて解説します。
ステップ1. 経営層から社内への意志表明
DXの進め方は、企業の上層部だけが知っていればいいというものではありません。
企業で働く社員は経営陣の意向に従うため、経営理念やDX推進の目的等を経営陣からのメッセージとして社員に十分に伝えることが大切です。DXの推進を特定の1部門にだけ任せているような社内体制では、DXを推進しているとはいえません。
DXの推進は現場の業務にも大きな影響をもたらすため、十分な説明もなく、いきなりDXを進めようとしても社員を混乱させるだけです。
スムーズにDXを進めるためにも、経営陣から社内全体に向けた意志表明を行って、社員にその改革の重要性を十分に理解してもらうことが大切です。
ステップ2. DXの進め方の方向性を決定
次に重要なのは、DXの進め方の方向性を決めることです。
DX推進が決定したとはいえ、その進め方が明確になっていなければ、現場ではどのようにDXを進めていけばいいのかわからなくなります。
進め方の方向性を決めるときは、DXにより組織やビジネスモデルをどのように変革していくのか、ゴールはどこにあるのか、という視点が重要です。
目的に沿って、どの分野で、どんな手段を用いてDXを進めるのかをハッキリさせることで、進め方に迷うことがなくなります。
ステップ3. 社内の体制構築
進め方の方向性が決まったら、次に社内体制の構築を行わなければなりません。
DXを効率よく進めるための体制構築には、デジタルデータやIT技術の導入、IT技術を持った人材の登用・育成を行うなど、時間がかかります。
また、体制を整備するなかで、特定の部門に負荷がかかり過ぎたり、社員の意識改革が不十分だったりすると、さまざまなミスやトラブルが起きる要因となります。社員に過大な負担を負わせたり、不満や不公平感を蓄積させたりしないように配慮することも大切です。
ステップ4. IT資産に関する課題の洗い出し
社内体制整備と並行して、IT資産に関する課題の洗い出しを行う必要があります。
現在、企業がIT資産に関してどんな問題を抱えているかを可視化することで、その課題を解決する方法を模索しやすくなります。
新たなIT技術を導入する際に、古いシステム(レガシー)が阻害要因となってしまうと、スムーズにDXを進めることができません。IT資産の現状を把握したうえでシステムの最適化を行わなければなりません。
ステップ5. スモールステップでのデジタル化の推進
変革を進めるうえでは、スモールステップで既存のシステムをデジタル化することが重要です。
これまでアナログ業務だったものを、いきなりすべてデジタル化すると混乱が生じる可能性があります。段階を踏んでデジタル化を進めましょう。時間はかかるかもしれませんが、段階を踏んだ小規模なデジタル化には大きなメリットがあります。
まずは、デジタル化による業務への支障を小さく抑えられるメリットがあります。変更によって問題が発生しても、変更が小幅なものにとどまっているうちは、すぐに対応できます。また、そうした問題を解決した際の経験が以後のデジタル化に役立つという点もメリットといえます。
デジタル化とそれに伴う問題解決のノウハウを蓄積することで、社内が混乱することなくデジタル化を推進できるようになるのです。
ステップ6. 社内組織の構造や業務フローの見直し
段階を踏んで改革を進めていくなかで、社内組織の構造や業務フローの見直しも徹底する必要性があります。
今までアナログ業務だったものがデジタル化するため、デジタル化にマッチする業務形態、業務フローに変えていかなければなりません。
また、現場で実際にIT技術の導入を進めていくと、新たな課題が見えてくることもあります。常に最適な業務フローや組織体制を追求していく姿勢が重要です。
ステップ7. 変革内容の評価と改善・拡大の取り組み
DX推進によって新たな組織文化やビジネスモデルに変革を遂げるとき、大切なのは変革内容の評価と中長期的な推進に向けた改善・拡大の取り組みです。
新たに導入したシステムで即座に結果が出るわけではありません。将来の経営ビジョン実現に向けて、現段階でどこまで変革が進んでいるのかを正しく評価し、その結果を受けて、さらに今後の改善や推進に活かしていくことが大切です。
3. DX推進に必要な5つの要素
DX推進に必要な5つの要素について解説します。
3.1. アナログ業務をデジタル化する
DX推進で最初に行うのは、今まで行ってきたアナログ業務をデジタル化することです。デジタル化はコスト削減や業務効率化の観点からも重要です。
たとえば、今まで紙媒体で行ってきた業務を電子データに変えるペーパーレス化や、紙の契約書と判子を廃止して電子契約に移行するなど、多くの方法があります。
最初はなかなか馴れず苦労するかもしれませんが、IT技術の導入による単純作業の自動化等によって、業務の効率化を図ることができます。
3.2. 全体の業務プロセスをデジタル化する
アナログ業務のデジタル化が完了したら、次は全体の業務プロセスをデジタル化していきます。
複数の担当者や部署・部門が関わる一連の業務プロセスをデジタル化するだけで、驚くほどスムーズなやり取りが実現できます。
アナログ業務の場合、ほぼすべての工程に手作業となる部分があるため、発注書の確認や承認申請を行ったり、注文請書を発行して印刷したりと要所要所で時間がかかります。担当者が不在だとハンコが押せず業務が滞るといったこともあります。
しかし、これらのことは、デジタル化すれば起こり得ません。また、部門を越えた情報共有が可能となるので、業務効率化を実現できます。
3.3. 「データドリブン経営」に取り組む
DX推進を行うのであれば、「データドリブン経営」に取り組む必要があります。
データドリブン経営とは、収集したデータを基に分析を行い、企画の立案や未来の予測を行って意思決定を行うことです。
データドリブン経営が必要とされている理由は、経営者の経験や勘に頼ったり単純な分析を行ったりするだけでは競合他社に負けてしまうからです。
より多角的に分析を行い、市場環境の変化についていけるようにするには、DX推進により、経営判断の前提となる情報を広く十分に得られる環境を構築することが大切です。
3.4. ビジネスを高度化する
DX推進において重要なのは、ビジネスの高度化です。
アナログ業務や全体の業務プロセスがデジタル化することによって、さまざまな分析データを得られるようになります。その分析データを活用すれば、ユーザーのニーズに合った新たな付加価値を生み出すことができます。
ただし、新たな価値を創出するためには、過去の慣習や組織文化、ビジネスルールなどの制約を乗り越えることも求められます。そのため、DX推進を通して経営陣や社員の意識改革をすることや、業務フロー・内部統制などの体制整備を実現し、ビジネスを高度化していくことが重要です。
3.5. 社内のみならず関連企業の間でDX推進を共有する
自社だけがDX推進を行っても、関連企業がDX推進を行っていない状態だと一部手作業が残ってしまう可能性があります。関連企業や業界全体も一緒になってDXを推進することで、より大きな変革を起こせるようになります。
自社で培ったDXのノウハウを関連企業と共有して、一緒に成長していくのが理想的です。
4. DXを進め成果を得るための3つの注意点
DXを進めて成果を得るうえで注意しなければならないことが3つあります。
4.1. 社内でIT教育を進める
DX推進において大切なのは、社内でIT教育を進めることです。
近年、企業のIT化、DXが盛んに進められているなかで、大きな問題となっていることの一つが、人材不足です。優秀なエンジニアは引く手あまたなので、都合よく登用できるとは限りません。
そこで、社内でのIT教育や社員のリスキリング支援を行って優秀なIT人材を育て上げる方法があります。重要なのは自社でITのノウハウや実績を蓄積することなので、コストをかけてでも社内でIT教育を進める必要があります。
4.2. DX推進をした先の目標を設定する
DX推進を行ううえで勘違いしやすいのが、DX導入自体をゴールとしてしまうことです。
DX推進は、あくまで課題の解決や事業目標を達成するために必要なプロセスにすぎません。変革を一過性のものとせずに中長期的な仕組みにしていく必要があります。
5年後・10年後も競争力を維持するために、試行錯誤を繰り返して中長期的な仕組みを構築していくことが求められます。
4.3. 会社全体でDXに取り組む
DX推進は一部門だけに任せればいいということではなく、会社全体で取り組むものです。そのためには、経営陣がリーダーとして社員全員を引っ張っていかなければなりません。
重要なメンバーのなかに反対する人がいるなら、十分に時間をかけて意見交換し理解してもらう必要があります。
また、年単位で計画的にDXを進めて、ビジネスフローや業務プロセスなどを最適化するなど、会社が一丸となってDX推進に取り組める体制にしていくことが大切です。
5. DXが必要とされる背景と日本のDXの現状
なぜ日本でここまでDXが必要とされているのか、その背景と日本のDXの現状について解説します。
5.1. 背景にあるのは社会の変化と日本が抱える問題
日本がDXを必要とする背景は、社会の変化と日本が抱える問題です。
現在、企業のIT化・デジタル化が急速に進み、企業が業界で生き残る必要条件となっています。デジタル化に対応できていないアナログの企業はデジタル競争に負け、生き残れないということです。
経産省は、DXが2025年までに進んでいない状態が続くと、それ以降の年度において、年間最大12兆円もの経済的損失が生じる可能性が高いと発表しています(2025年の崖)という問題です。
日本企業の約99%が中小企業なので、中小企業全体がDX推進に取り組んでいく必要があります。ただし、多くの中小企業は、DX推進はおろかデジタル化もままならない状態であり、その状態を解決するほうが急務です。
5.2. 日本のDXの現状~DXレポートに示された「ジレンマ」~
日本の企業は世界の企業に比べてDX推進に消極的だといわれています。
実際、DXレポートにて判明したのは、ほとんどの企業がDX未着手か、DX途上の状況だということです。ただ、DXを推進したくてもできないのは、「危機感・人材育成・ビジネス」の3つのジレンマがあることもわかっています。
ただし、これらのジレンマは決して解決できない問題ではありません。このような視点も踏まえたうえでDXを着実に推進していくことが重要です。
危機感のジレンマ |
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人材育成のジレンマ |
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ビジネスのジレンマ (ベンダー企業のみ) |
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まとめ
DX推進は世界の潮流ですが、日本のDX事情は非常に厳しいといわざるを得なません。
コロナ禍のテレワーク推進によってDXを意識する企業も増えているとはいえ、まだまだ圧倒的な人材不足や様々なジレンマのせいでDXを推進できない企業が多いのが実情です。
DX推進は企業が安定して成長していくために必要不可欠です。ぜひ、本記事を参考に進めてください。