DX推進にあたり、従業員に対し、DXに関する資格を取得することが任務として課されることがあります。
資格の取得はDXに必要な知識を体系的に学べますが、他方で、本人の適性や会社の方針にあったものを選ばないと無駄になる危険もあります。
本記事では、マネジメントなどDX推進に欠かせない人材を育成するための資格について、難易度や、どのような職種に必要かといったこととともに紹介します。
1. DX人材に必要とされる6つのスキル|取得すべき資格の方向性
具体的な資格について解説する前に、そもそもどんな知識やスキルがDX人材に必要なのかを説明します。
1.1. マネジメント能力
DX推進においては、複数の部門からメンバーを集めて専門チームを組織する場合も多く見受けられます。
したがって、DX推進の責任者として活躍するためには、メンバーを統括しプロジェクトを成功に導くための「マネジメント能力」が必要です。
1.2. 企画や戦略の立案・構築をする能力
DXには、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革も含まれます。
したがって、自社の強みや弱み、市場の分析はもちろん、分析結果を踏まえたサービスを企画しビジネス戦略を立案する能力が求められます。
最近では「SWOT」など代表的なフレームワークだけでなく、ビッグデータの活用も注目されています。
1.3. ITにまつわる基礎知識
DXに携わるうえで、どの職種やポジションにおいても重要となるのは、ITの基礎知識です。
特にサイバーセキュリティやネットワークに関する知識は、DXのみならずインターネットやパソコンを安全に利用するためにも必須です。
そのほか、デジタルサービスの開発でよく使われる専門用語についても理解しておく必要があります。
1.4. データ活用の知識
消費者行動を分析するうえで、データの活用は欠かせません。
特に近年はビッグデータの重要性が高まっており、データサイエンティストなどといった専門職のみならず、マーケティングや営業職など様々な職種でデータを読み解く力が求められています。
1.5. 最先端技術にまつわる知識
デジタル技術は日進月歩で変化しています。気になる情報や知らない言葉があれば自ら調べ、知識を貪欲に吸収することが求められます。
またサービスやガジェットを実際に使って体験することで、自社のDXでの活用のヒントを探る必要があります。
1.6. UX・UIにまつわる知識
UXやUIは、いずれもサービスの「利用のしやすさ」に関するものです。
UXとは、ユーザーエクスペリエンス(顧客体験)の略称です。サービスの利用によって得られる感動やサービスへの印象などを総称した概念を指します。
UIとは、ユーザーインターフェースを指した言葉です。顧客が閲覧する画面のレイアウトや購入までの導線設計など、顧客との接点になる部分の総称です。
どんなによいサービスも、使いにくければ顧客の心を掴むことはできません。デザインの基本的なルールなどを知っておく必要があります。
2. DXの基礎力がつく|DXの知識やスキルを測る3つの資格
DXの知識やスキルを直接証明できる資格を3つ紹介します。DXに必要な知識を偏りなく習得できます。
資格1. DX検定(日本イノベーション融合学会)
DX検定はデジタル分野とビジネスのトレンドに特化した検定です。
DXによるビジネスモデルの変革においては最先端のトレンドを捉えることが重要になりますが、新しい言葉や技術は誤ったイメージや誤解を持たれてしまうこともあります。
DX検定では、ITやビジネスに関するトレンドについて、正しい知識を有しているかを問われます。
1,000点満点中のスコアによって評価され、スタンダードレベルとされるスコア600点以上は全受験者のうち約45%です。DX推進を統括するプロデューサーであれば850点以上が目安となります。
資格2. デジタルトランスフォーメーション検定(全日本情報学習振興協会)
デジタルトランスフォーメーション検定で取得できる資格には「DXパスポート」、「DX推進アドバイザー」、「DXオフィサー」の3つがあります。
DXパスポートはDXを初めて学ぶ人向けの資格です。DXを取り巻く現状やDXに関する技術の基礎的な内容が主で、問題形式も半数が2択問題なのでそれほど難しくはありません。
DX推進アドバイザーとDXオフィサーはさらに専門的かつ実務的な内容を問うものです。
2.2.1. DX推進アドバイザー認定試験
DX推進アドバイザー認定試験は、企業に必要な助言を行ったり議論したりしてDX推進を支援する人材の養成を目指した試験です。
DXの現状や技術だけでなく、企業がDXを進めるために必要なDX人材の要素や、DXに関する制度や政策などが試験範囲となります。2択もしくは4択の選択式試験です。
原則70%以上の正答率で合格となりますが、受検回ごとの難易度によって合格ラインは正答率70%以下となる場合もあります。
2.2.2. DXオフィサー認定試験
DXオフィサー認定試験は企業内でDX推進を統括できる人材を見極める試験です。CDO(チーフデジタルオフィサー)やCDXO(チーフ・デジタルトランスフォーメーション・オフィサー)など経営陣に近いポジションがターゲットとなります。
この試験ではDX推進アドバイザーの試験範囲に加え、DXの方法論に関する知識も問われます。また記述式の問題もあるため、合格するためには知識だけでなく文章力や思考力も必要です。
資格3. +DX認定資格(IoT検定制度委員会)
「+DX認定資格」はDX推進に携わるすべての人を対象とした資格です。すべての業種、職種において、ビジネスでDXを推進するための基礎力を測ります。
合格ラインは正答率80%とやや高めですが、技術分野の専門的な知識よりも社内調整や人材育成などがメインなので非技術者でも取り組みやすい内容です。
この認定資格を取得することでDXの基礎的な知識が身につくため、ほかの社員への知識共有を行うなどDX推進のための足掛かりになります。
3. DX人材が備えたい|実務的な7つのおすすめ資格
より専門性の高い資格を7つ紹介します。これらの資格を取得することで、DX推進の主戦力となるスキルや知識を習得できます。
資格4. AI実装検定(AI実装検定実行委員会)
「AI実装検定」は、AIを実際に開発し、ディープラーニングなどAIへの学習を行う知識とスキルを問う試験です。上位レベルからS級、A級、B級の3段階の等級があり、最上位のS級は現在実施されているAI関連資格のなかでも最難関の資格です。
B級とA級は知識問題で、A級では大学数学を含む計算問題も出題されます。S級は実装形式の試験となっており、実際にAIの作成に携わった経験やAIに関する論文を読んだ経験がないと合格は困難です。
いずれの等級も正答率70%が合格基準で、公式サイトで参考テキストが公開されています。
資格5. AWS認定各種(Amazon Web Services)
AWSはAmazonが提供しているクラウドサービスです。AWS認定試験は、職種やスキル範囲ごとに、レベルに応じて以下の4段階に区分されます。
FOUNDATIONAL
AWSクラウドのサービスや概念について、基礎的な内容が理解できているレベルです。非技術者も対象としており、AWSの経験は問いません。
ASSOCIATE
FOUNDATIONALの上位レベルです。プログラミングの知識や概念に対する理解を求められます。
PROFESSIONAL
アプリの設計や実装、運用の実務における高度なスキルと知識を有するレベルです。実務経験2年以上の人を対象としています。
SPECIALTY
データ分析やセキュリティなど各分野における専門性の高いスキルと知識を有し、的確な助言ができるレベルです。
資格6. Python3エンジニア認定試験(Pythonエンジニア育成推進協会)
「Python3エンジニア認定試験」は、経済産業省が定めたガイドライン「ITスキル標準(ITSS)」のレベル1に指定されている資格です。
レベルに応じて以下の3つの試験があります。
いずれも合格ラインは正答率70%です。合格率について直近のデータは公表されていませんが、エンジニア認定基礎試験については約78%(2017年4月末時点)、データ分析試験では約86%(2021年6月末時点)となっています。
資格7. ITストラテジスト試験(IPA)
ITストラテジストは情報処理技術者という国家資格の1つです。
この資格では技術者としての実装スキルよりも、経営とITを結びつけた事業戦略の策定や推進の能力を重視しています。そのため試験も知識を問うだけでなく、半分が記述式や論述式です。
情報処理技術者試験のなかでも難易度が高く、2022年度の合格率は14.8%にとどまっています。
しかし取得者は厚生労働省の定める専門職として認定されるため、転職やキャリアアップに有利になる資格といえます。
資格8. 情報処理技術者試験(IPA)
情報処理技術者試験もITストラテジスト試験と同様に、情報処理技術者の資格の1つです。「基本情報技術者試験(FE)」と「応用情報技術者試験(AP)」の2つがあります。
基本情報技術者試験は、ITエンジニアの入門資格という位置づけです。
入門レベルとはいえ2022年度の合格率は39.6%、2020年以前は30%を切っており決して簡単な試験ではありません。
また、応用情報技術者試験では提案力や問題発生時の解決力といった、より実践的な能力を問われます。
2022年度の合格率は24.3%となっており、例年20%前後で推移している難関資格です。
資格9. データスペシャリスト試験(IPA)
データベーススペシャリスト試験(DB)はデータベースの活用に特化した人材のための試験です。ビッグデータの重要性が増すなか、スキルをアピールしやすい資格といえます。
この試験ではデータベース自体の管理、運用といったインフラエンジニアとしてのスキルのほか、正確なデータ分析と要件定義のスキルも問われます。
また他の技術者への支援を行うなど、社内におけるデータ活用を主導するポジションが想定されています。
2021年度秋季試験の合格率は17.1%でした。例年13〜17%前後で推移している難関資格です。
資格10. ITコーディネータ(ITコーディネータ協会)
ITコーディネータは経営とITを結びつける人材の育成を目指して創設された資格です。
コーディングやプログラミングといった技術者としてのスキルよりも、社内のDX推進を目指す経営者や企業内の担当者、各所の専門家などとの調整力と提案力を求められます。
資格を取得するためにはITコーディネータ試験合格とケース研修の受講が必要です。
ITコーディネータ試験の合格率は60〜70%と比較的高く、非技術者の人やIT分野での経験が浅い人でも取得可能といえます。
4. DXの成功は全社員の共通意識から|リスキリングに適した4つの資格
DXの成功には従業員も含めた全社での意識改革が必要です。IT部門以外の従業員のスキルを底上げできる資格を紹介します。
資格11. 初心者向け|ITパスポート(国家資格)
ITパスポートはITやデジタルに関する知識を網羅的に習得できる資格です。国家資格であり、業種や職種、また職歴や経験を問わず活用できます。
試験範囲にはAIやビッグデータなど最新のデジタル技術に関する基礎的な知識だけでなく、経営やプロジェクトマネジメントに関する分野も含まれます。
合格率は50%と、難易度はそれほど高くありません。社会人だけでなく、学生の受験者も多い試験です。
資格12. 初心者向け|IC3(オデッセイ コミュニケーションズ)
IC3(アイシースリー)はインターネットとコンピューターに関する国際資格です。デジタルリテラシーの基礎を習得できるため、ビジネスだけでなく実生活でも役に立つ資格です。
「グローバルスタンダード5(GS5)」と「グローバルスタンダード6(GS6)」の2つがあり、ワープロや表計算など、事務職や営業職でもよく使用するソフトのスキルも問われます。
合格率は公表されていないものの、基礎的な内容であり独学でも合格可能です。
資格13. 難易度中程度|情報セキュリティマネジメント試験(IPA)
情報セキュリティマネジメント試験は、情報セキュリティを確保できる人材の育成のために創設された試験です。
ハッキング対策など技術面での防御だけでなく、従業員等による不正な持ち出しや端末の置き忘れなど「人の管理」からのアプローチに関する理解も求められます。
情報セキュリティは従業員誰しもが意識すべき分野であるため、この試験も技術者だけでなく、営業、人事、経理などすべての職種が対象です。
合格率は2022年度で61.2%となっており、しっかり準備をすれば決して難しい試験ではありません。
資格14. 難易度中程度|G検定(日本ディープラーニング協会)
G検定(ジェネラリスト検定)はディープラーニングの分野に特化した資格です。ディープラーニングの知識を有し、かつ事業として活用できることを証明します。
試験範囲はAIの定義や機械学習の手法といった基礎知識から、今後のAIやディープラーニングの活用といったものまであり、思考力も必要になります。
合格率は60〜70%前後と比較的高く、約半数はIT関係以外の業種や職種の受験者です。
専門性の高い分野ですが実装スキルを問うものではないので、ディープラーニングに興味があれば非技術者でも取得は可能です。
5. 社内でDXの資格取得を推進する際の4つのポイント
社内でDXの資格取得を推進するためのポイントを解説します。
5.1. DX推進の適正を見極め対象者を選定する
DXには全社的な取り組みが必要ではありますが、全員にDX人材としての適性があるわけではありません。
適性が合わない資格の取得をさせようとしても、結果につながりません。そればかりか「勉強してもわからない」という状況になるため、苦手意識を強めることさえあります。
試験分野や難易度に応じて、適切な人材を選定する必要があります。
5.2. DX資格取得の意図を理解してもらう
資格を取得するためには勉強時間が必要です。そのためには業務時間や、場合によっては従業員のプライベートの時間も勉強に充てなければなりません。
モチベーションダウンや不満の蓄積につながらないよう、資格を取得してもらう目的や意味をしっかりと伝え、本人に理解してもらうことが重要です。
5.3. 資格試験の補助制度を準備する
資格取得の支援制度を拡充することで、従業員が自発的に資格取得に取り組みやすくなります。以下は支援制度の一例です。
- 受検費用や受講費用の補助や負担
- 合格時のお祝い金
- 資格手当
DX関連の資格のなかには、受検費用だけで1万円以上かかるものもあります。金銭的な負担を減らすことで、資格取得を後押しできます。
また難易度によってお祝い金や手当ての金額にランクをつければ、より難しい資格への挑戦意欲につながることが期待できます。
5.4. 取得した資格を活かす・育てる環境を用意する
資格取得によって得た知識やスキルを業務内で活かせなければ、本人だけでなく、周囲の従業員にも悪い影響を与えます。
わかりやすい目標として「資格取得」を定めることは悪いことではありません。しかし取得をゴールにせず、他の従業員に知識共有を図ったり、管理職や専門職としてのキャリアプランを設定したりするなど、フォローアップを忘れずに行わなければなりません。
まとめ
国がDXを推進していることもあり、IPAをはじめ様々な団体が資格や認定を行っています。DXに必要なスキルは開発の実装スキルだけではないため、非技術者が取得しやすい資格も多く存在します。
しかし資格取得には費用も時間もかかりますし、取得後のプランがないとせっかく習得した知識やスキルが無駄になってしまいます。
自社の目指す方向や従業員のキャリアプランに合わせて必要な資格を選択するとともに、社内全体でスキルアップを目指していく風土作りが重要です。