(画像はイメージです/PIXTA)

父から多額の遺産をひとりで相続した母は「長男にすべてを相続させる」という遺言を残して亡くなりました。納得できない長女でしたが、対抗措置である「遺留分の請求」ができることを知ったのは、なんと遺言書の検認から11カ月経過後。急いで兄である長男に内容証明を送りますが…。高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が解説します。

「遺留分」とは、不平等な遺言への対抗措置

長男に全部相続させる、面倒を見た長女に全部相続させる、後妻に全部相続させる、など不平等な遺言が書かれてしまうことも多いです。

 

この不平等な遺言に対し、配偶者や子ども、両親等に最低限の取り分を認めたのが遺留分です。

 

遺留分は、法定相続分の2分の1(親などの直系尊属のみが相続人のときは3分の1)となります。

 

陽子さんの子どもは2人です。そこで、花子さんの法定相続分は、2分の1ですから、花子さんの遺留分はその2分の1で、4分の1となります。

 

陽子さんの遺産は、5億円ですから、花子さんは、その4分の1である1億2500万円を遺留分として請求することができます。この遺留分の請求のことを2019年7月以降に発生した相続については「遺留分侵害額請求権」と言います。(それより前は「遺留分減殺請求権」と言いました)

 

この遺留分侵害額請求権は、遺言で不平等に取り扱われた相続人にとって有効な救済手段となります。

遺言の内容を知った日から1年以内に行使しないと…

しかし、注意する必要があることがあります。それは、遺留分侵害額請求権の時効が短く、遺留分が侵害されていることを知った日(通常は遺言の内容を知った日)から1年以内に行使しないと、時効にかかり消滅してしまうということです。

 

遺産分割については、いつまでにしなければならないという期限はありませんから、相手が言ってくるまで様子を見るのでもよいのですが、遺留分侵害額請求権は、遺言の内容を知ったときから1年以内に請求しないと、せっかくの遺留分を請求できる権利が消滅してしまうことになってしまいます。

 

四十九日を過ぎて、一周忌などあっという間に過ぎてしまう可能性があります。遺言書が不平等であった方は、すぐに遺留分侵害額請求の通知を出すことをお勧めします。
さて、今回は、花子さんは、不平等な遺言について、遺留分を請求できるという遺留分の知識がありませんでした。

 

せっかくインターネットで調べた遺留分を請求する通知書も太郎さんが受け取らなかったため戻ってきてしまいました。そして、検認で遺言の内容を知った日から1年が経過してしまいました。

 

このようなケースで、遺留分は請求できるのでしょうか。

 

法律が、通知を出しただけで効力を生じるという発信主義を取っていれば、花子さんは内容証明郵便で遺留分を請求する通知を出していることから、1年以内に遺留分を請求したと言え、遺留分の請求が認められるということとなります。

 

しかし、民法は、原則として、通知が届いた場合に効力が生じるという到達主義を取っています(民法97条)。

 

ただし、最高裁判決で、実際には通知を受け取っていなくても、内容が遺留分の請求であると予想でき、通知を受領することが容易であるときは、通知の到達があったと認めるとしています。

 

以上のことから、「花子さんは、遺言の内容を知ってから1年以内に、内容証明郵便で遺留分を請求しているから、遺留分を請求できる」とする選択肢①は誤りとなります。

 

これに対し、「花子さんは、遺言の内容を知ってから1年以内に内容証明郵便で遺留分を請求しているけれども、相手に届かなかったことから、遺留分は請求できない」とする選択肢②が正解となります。

 

また、前記の最高裁判決からすれば「花子さんが、遺留分の通知を出す前に、電話で長男の太郎さんに遺産分割や遺言書が不平等であることを話していて、太郎さんが花子さんからの内容証明郵便を受け取ろうと思えば受け取れたなどの事情があれば、相手が内容証明郵便を受け取らなかったとしても、遺留分の請求が認められる可能性がある」とする選択肢③も正解となります。

 

ただ、花子さんが、遺留分の通知を出す前に、電話で長男の太郎さんに遺産分割や遺言書が不平等であることを話していて、太郎さんが花子さんからの内容証明郵便を受け取ろうと思えば受け取れたなどの事情がなければ、花子さんの1億2500万円の遺留分は時効で消滅してしまっており請求できないこととなってしまいます。

 

遺留分侵害額請求権は、遺言の内容を知ってから1年以内に請求しないとせっかくの権利が消滅してしまうので、相手が受け取らない場合、相手に届かない場合などは弁護士に相談して対処を考えられた方が良いと思います。
 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

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