(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの不動産を保有する資産家高齢男性が、自分亡きあとの相続について家族に提案したところ、妻と娘から激しく反発され、頭を抱えています。なぜ妻と娘が怒るのか、男性はさっぱり理解できなかったのですが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

高齢男性、妻と娘が反発した理由がわからず「困惑」

今回の相談者は、70代不動産賃貸業の加藤さんです。自分なきあとの相続のことで、自分と長男、妻と長女で意見が対立してしまったため、なんとか説得してほしいということで、筆者の事務所に訪れました。

 

加藤さんは土地持ち農家の長男として生まれ、父親から多くの土地を相続しています。いまは所有地の多くが区画整理の対象となり、かなり減少しましたが、複数の路線が乗り入れる大きな駅周辺に土地を持っていることから、不動産賃貸を行い、かなりの収益を上げています。

 

「私は所有する物件のひとつで店を経営しておりまして。ですが、年齢的に経営がしんどくなったので、いまは店のほとんどを長男に任せている状態です」

 

加藤さんは自分の年齢を考え、そろそろ遺言書を残そうと思い立ました。

 

「ところが、妻と娘にそのことを話したら、なぜか2人の機嫌を損ねてしまいましてね。妻は娘の嫁ぎ先に身を寄せて、2人は、私からの電話にもラインにも応答がない状態です。2人を説得してもらえませんか?」

 

筆者と打ち合わせに同席した提携先の税理士は、加藤さんに相続人の数と遺言書の具体的な内容を聞きました。

 

「相続人は、妻と長男・長女の3人ですね。遺言書の内容はシンプルで、すべての財産は長男に継がせる、というものなんですが…」

 

筆者と税理士は、思わず顔を見合わせました。

「しかし、跡取りに遺言書を準備しておかないと…」

加藤さんは、われわれの表情にきょとんとしながら、言葉を続けます。

 

「長男に任せた店だけでなく、ほかにも賃貸している不動産があります。早い段階で整理して、跡取りに遺言書を準備しておかないと、私がいなくなってからでは手続きが大変だと思いまして。妻に相続させても、どうせすぐ相続になるし、無駄じゃないですか? 娘は嫁に出したから関係ないですし…」

 

加藤さんは、同席した税理士から、加藤さんの資産状況を伺うに、恐らく相続税の納税が必要になる可能性が高いこと、また、配偶者に資産を相続させて特例を活用すれば節税が可能になること、いまはきょうだい平等が原則であり、嫁いだ長女にも長男と同じ相続の権利があることなどの説明を受けると、大変驚いた様子でした。

 

「配偶者の特例は、妻に相続させないと使えないんですか! 娘は家を出て、名字が変わっているのに…?」

 

加藤さんは税理士に促され、もう一度家族と話し合いをもって、全員の意見を聞いたうえで再度打ち合わせをすることを了承し、その日の相談は終了しました。

「家督相続」の概念は過去のもの…アップデートが必要

2週間後、再び加藤さんから連絡があり、打ち合わせの機会を持ちました。

 

「妻と娘に〈遺言書の件、内容を改めるからもう一度相談させてくれ〉ってラインしたら、すぐ返事が来たんです」

 

その後すぐ、家族を自宅に集め、それぞれの意見を聞いたそうです。

 

「妻は、私亡きあともこれまで通りの生活がしたいということで、自宅と自宅そばの駐車場の相続を希望しました。娘は固定収入が得られるよう駅前の駐車場がほしいと…。息子はいまの店が入っている駅ビルと貸家でいいということでした」

 

加藤さんはこれまで、家族で財産のことを話し合う機会はなかったといいます。そして、それぞれから希望が出てくることも、まったく想像していなかったそうです。

 

「私の父親の相続のときには、長男がすべてを相続するのは当然で、母も弟も妹も、何も口を挟まなかったのです。その代わり、母の面倒は私が見ましたし、弟や妹が困ったときには、手助けしたり資金援助したりしてきましたが…。当時とは考え方もずいぶん違っているということですね」

 

当初は不満そうだった加藤さんの長男も、揉めごとを回避したいという思いからか、母親と娘の希望を受け入れたといいます。それにより不動産の分割も決まりました。加藤さんは、あとの課題として、納税資金の確保をしていきたいと語ってくれました。

 

その後、家族の意見を反映させた公正証書遺言も無事作成完了。

 

最後の打ち合わせの席で、加藤さんは、

 

「無事、妻も自宅に戻ってくれてほっとしています」

 

と、笑顔を見せてくれました。

 

代々の地主や農家の場合は、いまなお家督相続の考え方が承継されていることもあります。相続人全員がそれで納得すれば問題はありませんが、今回の加藤さんの長男と、妻・長女のように、それぞれの考え方がぶつかれば、トラブルになってしまいます。

 

いまの時代、相続人としてのきょうだいの立場は対等であり、平等です。もちろん、同居や介護等の負担がある場合は、相続発生前からしっかり話し合うのが理想ですが、はなから「長男だから全部相続する・させる」という姿勢では、ほかの相続人に反発されるのは当然だといえます。

 

もうひとつ注意が必要なのが、相続人間同士の平等にこだわるあまり、不動産を共有にしてしまうことです。相続直後は問題がなくても、相続人の生活環境が変わったり、相続人の子・孫に所有権が移ったりすると収拾がつきません。将来のトラブルの種になる可能性が高いため、ぜひとも回避しなければなりません。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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    本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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