20大人事の注目点
人事結果の詳細は広く報道されており省略するが、いくつか注目すべき点がある。
◆政治局人事の意外点
常務委員7人体制を維持した。常務委員数は歴史的に権力集中度を測る尺度とされてきた。鄧小平時代は5人、江沢民は1992年に7人、2002年に9人に増加。9人を維持した胡錦涛時代はよく言えば集団指導体制だが、「降雨を司る龍が9頭(九龍治水)」→「1つの事に多数の人が関わり何も決まらない体制」と揶揄された。
習は2012年就任時、意思決定の効率を高める名目で、自らに権力を集中させるため7人に戻した。習としては今回、権力分散を回避するため常務委員数を増やす選択肢はない一方、政権基盤は安定していると考え、権力集中のために人数を減らす必要もなかったという判断か。
指導部は67歳以下留任、68歳以上は退任する暗黙ルール(七上八下)は、すでに上記党内部規定修正で否定された形だったが、実際の人事で決定的となった。新たに常務委員入りした4名は直轄都市と広東省のトップや党中央幹部で、習が書記を務めた浙江や上海、省長を務めた福建に連なる人脈。いずれも事前に名前が取りざたされており驚きはない。ただ幾つか意外点がある。
①李克服、汪洋、胡春華といった、習とは距離はあるが、一定程度政権運営には協力してきた団派と呼ばれる共産主義青年団(共青団)関係者を完全に排除した。
②習側近の李強(元上海党書記)が常務委員序列2位で、中央での勤務や副首相の経験なしで首相候補となった。
③新疆ウイグル自治区とチベット自治区の2つの党書記を務めた唯一の人物として有名で、政治局委員だった習側近の陳全国(67歳)が中央委員から外れた。陳はウイグル問題の関係で、米国の制裁リストにも名前が掲載されている人物。
④女性の政治局委員が25年ぶりに消えた(これまで孫春蘭副首相が政治局委員だったが、高齢で退任)。中央委員、候補委員には各11名、22名の女性が選出されたが、5年後の党大会でも女性常務委員が誕生する可能性が消え、女性進出の面で大きく後退。
⑤政治局委員に5名の科学技術や製造の技術官僚が入り、同分野の国内競争力強化の姿勢を示した。
◆胡錦涛退場
20大で最も関心を集めた。言うまでもなく、胡は前最高指導者で団派の長老でもある。新華社は対外向け英文で「健康不良のため」と報道したが、拡散した動画では控えているはずの医療関係者は見当たらず、にわかには信じ難い。
となると人事ということになるが、人事は20大開会中の現役と胡も含めた長老から成る党主席団常務委員会(現役26名、長老20名)で承認されたはずだ(同委には江沢民や朱鎔基も名を連ねていたが、健康上の理由から、実際には欠席だったと思われる)。
動画を仔細に見ると、胡の正面右横に座っていた栗戦書が胡にファイル(人事リスト?)を見せないようにし、胡が担当者(孔紹遜党中央弁公庁副主任)に腕を取られ立ち上がった直後、栗は汗を拭き、立ち上がって胡に挨拶をしようとしたようだが(栗はかつて共青団の経験もある)、それを栗のさらに横にいた王滬寧が引き留める仕草が見える。
上記、北戴河会議での妥協を基にした党主席団での人事案を習が土壇場で反故にした(あるいは差し替えた)との憶測がくすぶるゆえんである(この結果、おそらく胡春華が政治局委員から外れ、委員数が第17期以来続いていた25名から24名へと1名減になった)。
党中央弁公庁は今回常務委員入りした習側近の丁薛祥主任と4名の副主任体制だが、副主任の1人で胡の側近だった陳世炬は4月、すでに政協常務委員という閑職に転出していたことが判明。動画では王が薄笑いを浮かべる場面もあり、王→丁→孔のラインで計画実行したとの憶測がある。
なお本件を巡り、一部欧米メディアで、習との対比で胡錦涛・温家宝時代を賛美する声がある一方、亡命人権活動家からは、胡、温とも「一度も改革者だったことはない」とし、結局、習と彼らの対立は路線・思想闘争ではなく単なる権力闘争にすぎず、それが表に出ただけとの冷めた見方もある。
また海外中国語ネットワークは、日本の某誌が動画から栗の唇の動きを読むと、栗は胡に「見ないで。全部決まっている(別看了。都定了)」と言っていると報じたことを紹介している。ただ「ありそうな話だが確認はできない」との評価で、筆者が動画を見た限りでも確認はできず、誰かはわからないが、何人かが「そう、そう、そう(対、対、対)」と言っている声だけが確認できた。なお唇を読む場合は影響ないかもしれないが、栗は河北省平山県出身で、その発音は通常外国人が学ぶ標準語(普通話)と声調がかなり異なる点注意を要する。
その後、党中央組織部元幹部の閻淮(1982~86年在籍。回想録「進出中組部」は中国内で発禁。同人は六四天安門事件後、事件に抗議して亡命)が「多くの人が理解に苦しんでいる(費解)」として、胡を清華大学の先輩(学長)、習を後輩(学弟)と呼び、胡が体調不良で退席したというなら、その後健康状態はどうなっているのか、事実を公開して混乱を収束させるべきとの習宛公開質問状をネットに掲載したが、当局側からの反応はない。
12月、胡は江沢民死去を受けて行われた追悼大会には出席しなかったが、前日の遺体告別式には20大後初めて姿をみせた。胡より高齢の長老も出席する中、胡のそばにだけ常に警備員と思われる者がおり(20大で胡が退場する際に付き添った1人に似ているとの話もある)、健康上の理由なのか、胡が不測の行動に出ないよう監視するという「政治的意図(考量)」に基づくものかなど憶測されている。
新華社は20大後、人事に関する8000字に及ぶ論評を掲載したが、その中で「習が4月以来、人事検討のため、現役中央委員、30名の意見を聴取」と報じた際、19大後の同様の論評にはあった「党内老同志」、つまり長老が消え、人数も57名から激減している点に注目が集まり、習は今回、人事の検討で引退した長老を無視したとの憶測もある。
党中央弁公庁は20大に先立つ5月、「引退した幹部は政治的にマイナスとなる言動を慎むべし」と、長老をけん制する意見を発出している。
次回では、経済担当人事の注目点と、20大結果が意味する中国の政治、経済、外交上の不確実性増大として、まずゼロコロナ政策、経済運営の方向性・行方について解説する。
金森 俊樹