(画像はイメージです/PIXTA)

中国では2022年10月、向こう5年間の党指導部を決める5年に一度の党大会(今回は第20回で通称「20大」)が開催された。20大前には様々な憶測が飛び交ったが、その後明確となったのは、中国を巡る政治経済上の不確実性リスクだ。それらの具体的な内容と、今後の中国の政治、経済、外交などへ及ぼす影響について詳細に読み解いていく(文中人名敬称略)。

経済運営、「習の言った通り」との観測強まるが…

習近平は、これまで経済運営をやや考えの異なる李克強がトップの国務院だけに任せず、劉鶴副首相兼党中央財経委員会主任に金融や経済外交を中心に実質的経済運営を任せるなど党主導にしてきた。劉鶴は習の側近と言われたが、経済官僚との意思疎通も円滑で、バランスの取れた経済運営をしてきたとの評価が多い。劉鶴は高齢で中央委員から外れ、後任には新たに政治局委員となった何立峰発展研究中心主任が就くとの観測がある。何はすでに近年劉鶴に代わって習の外遊に同行することが多く(習は劉鶴の対外交渉が弱腰として必ずしも満足していなかったとの憶測がある)、11月の習・バイデン会談にも同席し注目された。何は劉以上に習に近く、経済官僚というより「政治家(政客)」の色彩が強いとの評判だ。

 

第一副首相候補も習側近で常務委員序列第6位の丁薛祥の名前が挙がっており、そうなると、「李強首相」以下国務院は習側近で固められる。ますます経済運営が「習の言った通りになる(説了算)」との観測が強まっている。

 

ただ李強については上海書記時、アリババなど経済界と緊密な関係を持ち、「共同富裕」スローガンで習が某企業への締め付けをした際にも企業との仲介を担い、上海でのゼロコロナ政策実施でも当初は経済への影響を懸念して緩和しようとするなど、政客というより経済人に近く、本来の「経済重視の実利的考え」と「習に対する忠誠」の間で綱渡りをすることになる(走鋼丝)との見方もある。

 

また丁は常務委員を留任した王滬寧の党中央精神文明建設指導委主任を引き継ぎ、イデオロギーや教宣を担当するとの噂もあり、その場合、第一副首相が党常務委員でなくなる可能性がある。国務院が党から離れて経済運営をし易くなるとの見方もできるが、国務院のステータスは低下する。いずれにせよ、党が一切を管理する(党管一切)傾向が強まる可能性が高い。

 

以上、20大人事の注目点を挙げた。『中国・第20回党大会の答え合わせ…〈習下李上〉の憶測外れ、〈胡錦涛退場〉に驚愕』で紹介した新華社の20大人事に関する論評は、「習自ら人事を厳しくチェックした(把関)」「幹部ポストは(何らかの外形基準で自動的に決まる)鉄椅子ではない。年齢ではなく能力で決まるもの」「一部指導者は党と人民の利益を重視し、国家発展と民族復興に高い責任を持つという精神の下、主動的に退任を申し出、後進に道を譲るという共産党人の懐の深さ(寛闊胸懐)と高い風格(高風亮節)を示した」と論評。

 

「寛闊胸懐、高風亮節」はかつて胡錦涛退任の際に習が用いた表現として知られる。「一部指導者」が誰かは明らかにされていないが、広く李克強や汪洋と理解されている。両人が退任を申し出たということはあり得るが、そうせざるを得ないよう追い込まれた(習が側近で固めた新体制ではやっていけないと判断)ということではないか。

高まる政治経済上の不確実性

以上の人事面の動きや20大初日の習演説(20大報告)などを踏まえると、20大の意味を探るキーワードは中国を巡る政治経済上の不確実性リスクの増大だ。

 

◆ゼロコロナ政策、20大前後の動き

20大前、ゼロコロナ政策は習の個人的な政治ショーで、20大が終われば政策看板は維持しつつ、実質的にコロナとの共存戦略に移行するという希望的観測と、むしろ政権基盤を安定させた習政権は規制をさらに厳しくするとの見方が交錯していた。環球時報など官製メディアは20大に向け共存戦略を採る米国などへの批判を強め、20大報告は過去5年間の成果として、香港・台湾問題への対応と並んで、「動態ゼロコロナ政策の揺ぎない堅持が人民の生命安全や社会経済発展をもたらした」と誇示。

 

20大後の11月、新メンバーで臨んだ党政治局常務委は「動態ゼロコロナ政策の総方針堅持」を明言する一方、「正確な科学的根拠に基づく措置を講じる。単に厳しくするだけ(層層加碼)、画一的(一刀切)な措置は是正」とした。常務委のもようが報道されるのは異例で、全国的に感染が再拡大する中、ゼロコロナ政策の妥当性について沸騰する内外の議論を封じ込める狙いだったと思われる。直後、国務院と国家衛生健康委が隔離期間の短縮やPCR検査頻度を減らすなどの20項目緩和措置を発表。習はG20やAPEC首脳会議出席のため外遊した際、感染者と接触したが、帰国後は隔離を経ず訪中した海外要人らと会見し、「自分が定めた規則を自分で破っている」と人々の怒りを買う一方、ゼロコロナ政策方針転換のサインとの見方も流れた。

 

当局としては、ゼロコロナ政策を止めて状況がさほど悪化しなければ、政策は必要なかったと言われ、状況が悪化すると、ゼロコロナ政策という臨時措置で時間を稼ぎ、その間ワクチン接種を進めて集団免疫を作るはずだったが、そうした効果はなかったということになり、どちらにしても批判を浴びる。他方、ゼロコロナ政策を単に続けるではますます経済に影響が及び、人々の不満が高まるというジレンマに直面していた。

 

11月末から各地でゼロコロナ政策に対する抗議行動が激化し、12月の政治局会議は突然、「感染対策を最適化していく(優化)」とし、「動態清零政策」に言及せず、当局は各地で制限を緩和し始めた。突然の方針転換については、抗議行動過激化が引き金になったことは疑いないが、その他、2023年にもあり得るWHOのパンデミック終息宣言後もゼロコロナ政策を続けると、世界で中国だけがなお感染が深刻な地域とみなされることになり、その前に集団免疫を作っておこうとする思惑だろうとの見方もある。

 

公共交通機関に乗車する場合の陰性証明は不要として、多くのPCR検査場所を撤去する一方で、なお多くの公共施設や商店などが陰性証明提示を要求するのは「離譜」、つまり音がずれている→合理性を欠く対応との声が挙がり、規制の緩和が加速。12月の翌年の経済方針を議論する経済面で最も重要な会議、経済工作会議では「タイミングと状況を見て、感染対策を最適化していく」とされた。

 

しかし、ワクチン接種など十分な準備を伴わない突然の方針転換で感染が爆発的に増加しないか(すでにそうした状況が発生)、中国当局がまさにゼロコロナ政策の正当性を主張していた際に挙げていた医療体制崩壊が起らないか、緩和でかえって人々が感染に警戒して外出を控え、また将来に対する悲観的見通しを持って不要不急の消費を抑える結果、期待したように経済活動が活発化しないのではないかなど、新たに多くの不確実性が生じている。中国ネット上では「柔軟な科学精神、報道の動態的良心」,「9-4」の答を得るために10行もの不必要な複雑な算式を展開した「困難な探索」と題する書き込みなど、当局や官製メディアの突然の豹変ぶりを揶揄し皮肉る声が聞こえる。

 

抗議行動が激化する中で江沢民死去が伝えられ、胡耀邦死去が引き金となって発生した1989年天安門六四事件を想起する声が一部に挙がる一方、現在人々が抱いている不満は「政治的自由」というより「経済的自由」に対するもので、状況は異なるとの見方も多い。江追悼の念とゼロコロナ政策への不満が相まって、反習感情や体制批判が強まることを当局が警戒したことは間違いない。

 

国家ネット情報弁公室は11月末、ネット管理会社に対し、ネット上の内容を審査・監視する要員を増やし、特に各地大学での抗議行動に関する情報に注意するよう指示した「指導意見」を発出したと伝えられており、実際、関連情報の検索ができない状態になった。また江沢民追悼大会では、習はあまり中国当局が触れることのない六四事件(「政治風波」と表現)に言及し、当時上海書記だった江が中央の治安維持対応を支持したと賞賛。今回の過激化する抗議運動に警告を発したものと受け止められた。

 

◆経済運営

上記経済担当人事に加え、以下の不確実性がある。

 

【第1】マクロ経済の減速 

 

第1に、マクロ経済の減速がある。2022年第四四半期(Q4)成長率は2.9%、通年成長率は3.0%と年目標5.5%前後を大きく下回った。

 

(注)前年同期比。目標は各年政府工作(活動)報告で設定された年目標値。 (出所)中国国家統計局、各年政府工作報告より作成
[図表1]成長率目標と四半期別実績 (注)前年同期比。目標は各年政府工作(活動)報告で設定された年目標値。
(出所)中国国家統計局、各年政府工作報告より作成

 

経済減速の直接的要因はゼロコロナ政策だが、関連産業も含めると生産活動がGDPの3割を占める不動産部門の悪化が大きい。根底には不動産バブル再燃を抑え、経済の高債務体質を是正しようとする中国当局の政策がある。具体的には、開発業者の資産負債状況を管理する「三道紅線」規制、抑え目のマクロ経済政策などだ。中期的には正しい政策としても、短期的には成長率減速を伴う。

 

当局がどの程度成長率を犠牲にする用意があるのか、政策がいつ逆戻りするのかわからないという不確実性がある。

 

例えば11月、人民銀行、銀行保険監督管理委は共同で、開発業者の資金繰り悪化や住宅工事中断(烂尾楼)に対応するため、不動産市場への流動性供給強化、工事再開と購入者への引き渡し確保(保交楼)を目的とした16項目通知を発表する一方、直後の人民銀行Q3貨幣政策報告書は当面の政策の考え方として「住宅は住むもので投機するものではない(房住不炒)方針堅持。不動産を短期的経済刺激手段にはしない」と明言。

 

他方、韓文秀党中央財経委副主任(劉鶴の右腕。20大で中央委員に昇格し、今後の経済運営を担う中心人物の1人になると思われる)は20大後に党が出した「20大報告ガイドブック」の中で、「2035年までに1人当たり所得を中等先進国水準にするため、主要経済指標を長期的に合理的な範囲に維持する必要がある」とし、成長率も引き続き重視する姿勢をみせている。

 

この2035年目標を実現するためには、2020年比でGDPを倍増、今後年平均4.7%以上の成長が必要。中国経済は本当に不動産依存、高債務体質の成長モデルから脱却しつつ、向こう10年以上にわたって5%前後の成長を続けることができるのかが問題となる。

 

【第2】民間部門への対応 

 

第2に民間部門への対応だ。習の政治キャンペーン「共同富裕」は巨大民間企業への締め付けなどで評判が悪く、このところあまりプレイアップされなくなっていたが、20大報告は再び「今後の党の中心任務は社会主義現代化強国建設で(中略)全人民の共同富裕現代化」など複数回強調。党章改正でもこれまでの「実現が最終目標」から「漸進的に実現」と踏み込んだ。

 

このため、過度な市場規制や所得分配平等化が民間主導市場経済の活力を削ぐとの疑心暗鬼が再び台頭。アリババは2021年9月、「反独占」を名目に182億元の罰金を科された後、累計1000億元を「共同富裕」促進のために拠出したとし、その他の多くの企業も同様に「自主的に」拠出していることを公表。

 

過去1年間、1億元以上寄付した富豪は10人増の49人と過去最高で寄付総額728億元、他方50億元以上の資産を持つ富豪は11%減の1305人(2022胡潤慈善榜)。フォーブス長者番付(2022年)によると、中国の富豪上位100人の2022年資産総額は9071億ドル、前年比39%と20年来の大幅減。このうち10%ポイント程度は人民元の対ドル相場下落によるもの、またマクロ経済減速も大きいと考えられるが、「共同富裕」による締め付けも要因の1つとして指摘されている。

 

いくつかの国有大企業が管理職報酬と末端工場労働者賃金の格差を是正する措置を検討中、また党中央に純資産または銀行預金1000万元以上の富裕層の脱税などを専門的に調査する「高所得者管理局」を設置する動きなどが伝えられている。

 

しかしこれらはいずれも、「金持ちを脅して金を奪うだけの茶番(閙劇)」との声がある。景気減速による歳入伸び悩みとゼロコロナ政策実施に伴う支出増を背景に財政が悪化する中、財政穴埋めのために「共同富裕」スローガンが利用されるのではないかとの声もある。

 

社会科学院系列の国家金融発展実験室推計では、政府部門債務の対GDP比は2015年以降一貫して上昇(2015年末36.9%→2022年9月49.7%)、財政部統計では不動産市場低迷を受け、地方歳入の3割を占め、かつては10~40%の高い伸びを示していた土地譲渡収入は2021年3.5%増、2022年1~11月24%減と大きく落ち込んでいる。

 

 (注)人民銀行推計では2020年末280.2%(企業161.7%、家計72.6%、政府45.9%)、2021年末272.5%(各々153.7%、72.2%、46.6%。 (出所)国家金融発展実験室(NIFD)、人民銀行四半期別貨幣政策執行報告
[図表2]各部門債務対GDP比(%) (注)人民銀行推計では2020年末280.2%(企業161.7%、家計72.6%、政府45.9%)、2021年末272.5%(各々153.7%、72.2%、46.6%。
(出所)国家金融発展実験室(NIFD)、人民銀行四半期別貨幣政策執行報告

 

【第3】経済運営の内向き志向の強まり 

 

第3に経済運営の内向き志向の強まりが挙げられる。2020年に提唱され、現行第14次5カ年計画(2021~25年)にも盛り込まれている「双循環」は、国内・国際市場を相互に発展させる戦略だが、もともと内需を基本に置く「国内大循環」が強調され、その後、海外からの懸念を受け表現が修正された。

 

実際5カ年計画でも「国内大循環が主体」と明記されている。さらにウクライナ問題を契機に、経済安全保障強化(科学技術力の強化、エネルギーや食糧の自給率向上)を強調する場面が増えている。これらの点はすべて20大報告でも強調されている。

 

権力集中を強めた習政権は今後、かつて鄧小平時代にナンバー2だった陳雲が全面的開放・市場化に反対して唱えた「鳥籠経済モデル」、つまり計画経済(籠)の枠内での部分的開放・市場化(鳥)を目指すとの見方がある(かつて趙紫陽のブレーンだった専門家の指摘。2022年11月23日付海外華字誌新唐人TV)。過去10年間、国有企業が拡大し民間企業が後退する「国進民退」など、すでにそうした傾向は顕著にみられている。

 

次回(第3回)では引き続き経済面の不確実性についてみていく他、戦狼外交と呼ばれる中国の好戦的対外強硬路線の行方を占う。

 

 

金森 俊樹

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