成年後見人等になる法人と弁護士が協業するメリット
これらを解決するために考えられるのが、成年後見人等になる法人と弁護士との協業です。法人と弁護士がタッグを組んで成年後見人等に受任し、各自が得意分野ごとに役割分担をする体制を構築しておくことで、家庭裁判所は弁護士とともに法人も成年後見人等に選任することを認めてくれるようになります。
法人後見と弁護士の協業が一般的になることは、不動産業者にとっても非常に良いことだと思います。不動産業者は身寄りがない方から「所有している不動産を売却して施設入所をしたい」または「施設入所したことで自宅へ戻れる見込みがなくなったので不動産を売却したい」といった相談を受けることが少なくないと思います。
しかしながら、本人が施設入所を希望したタイミングや、施設入所したあとでのタイミングでは、本人の判断能力を疑問視されることが多々あります。このような場合、本人に成年後見人等がいなければ不動産を売却することはできません。そのような場合に成年後見人等に就任できるのは弁護士といった法律の専門家に限られています。
従来は不動産を売却するために成年後見人等に就任する弁護士を探すことは容易でした。ところが、これからは高齢化が進んでそれが困難になるはずです。さらに不動産業者にとっては、日頃から付き合いのある弁護士に成年後見人等に就任してほしいという希望も加わるので、なおさら難しいことになると思われます。そうした場合に法人後見と弁護士の協業が一般的になっていれば、不動産の売却をスムーズに行いつつ、本人のための日常的な支援は法人後見で進めていくということが可能になります。
また、親御さんが所有している不動産を親族が売却したいと相談に来るケースも多いはずです。このような場合、相談に来た親族から「本人は身体は不自由だが、判断することは可能である」といった説明を受けると、それ以上本人の判断能力については深く踏み込まないのが通例です。
しかしながら、そのようにして売却等の業務を進めていき、いざ決済となったところで担当する司法書士から本人の判断能力を否定されて取引の継続が難しくなることもあります。その時点から成年後見人等を選任したうえで取引を継続することも不可能ではありませんが、本人に判断能力がないのに取引を進めてきたということであれば、新たに成年後見人等に選任された弁護士は不審に思い、取引をやり直すために別の不動産業者に依頼するという事態にもなりかねません。
このようなケースでも法人後見のスキームは有効です。現行の制度では、資産売却等の法律業務が予定されているときは親族が成年後見人等になれる可能性は低い、と説明しました。しかし、そのような場合でも日頃から付き合いのある弁護士と法人のタッグによる成年後見人を親族から希望してもらうことで、それまでの親族との関係を維持しながら不動産売買を実現できる可能性が高まります。