権利関係を整理しながら契約を進める必要性
また、仮にAさんが遺言書を残してBさんへすべての遺産を相続するとしていたとしても、C~Fさんの「遺留分」を剥奪することはできません。遺留分とは、遺言によっても侵害されないC~Fさんの相続権で、法定相続分の2分の1ずつです。
ただし、Bさんのように介護に尽力した人を相続において有利に取り扱わなければ不合理といえます。そのため、法律では「寄与分」という制度によってBさんに多くの相続財産を与えることになっています。寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に貢献した相続人がいた場合、ほかの相続人よりも遺産を多く分けてもらうことができる制度です。
このケースでは、裁判所においてBさんに2000万円の寄与分が認められるとされました。これを遺産である自宅不動産に反映させると、
となり、Bさんは寄与分を含む2600万円、C~Fさんは各600万円を受け取れることになりました。これを自宅不動産の割合に置き換えると、Aさんは「50分の26」、C~Fさんは各「50分の6」の共有持分となります。
そして、C~Fさんが自分たちの推薦する不動産業者で売却活動を行うのではなく、Bさんの推薦する不動産業者で売却活動を行う方向で弁護士に調整してもらいました。持分をいちばん多く保有できたため、スムーズに調整できました。
その結果、Bさんは相談していた不動産業者に買主を見つけてもらい、諸経費を控除した残金を共有持分の割合に応じて分配することとなりました。
なお、「そもそもAさんが遺言書を作成していればこのような紛争にはならなかったのではないか」と考える人もいると思います。しかし、不動産以外に遺産がない以上、遺言書によっても遺留分の問題を解決することはできなかったはずです。
そして、この不動産業者としては、弁護士に相談することなく寄与分を反映しない売却活動の提案をしていたら、Bさんは媒介契約を結ばなかったはずです。
また、弁護士を通じてほかの相続人との関係もうまく維持しながら進めなければ、別の不動産業者に媒介を依頼されていた可能性もありました。このような意味でも、不動産業者と弁護士が協業して権利関係を調整しながら進めていく必要があるのです。