新しい世界への扉を開く数学
本書では、中学数学を学び直すことで、考えることの楽しさを味わって頂くことができます。「2次方程式の解の公式がなぜ成り立つのか?」という疑問を紐解くことで、2次方程式の解の公式の内側には、四則演算、等式の性質、分配法則、因数分解、平方根などが互いに結び付く広大な世界があることが見えてきます。数学の世界が広がり、面白さを感じることができるのではないでしょうか。
一方、暗記を主体として数学を学ぶと、知識を定着させるために多くの練習問題をこなす必要があります。学習の難易度が増すと勉強が一層苦しくなります。苦しい割に、学ぶ内容も表面的になります。
このように、考える学習と暗記主体の学習とでは理解度が大きく異なります。数学では、苦しい学び方を選ぶと苦が、楽しむ学び方を選択すると楽が待ち受けています。苦あれば苦あり、楽あれば楽ありです。
考えることの大切さはビジネスにおいても同じです。たとえば本書で紹介しているパスタ屋のケースでは「1日あたり何皿売れば利益が出るのか?」を計算することで損益分岐点が分かり、販売目標も明確になりました。
また、「ヒットメニューが開発できたら儲けはいくらになるか?」を計算することで、現状の店舗の広さのままで倍以上の売上を上げられる希望が見えてきました。この数字により、Y氏は新メニューを開発するモチベーションを高め、クリエイティブな活動に集中することができるようになります。
さらに、「時短営業した時の利益はいくらか?」を計算することで、夜の部だけの営業でも生活ができることが分かるなど、将来のライフスタイルを考える上で有益な情報を得ることができました。論理的にビジネスを考えることで世界が開けてゆくのです。
「理をもって和をなす人になれ」の真意
一方で、販売目標の算出もせず、闇雲に経営していると不安を拭い去ることはできません。私は、新入社員の頃、「和をもって理(ことわり)をなすのではなく、理をもって和をなす人になりなさい」と上司に言われました。仲良くすることで人をまとめるのではなく、明確な筋道を立てることで組織を束ねる人になれという意味です。
実際に、売上の低迷や問題の発生が原因で責任の押し付け合いや不信感が生まれ、仲の良かった組織の雰囲気が簡単に悪化してしまうケースを見てきました。困難な状況下でも信頼関係で結束できる組織を作るには、論理と数字に裏付けられた戦略が不可欠です。
以上のように、論理と数字は新たな世界を切り開き、クリエイティブな仕事を支え、ビジネスを安定させることに役立ちます。皆さんが中学数学で身につけた論理と数式を扱う力は、業界や地位を問わず、皆さんの役に立つでしょう。
繰り返しになりますが、ビジネスにおいては中学数学で十分です。今後は、実践を通じて磨きをかけていってください。
具体的な実践方法はさまざまです。ビジネスパーソンの方であれば会社の売上を分解し数式化してみる、お子様がいる方は本書で学んだことを子供に伝える、あるいは友人に自分の言葉で説明してみる、中学数学の参考書を解いてみるなど、皆さんが取り組みやすいことから始めてみてください。皆さんにとって、新しい世界の扉が開けていきます!