DX推進するにあたりDXとIT化との違いがよくわかっていない人は多いように見受けられます。たしかに、DXとIT化とはデジタルという点では同じであるため、違いがわかりにくくなっています。
本記事では、DXとIT化の違いについて解説します。また、IT化によるDX実現事例を紹介して、DX推進のメリットをわかりやすく説明します。
1. DXとは何か
DXとIT化の違いを説明する前に、まず、DXの意味と定義についてわかりやすく解説します。
1.1. DX(デジタルトランスフォーメーション)の意味
DXは「Digital Transformation」の略で、デジタル技術を用いてビジネスや生活をよりよく変革するという意味があります。
身近なものが次々とDXにより変革されてきています。たとえば、ネットバンキングは銀行のあり方を大きく変えました。それまでは銀行に直接出向いて口座開設や振込、振替を行わなければなりませんでしたが、ネットバンキングの登場で取引がオンライン上で完結します。
映画や新幹線のチケットもオンラインで簡単に購入可能です。
DXは日本でもビジネス用語として定着しており、経済産業省は企業に対してDX推進を呼びかけています。
1.2. 経済産業省が示すDXの定義
経済産業省はDXを下記のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応して、データとデジタルテクノロジーを活用することにより、顧客や社会の需要を基にして、製品、サービス、ビジネスモデルを変革すると同時に、業務自体や組織、プロセス、企業文化および風土を変革して競争上の優位性を確立すること」
引用:「DX 推進指標」
単にデジタルツールを導入しただけでは企業のDXが進んでいるとはいえません。データ・デジタル技術は企業を変革するための「手段」なのです。
1.3. DXに「化」をつけるのはおかしい?
DXは「DX化」と表現されることもたまにみられ、「化」がつくことによって「IT化」や「デジタル化」と混同されることが多いかもしれません。DXとは、「変革」という意味を含む言葉です。したがって、「化」は不要です。
DXは新しい価値の創出につながるものであり、IT化やデジタル化とは異なります。
2. IT化とDXの違いとは?
IT化とDXにはどのような違いがあるのか、それぞれの定義と関係性について解説します。
2.1. IT化とはデジタル化したデータのIT技術による活用
ITは「Information Technology」の略であり、情報を取得、加工、保存、伝送するための科学技術をさします。ここでいう「情報」とは、動画、画像、テキストなどを指します。
アナログだった既存の業務をデジタルツールの導入によってデジタルへと置き換えるというシンプルなものであり、業務自体の変革を意味していません。
2.2. IT化はDXを推進する1つの手段
IT化は企業がDXを進めていくための手段の1つです。それまで従業員が手作業で行っていたアナログ業務を、デジタルを用いて置き換えることです。
これに対し、DXとは、IT化によってさらに業務の効率化が実現し、生産性が向上するという業務の変革をさします。
従来の業務システムをクラウドに移行することはDXとは違います。クラウドへの移行は、データの保存場所を変えることで、業務効率を上げるものではないからです。
ITツールを導入する場合、オフラインでの業務を前提としてきた人たちは、それによってどの業務をどのように改善するのかという変化を考えておくことが必要です。
IT化をはじめとするデジタルテクノロジーによる業務変革を成し遂げてこそ、DXにつながるのです。
3. IT化によるDX実現の事例
本項では、IT化によるDX実現の事例を挙げて、企業の業務がどのように変わったのか解説します。
3.1. 各種クラウドサービス導入によるテレワークの実現
2020年以降、テレワークを導入する企業が大きく増加しました。
テレワークの導入には業務をデジタル化することが必要であり、書類の電子化やコミュニケーションツールのほか、「各種クラウドサービス」の導入が求められます。
Microsoftの「OneDrive」やGoogleの「Google Drive」などを使うと、メールやデータの保管場所をクラウド化することによって、オンラインであればいつでも業務ができ、ファイルを共有することで、複数人による同時編集、確認を実現できます。
3.2. RPAの活用による人的リソース不足の解消
RPA(Robotic Process Automation)とは、人が作業する代わりにロボットが自動的に業務を行ってくれるツールです。単純な入力作業についてRPAを活用して自動化すると、人的資源を別の複雑な業務に割り当てることができ、人的資源の不足の解消につながります。また、機械の仕事は正確なので、ミスの削減にもつながります。
3.3. クラウド型会計システムの導入で経営状況の可視化
クラウド型の会計システムを導入すると、経営状況の可視化につながります。ツールやシステムによって集められた情報を適切に集計し、リアルタイムでの経営判断や事業判断に役立てることができます。
経営者と役員、現場の責任者、担当者とでは、見たい数値が違ってくるため、財務的な指標と要因分析可能な情報を適切に管理しておくことが必要です。これにより、各人が必要な情報にいつでもアクセスできるようになります。
また、ペーパーレス化や業務の自動化および効率化実現によって確保したリソースを活用し、経営管理部門が重要課題に対する分析や提案をして、組織全体の変革を行えます。
4. デジタル化とDX・IT化との違いも把握しよう
デジタル化とDX・IT化も意味・意義が異なります。そこで、デジタル化が何を意味するのか、DX・IT化とは何が違うのか、解説します。
4.1. デジタル化には2つの意味がある
「デジタル化」には2つの意味が含まれています。その2つについて、詳しく見ていきましょう。
【デジタイゼーション】
業務の効率化や合理化を目的として、シンプルなデジタル化を目指すもの
「デジタイゼーション」は「デジタル化」推進のファーストステップです。
たとえば、書類のペーパーレス化やリモート会議ツールの導入、RPAによる業務自動化、署名のクラウド化等です。
【デジタライゼーション】
デジタル化することでサービス・製品などに価値をプラスすること、ビジネスモデルに付加価値を与えること
「デジタイゼーション」のさらに先にあるものが「デジタライゼーション」であるといえます。
たとえば、請求書をデータ化するのが「デジタイゼーション」、請求書の受け取り自体をクラウドで済ませるサービスを導入することが「デジタライゼーション」というイメージです。
4.2. デジタル化もまたDXを推進する1つの手段
DXとはデジタライゼーションからさらに一歩進んだ状態を指します。デジタライゼーションを基礎として、それを活用して変化を起こすこと、そしてさらに多くの利益を生むための経営戦略などを再構築するためのものです。DXは関連する業界や人々の生活に対して、大きな変化を与えることであるといえます。
DXはデジタル化と間違われることが多いですが、DXとデジタル化は段階が異なる概念です。デジタル化はDXの前段階であり、デジタル化が実現したあとに初めてDXが可能となります。
DX推進を考えている企業はまず、DXの足がかりとしてデジタル化に取り組むことが必要です。
4.3. デジタル化とIT化の違い
デジタル化とIT化は同じような場面で用いられることが多いのですが、意味は異なります。デジタル化とIT化の違いは下記の通りです。
デジタル化 |
デジタル化情報を数字で表せる状態にすること |
IT化 |
デジタル化された情報をシステムなどに活用し、 目的に応じて有効に使えるようにすること |
デジタル化とIT化の意味の違いを理解し、正しく使い分ける必要があります。
5. 企業がIT化を行う3つのメリット
企業がIT化を行うことのメリットについて解説します。IT化のメリットを理解しておくことはDX推進のためにも重要です。
5.1. 情報の管理や共有が容易になる
IT化することでデジタル化した情報が自由に使える仕組みが整うため、情報の管理や共有が容易になります。
紙の書類を使用、保管する場合、共有したい相手のところへ持っていかなければならなかったり、複数人と共有しにくかったりと、大変不便です。保管場所から大切な書類が紛失する恐れもあります。
しかしデジタル化した情報であれば、メールやチャットツールなどでいつでも容易に共有でき、アクセス権限やパスワードなどを使うと管理もしやすくなります。
5.2. 業務効率化の結果生産性が向上する
IT化すると、企業内の手間や時間がかかる業務を自動化でき、業務効率化ができるため、結果として生産性が向上します。
日常的に大量のデータを扱う場合、その都度人が作業するのは大変です。IT技術を活用すれば、面倒な作業を自動化できるため、大幅な効率アップを実現できます。
IT化により目に見える形で業務効率化が実現し、生産性の向上を実感できます。
5.3. DX推進の第一ステップとなる
IT化を進めることはDX推進の第一ステップです。
IT化によって業務効率化が行われると、社内での情報技術に対する認識が変化し、新しい価値の提供につながりやすくなります。
IT化が進んでいない企業でいきなりDXを持ち出しても、社内の理解を得るのは困難です。DX推進のためにもまずはIT化を推進していく必要があるということです。
6. 企業がDXを推進する6つのメリット
本項では、企業がDXを推進するメリットを6つ紹介します。
6.1. 人材不足を解消できる
DXを推進することで業務の生産性が向上するため、人材不足の解消につながります。RPAなどのロボットツールでこれまで人が行っていた単純作業を自動化できるため、人的資源を他に振り分けることが可能です。
また、退職や異動のたびに人員の補充が必要だったところも、DXで業務効率化できれば必要な人員の数を減らすことができるため、コスト削減にもなります。
6.2. レガシーシステム運用によるリスクを回避できる
DXにより、「レガシーシステム」の運用から脱却することができます。レガシーシステムとは、汎用性のない古いシステムのことです。
たとえば、基幹システムが何年も使用しているために老朽化していたり、現代社会の変化に対応できていなかったりするケースをさします。レガシーシステムに頭を悩ませている企業は少なくありません。レガシーシステムをそのまま使い続けていては社会の変化に対応できず、衰退していくリスクがあります。
しかし、DXによりシステムの変革を実現すれば、レガシーシステムを使い続けるリスクを回避し、時代にあったシステム構築による企業変革を推進していくことができます。
6.3. 新規ビジネスを立案・開発するチャンスになる
DXを推進することは、新規ビジネスの立案や開発するチャンスです。DXを進めていくと、これまで以上に大量のデータを収集できるため、ビッグデータの活用によりさらに革新的な新規ビジネスを開発できる可能性が高まります。
たとえば、アマゾンが無人コンビニを出したことが大きな話題となりました。無人コンビニでは消費行動の現場でAIカメラを活用することによって、顧客の行動パターンを把握し、新規ビジネスに役立てています。
6.4. 競争力を高められる
DXの推進はどの企業も頭にはあるものの、実際に自社の業務改善に向けて動き出せているところはというと、まだ多くはありません。
競合他社に先駆けてDXを推進していくことは、競争力を高めるうえで大きなアドバンテージとなります。
また、自社のブランディング向上にもつながるため、優位にビジネスを展開することができる可能性が高まります。
6.5. 働き方改革につながる
DX推進は働き方改革にもつながります。
AIやRPAといったツールを活用することにより、従来の業務を自動化でき、効率性と生産性が大きく向上するため、これまでとは違う働き方が可能になります。
クラウドを通して業務ツールを使用することや、ファイルへのアクセス・共有もできるため、テレワークを導入して仕事をする場所を自由に選択することが可能です。
6.6. 市場で生き残れる企業体質になる
DX導入によって事業や業務がデジタル化されると、市場の変化や消費者の行動の変化に対して臨機応変に対応できるようになります。
AirbnbやUberなどの新しい企業が今までにないビジネスモデルで既存市場に参入し、市場を大きく変化させています。今後もデジタル技術や最先端のマーケティング技術により、市場の変革が起こると考えられています。
柔軟に対応することでビジネスモデルそのものも変革できれば、激しい競争をくぐり抜け、市場で生き残れる可能性が高まります。
7. DX実現の第一歩|IT化推進に必要な2つのこと
DX実現の第一歩として重要なのは、企業がIT化を積極的に推進していくことです。IT化の推進なくしてDXの実現は考えられません。
IT化を進めるにあたって重要なポイントを2つ紹介します。
7.1. データをデジタル化(電子化)する
書類や画像など、IT化によりあらゆるデータをデジタル化できるようになりました。
2020年以降、多くの企業が積極的にテレワークを導入しており、データのデジタル化はテレワークには欠かせなくなっています。デジタル化されたデータは保管場所を確保する必要もなく、どこからでもアクセス可能で、テレワーク環境に寄与します。
これまでの組織のあり方や仕事の仕方を再チェックし、企業の生産性を高めていくという意味でも、デジタル化は必要不可欠といえます。
7.2. クラウドサービスを適切に導入する
DXにはクラウドサービスの導入が必要不可欠です。
チャットツールやストレージサービスなどのクラウドサービスを活用することで、媒体がなくてもスムーズに情報共有を行うことができ、業務の効率化を実現できます。チャットツールは社内外のやり取りを一括管理できますし、会計システムを使えば発注書や請求書をデータで管理できます。
まとめ
DXとIT化の違いについて具体例やメリットを挙げて説明しました。
DXは、IT化を推進し、企業のビジネスモデルを変革させることです。すなわち、DX実現のためには、まず企業のIT化を積極的に推進していかなければなりません。
データのデジタル化やクラウドサービスなどを上手に活用し、それによって、DX推進につなげていく道筋を立てることが必要です。