会社役員の場合、不倫は役員解任事由になるか
会社の役員の場合は、会社との関係は委任関係であって雇用関係ではありませんから、解任にあたっては、むやみな解雇を無効とする解雇権濫用の法理ははたらかず、解任にあたって「正当な理由」があるかが問題となります。
不倫が直ちに役員解任事由となるかについて正面から論じた裁判例は見当たりませんが、役員の解任には、「業務執行の障害となるべき客観的状況がある場合」であることが必要とされますから(大阪地裁平成10年1月28日判決)、不倫があったからといって、業務に専念しないとか、その特定の関係性から会社の信頼を損なわない限り、ただちに解任事由とはならないのではないかと考えられます。
「解任」を待たずに「辞任」したことのへの評価は…
冒頭の事例に戻ります。
いうまでもなく、「辞任」は「会社から辞めさせられる(解任)」を待たずに自ら「辞める」ことです。みてきたように、不倫(たとえ妊娠あっても)はそれ自体役員をやめるべき法的理由となるものではありません。
それにもかかわらずの今回の辞任は、社会的な信頼の失墜を避けるため、自ら退いたというのが通常の見方であろうと思います。殊に、不倫の場合には、傷ついているであろう相手配偶者への配慮も不可欠ですから、報道されるような大企業では、当人がそのような結論に至るのもやむを得なかったことだと思います。
一方で、冒頭の会社はコロナ禍を受け業績は好調であったとの報道もあります。
そのような中ですから、今回の件が、日本でのことなく、大統領クラスがスキャンダルを起こしてなお活躍し再任する諸外国であったらどうか……と考えると、何とも複雑なところではあります。