(※画像はイメージです/PIXTA)

「老後破産」という言葉で思い浮かぶのは、現役時代に十分な給与を得られず、年金も少なく、年齢を重ねていよいよ資金が底を突き…という高齢者像かもしれない。しかし実際には、むしろ豊かな生活を送ってきた元エリートも含まれる。なぜそのようなことが起こってしまうのか、実情を探る。

高齢者の「100人に1人は無年金」という現実

裁判所の「司法統計月報(速報値)令和4年度9月度」によると、全地裁で新たに受理された破産事件は5,915件、1月からの累計は5万1,410件だった。9月の破産件数のうち、自己破産は5,880件、うち個人の自己破産は5,411件だった。都道府県別で最も多いのが東京都、そして大阪府、神奈川県と続いた。

 

「自己破産」とは、財産や収入が不足し、借金返済の見込みがないこと(=支払不能)を裁判所で認めてもらい、借金の支払い義務を免除してもらう(=免責)手続きをいう。特別な債務を除き借金の支払い義務がなくなることで、生活再建がしやすくする。このとき、生活に不可欠な財産の保持は認められるが、高価な財産は処分することが求められる。

 

近年、マスコミ報道でよく聞かれる「老後破産」とは、現役を引退し年金生活となった人が、破産状態に追い込まれることをいう。日本弁護士連合協会、消費者問題対策委員会の『2020年破産事件及び個人再生事件記録調査』によると、60歳以上の自己破産者は全体の25%超。また70歳以上はおよそ10%となっている。

 

老後破産と聞いてまず思い浮かぶのは、現役時代からの預貯金や、その後の公的年金の金額が低い人だろう。

 

国民年金受給者の平均受取額は月額5万6,358円、厚生年金受給者の平均受取額月額14万6,145円(厚生労働省『令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』より)だが、厚生年金を受給する元会社員でも、年金が10万円に満たない人は23%ほどいる。また、無年金の人は全国に52万1,803人、65歳以上人口は3,600万人ほどであり(厚生労働省『令和3年度 後期高齢者医療制度被保険者実態調査』より)、年金なしの高齢者は1.44%、つまり、100人の高齢者のうち1人以上は無年金である。

「高給取り」の自己認識が、老後破産のリスクに

だが、資産形成が十分可能な給与をもらい、それなりの公的年金を受給していても、老後破産は対岸の火事ではない。支出が収入を上回る状況が続けば、遅かれ早かれ資金ショートしてしまう。

 

とくに50代の間に十分な収入を得ていた、いわゆる「高給取り」は要注意だといえる。

 

会社員生活のうち、給与がピークに達するのは50代である。大卒で大企業に勤務する部長職であれば、平均月収(所定内給与額)は74万4,600円にもなる。賞与なども含めた年収は、推定1,238万2,300円だ(平均年齢52.4歳、平均勤続年数25.4年。厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』より)。

 

一見すると、十分すぎる給与額で老後の資産形成も余裕、なおかつ潤沢な年金額が予想されるが、給与額に安心して生活のさじ加減を誤ると、定年退職後に泣きを見ることになる。

 

50代なら子どもはまだ学生のケースが多い。大学や大学院の学費はもちろん、住宅ローンも抱えていれば、出ていく金額も大きくなる。傾向として、収入が高い人は子どもの教育費にお金を惜しまないケースが多く、周囲が想像するより預金ができていないことがままあるのだ。私立理系の大学・大学院はもちろんだが、もし海外の大学に進学したら、学費は相当な金額にはねあがる。

 

やっと子ども関連の出費が一段落したら、今度は自分が定年退職になるタイミングだ。いまは65歳まで嘱託社員等で勤務を続けるケースが多いが、嘱託になれば当然、収入も大きく減少することになる。2~3割の収入減ならまだ恵まれている方で、定年と同時に役職定年ともなれば、減少額はさらに大きくなるだろう。

 

このタイミングで、生活の収支を引き締められた人は老後も堅実に過ごせる可能性が高いが、問題なのは、高所得だった時代の金銭感覚が修正し切れなかった人だ。収入が先細りするのがわかっているのに、これまで同様の消費行動が止まらない。それどころか、子どもが手を離れたぶん気が大きくなり、さらに加速したりする。

 

嘱託勤務を経て年金生活になれば、収入はさらに半減するが、大企業の会社員の定年退職金は平均2,000万円程度のところ、超エリートともなればさらに金額が大きくなる。通帳の預貯金額に油断すれば、老後破産までまっしぐらだ。贅沢な食事や旅行、自分へのご褒美と称した車などの高額な買い物によって、あっという間に目減りしていく。

 

総務省の『家計調査』によると、高齢者夫婦の1ヵ月の収入は23万円程度だが、支出は26万円程度。つまり、毎月3万円の赤字になる計算だ。赤字分は貯蓄を取り崩すことになるが、夫婦で30年生きるとすると仮定した場合、1,080万円以上の貯蓄があれば、計算上は平均的な暮らしが続けられることになる。

 

だが、50代後半の消費支出は33万円程度。平均世帯人数が3人強、教育費が2万円ほど(総務省『2021年 家計調査』より)と、一概には比較できないが、「月々33万円の生活費」のまま年金生活に突入すれば、毎月の赤字額はおよそ10万円。貯蓄も3倍必要になる。

 

老後破産に陥らないためには、生活のダウンサイジングや、金銭感覚の軌道修正が不可欠だ。しかし、これまで高給取りの会社員として過ごし、「大きく稼いで大きく使う」感覚が染みついていると、軌道修正のタイミングを失してしまいがち。

 

高い収入を得ている50代会社員こそ、自身の家計を見つめ直し、年金生活に向けての「慣らし運転」をスタートさせることが重要なのである。

 

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