IT技術の進化は非常に速く、日常生活だけでなく企業活動でも、デジタル化の流れはますます進んでいます。
そんななか、今や誰もが耳にするようになったキーワードが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。しかしDXとITは何がどう違うのか、よくわかっていない方も多いことでしょう。
本記事ではDXの意味やIT化との違い、DXとは何か、目的と効果や課題について解説します。最後までご覧になって、DXへの理解と自社への導入に活かしてください。
1. DX推進の企業担当者必見!DXの意味やIT化との違いとは?
「DX」と「IT化」は意味が大きく違います。「DX」の意味と「IT化」との違いについて解説します。
1.1. DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?簡単に解説
DXとは「Digital Transformation」を略した言葉です。
Transformationの意味は「変容」ですので、DXを直訳すると「デジタルを用いた変容」ということになります。すなわち、デジタルテクノロジーを用いることで、人々の生活、ビジネスが変容していくのがDXです。
DXの解釈は必ずしも明確になっているとはいえませんが、経済産業省はガイドラインのなかで「企業がビジネス環境の激しい変化をデータ・デジタルテクノロジーを活用し、競争上の優位性を確立すること」としています。
DXは従来の業務を変革するものとして、広く浸透しつつあります。
1.2. 密接に関係するDXとIT化の違いは、簡単にいうと「目的と手段」
DXはデジタルテクノロジーを活用することによって製品、サービスおよびビジネスモデルを変えていくものであるのに対し、IT化はDXを進めるための手段であり、IT化の先にある目的がDXであるといえます。
単なるIT化だけだと、目的が既存の作業工程を効率化するだけのものも含まれてしまいます。
IT化が既存のプロセスをどのように向上させ、何を変えるのか。そしてDXのプロセス自体をどう変化させるのかを考えてみることが重要です。
1.3. DXレポート2で示された「DX推進の3段階」
DXと同じ意味を含む言葉として「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」があり、日本語訳にするとどちらも「デジタル化」という意味です。しかし、事業として考えたときは意味合いが違っています。
「デジタイゼーション」は工程を効率化するためのツール導入などの部分的なデジタル化で、「デジタライゼーション」は自社や外部、ビジネス環境面も含めた長期的視野でみたときのプロセス全体をデジタル化していく取り組みのことを指します。
DXを含めたとき、3つの言葉の関連性は次のとおりです(【図表1】参照)。
- デジタイゼーション:アナログの情報をデジタル化する・局所的
- デジタライゼーション:プロセス全体をデジタル化で新しい価値を生みだす・全体的
- DX(デジタルトランスフォーメーション):1と2の結果として、社会的影響を生みだす
2. DX推進の重要性が高まった背景にある「2025年の崖」
DXにとって課題のひとつとなっているのが「2025年の崖」です。
2025年の崖とは、企業が古いシステムをそのままにしていることでDXが進められなかったり、既存の基幹システムに対するサポートが2025年以降、続々と終了することにより、日本国内全体として大きな経済的損失が発生したりするという意味です。
2025年の崖によってシステムトラブルのリスクが高くなるのはもちろん、既存システムを維持していくために高額な管理費用などを支払うことになります。経済産業省の試算によると、2025年~2030年の間に、年間で最大12兆円もの経済損失が発生するとされています。
多額の経済損失の原因は、システムのカスタマイズが過剰であったり、各事業部が横のつながりを考えずにシステム構築したりすることで複雑化、ブラックボックス化して特定の人しかわからなくなってしまっていることです。
基幹システムを入れ替えようにも、業務全体を見直す必要があるため、各事業部間で溝が生まれてしまうケースもあります。
3. 企業におけるDX推進の目的・見込める効果
DXは国が主導してさまざまな対策を行っていますが、企業にとってはどのような効果が見込まれるのでしょうか。具体的に説明していきます。
3.1.「2025年の崖」のリスクを回避できる
「2025年の崖」の最も大きな原因となるのが、各企業が持つシステムの複雑化、ブラックボックス化です。元々の社内システムに改修、改善を加え続けたことで複雑化してしまい、逆に使いづらくなって放置されているケースが多いといわれています。
古いシステムをそのままにしていると業務効率を阻害し、高額な維持費が発生するうえ、システムを理解している人が少なくなってブラックボックス化します。
DX化で既存のシステムの置き換えが進めば、2025年の崖によるリスク回避が可能です。
3.2. 生産性が高まり企業としての競争力が向上する
DXを推進して得られる最も大きな効果は、デジタル化により業務の生産性および正確性が向上することです。
デジタル化で業務最適化が進むと、作業時間が短縮されて人件費を減らすことができ、人が介在することで発生するエラーも回避できるため、正確性を向上させることが可能です。
業務の生産性と正確性向上に効果を発揮できれば、現場のスタッフは作業に時間や手間をかける必要性が大きく減ることになるため、より重要度が高い業務に取り組めるようになります。
3.3. BCP(事業継続計画)を充実させることができる
BCP(事業継続計画)とは、企業が地震や火災などの災害や障害など、システムが危機状況にある際も被害を最小限に抑えて、業務を継続できるようにするための対策などを決めておく計画のことです。
DX推進により業務効率化を実現すれば、不測の事態が発生した際も柔軟に対応できます。
BCPは企業が通常業務を早期再開できるようにするためにも、非常に重要なものなのです。
4. 企業のDX推進を阻む5つの課題
企業のDX推進の重要性、必要性への理解は広がってきていますが、DX化を阻む課題が懸念されています。ここでは推進を阻む5つの課題について解説します。
課題①:DX推進人材の不足
DXを推進するうえで必要不可欠なのが人材の確保です。しかし多くの企業がプロジェクトを担うDX人材を集められずにいます。
企業が求めるDX推進人材は「デジタルに精通していること」「チームの先頭に立って事業を変革できる知見とスキルを持っていること」です。
IPAの「DX白書2021」のなかでも、日本企業では担える人材が量も質も圧倒的に不足していると指摘しています。そのため、重要性は理解されていても、思うように進められないというのが現状です。
課題②:開発手法を変化させることへのハードル
DXは従来のようなプロジェクトの進め方では対応できないかもしれません。
DX推進は変化の激しい時代において、ニーズおよび環境を考慮してビジネスモデルや開発要件を柔軟に変えていく必要があるからです。
つまりDX化を成功させるためには、ニーズや環境の変化に柔軟に対応できる「デザイン思考」や「アジャイル思考」などの開発手法、思考法を取り入れなければなりません。
開発手法を変化させるにはまだまだハードルがあるといえます。
課題③:データ収集と利用・活用の停滞
変化の激しい時代ではいち早く対応できるよう、データの収集と利用・活用が欠かせません。
しかし、データの利用・活用を正しく行えている企業は少なく、必要と思われるデータを延々と収集したはいいがどう活用していいかわからなかったり、データを収集する基盤そのものが準備できていなかったりするなど、課題を抱える企業が多く見受けられます。
データを利用・活用するためにはどう使うのかという視点から逆算し、なぜデータを集める必要があるのか、集めたデータをどう活用するのか、データ収集の基盤を構築する必要があります。
課題④:DX化に伴う高額コスト
既存システムをDX化するには高額なコストが伴います。
企業で使用している既存のシステムを置き換えていかなければならないためです。また、企業内のDX人材が不足しているなら採用を進める必要もありますので、人件費の負担も考慮しなければなりません。
DX化を実現すれば業務が効率化され、さまざまな恩恵が受けられますが、それまでは高額なコストを負担しなければならないことを理解しておく必要があるでしょう。
課題⑤:組織全体の推進・協力意識の不足
DXを推進していくには、組織内での十分な理解や各部署との連携が必要です。
しかし社内の利害関係者それぞれに思惑があり、なかなか合意を得られなかったり、各部署間の協力体制が築けなかったりすることが壁となる場合があります。DXに関して、人材の待遇や評価基準、どのような人材が必要かが明確になっていない企業も多いです。
DX化を進められるよう、組織全体で推進していこうという意識の統一、利害関係者や各部署それぞれとの協力体制の確立が重要なポイントになってくるでしょう。
5.「DX推進ガイドライン」とはDX推進に取り組む企業に向けた指針
経済産業省は「DX推進ガイドライン」でDX推進に取り組む企業に向けた指針をまとめています。そのなかで強調されているのが、「経営層の戦略策定」と「体制整備の重要さ」です。
DX化を進めたりITシステムを構築したりするために、全社が一丸となって協力する体制づくりができているのか、DXの推進を検討する経営層にとって非常に重要なポイントです。
ガイドラインでは既存のシステムに関しても触れられており、不要なシステムの廃棄であったり、システムの機能変更が多いならクラウドでの展開を検討したりするなど、企業が既存システムも刷新することが必要になるとされています。
6. DXを企業で推進する基本的な手順をおさえよう
DXを推進するためにまず何をすればいいのか、うまく進められているのかわからないという企業は多く存在します。DX化を進めるうえで基本的な手順をおさえておきましょう。
最初に行うのは「目的の設定」です。現状の課題を収集して、業務効率化や新しい価値の創造ができるような目的を設定します。
たとえば、三井住友銀行では、顧客向けサービスの品質改善のために「お客様の声」を自動分析できるシステムを導入しました。その結果、人が行っていた作業を一部、自動で行えるようになり、新サービスを生みだすなど、さまざまな成果が出ています。
次に、目的が固まったら全社で「ビジョンの共有」をしましょう。社内の理解を得ることで協力を得やすくなります。
そして、ビジョンが共有できたら、「DX推進体制の構築」をして、「計画立案・実行・改善」を進めていきましょう。計画は柔軟に、状況に合わせて修正できる形にしておいてください。
7. DX推進に失敗しないために|取り組むうえでのポイントを知ろう
DX推進はデジタルテクノロジーを自社に取り入れたら完成というわけではありません。プロジェクトに取り組むうえで失敗しないよう、重視すべきポイントを解説します。
7.1. 経営層のDX理解
DXを推進していくためには、社内で決定権を持つ経営層がDXを理解しているかどうかが重要です。
現場の社員がDXを進めようと頑張っても、経営層の協力が得られなければ、努力が報われずに一部門の取り組みで終わってしまい、DX化が大きく遅れる可能性があります。
経営層がDXを十分理解し、積極的に推進していくという意識を持ち、全社一丸となって進めていきましょう。
7.2. 明確なビジョンの設定と共有
DX推進をするうえで明確なビジョンを設定し、全員で共有しましょう。
自社がどの業界に属しているか、どのような状況に置かれているかによって、DX化を進める目的は違ってくるため、どのようなシステムを導入すべきか、システムをどう使うべきかが異なります。
ビジョンが明確になっていない場合、ベンダーに何が必要なのかを十分に伝えられず、自社に合わないシステムを構築してしまうなど、DX推進失敗という事態になりかねません。
ビジョンの設定と共有は自社内で時間をかけて行いましょう。
7.3. スモールスタートによる小さな成果の積み重ね
DX推進で失敗する大きな要因のひとつに、大きな結果をすぐに求めようとすることがあります。
自社で社内のデータを活用して、スモールスタートによって小さな成果を積み重ねていきましょう。DXの推進に成功している多くの企業が、スモールスタートで小さな成功と失敗を数多く経験しています。
企業の業務をDX化する取り組みは時間と費用のかかる、自社にとって大きなプロジェクトですので、短期間で大きな成果を出そうとするのはギャンブルに過ぎません。DX推進によって、企業は大きく業務改善されることが期待できますが、そのためには社内のデータを活用し、トライ&エラーを繰り返して小さな成功体験を増やしていきましょう。
7.4. DX推進人材の確保と育成
DX推進の大きな壁となるのが、人材の確保と育成です。
DX推進にはITに精通している人材の確保、育成が必要ですが、日本国内は優秀な人材の争奪戦となっており、どの企業も人材不足が課題となっています。
自前でIT人材を育成するための社内研修を行ってスキルアップさせたり、外部からスキルのある人材を採用したりするなど、人材確保に向けた取り組みを強化していかなければなりません。ある程度、思っているとおりの人材確保が進められれば、経営層も巻き込んでシステム構築を進めてIT人材を適切に配置し、部門どうしが協力しあう体制を整えていきましょう。
7.5. 組織横断的な取り組み
DXが確実に進むよう、組織横断的な取り組みができる体制を整えましょう。
DX推進は新たなプロジェクトとなるため、従来の業務と並行して行うとうまくいかない可能性があります。
失敗しないためにはプロジェクト推進を目的とする部門をまず立ち上げて、社内から必要となる人材を抜擢しましょう。そのうえで各部門の現場従業員に協力してもらえるよう、経営層がリーダーシップを発揮して、全社で中長期的な目線から進めていくという姿勢を示さなければなりません。
7.6. DX推進に対する従業員の理解
DX推進には従業員の理解が欠かせません。
中長期的には自社の業務を楽にし、リソースを別のところに注げるようになる、やり遂げるべきプロジェクトです。しかし現場の従業員にとっては新たな業務となるため、従来の仕事を優先させてしまう可能性があります。
効率よく進めるためにも、経営層が主導して従業員に対してDX推進が自社に何をもたらすのか、なぜ必要なのかなど、繰り返し説明して理解を得ていくことが必要です。
なぜ今、DX推進が必要なのかが理解できれば、自然と協力体制も得られることでしょう。
まとめ
DXは既存の業務を置き換えたら完成というような単純なものではありません。未来に向けて企業そのものやビジネスモデルを大きく変えるのが目的です。
先に解説したように、どの企業にも「2025年の崖」が大きく立ちはだかっていますので、もしプロジェクトが頓挫してしまえば、企業の未来に暗雲が立ちこめます。
ここまで解説してきた内容を参考にして、DX推進の目的と進め方を理解し、スムーズに取り組めるようにしていきましょう。