NHKの存在意義に言及した最高裁判例
まず、NHKの他のマスメディアと異なる存在意義について言及した判例があるので紹介します(最判平成29年(2017年)12月6日)。
この事件は、NHKが受信契約を結ばない被告を相手取って受信料の支払いを請求したものです。主たる争点の一つとして、NHK受信料の強制徴収の制度(放送法64条1項)の合憲性が争われました。
判例の論旨はおおむね以下の通りです。
・放送は国民の知る権利(憲法21条)を充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものである。
・放送の不偏不党、真実、自律を保障することにより、放送による表現の自由を確保する必要がある。
・そのために、「公共放送」と「民放」が互いに啓蒙しあい、欠点を補いあうことができるように、二本立ての体制がとられている。
・NHKは「公共放送」であり、国家権力や、広告主等のスポンサーの意向に左右されず、民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として性格づけられている。
・したがって、放送法は、NHKが営利目的として業務を行うことや、スポンサー広告の放送をすることを禁じており(放送法20条4項、83条1項)、その代わりに、財源確保の手段として、受信料の制度が設けられている。
・受信料の金額については毎事業年度の国会の承認を受けなければならず、受信契約の条項についても総務大臣の認可・電波監理審議会への諮問を経なければならないなど、内容の適正性・公平性が担保されているので、そのような受信契約を強制することは目的のため必要かつ合理的である。
判例が強調しているのは、NHKの「公共放送」としての特殊性です。公共性、非営利性、独立性、公正性が強く求められるということです。
それを達成するためには、国家権力や特定のスポンサーの意向に左右されることがあってはなりません。そこで、財政的基盤を確保する手段として、放送法に定める受信料の強制徴収という制度が必要かつ合理的だというのです。
なお、受信料の強制徴収については、国家の力を借りている面が否定できません。しかし、その点は、毎事業年度の国会の承認を受けなければならないこと、受信契約の条項についても総務大臣の認可を受けなければならないことなど、内容の適正性・公平性が手続きによって担保されていることを理由に、正当化されています。