譲渡益を半永久的に繰り延べられる
1031Exchange。この数字はIRS(米国税務局)の条項番号からくるもの。1920年代からあるシステムで、キャピタル・ゲイン税の支払いを先延ばしにするという制度です。2022年現在、同じ部類の資産を買い換える場合(不動産だったら、買い換える不動産はそれより大きな不動産)、キャピタルゲイン税をその次の物件を売却するまで先延ばしにできるというものです。しかも次の物件を売却する時に課税が発生する、というわけではなく、半永久的に1031Exchangeを続けて資産を拡大することが可能です。
元々資産の流動性を活発にするために作られた制度で、以前は1種類の資産の売却から得た所得から違う種類の資産を購入する場合でも、キャピタル・ゲイン税の先延ばしもできました。しかし近年それはできなくなりました。
1031Exchangeにもいくつか条件があります。一番大きなルールは「45日と180日ルール」というものです。物件の売却から45日以内に取得したい物件を記した書類で仲介業者に代替物件を指定し、物件の売却から180日以内に新しい物件の売買を完了する必要があります。この2つの期間は一連の流れのなかのもので、物件を売却したときにこの両方のルールのカウントが開始されます。たとえば、45日後に交換用の物件を指定した場合、その日から135日以内に売買を完了しなくてはいけません。このタイミングがなかなか厄介ではありますが、ここさえ押さえておけば、1031Exchangeはできます。ただこれは自己居住用の不動産ではなく、原則、投資用物件に限られます。
キャピタルゲイン税の先延ばしの意味
キャピタルゲイン税を「先延ばし」にすることに、どのような意味があるのでしょうか。これにはいくつかアメリカ独特の利点があります。
①インフレ率だけで、実質払う金額が減る
日本は長い間デフレだったので、いまお金を支払うより、10年後に支払うほうが得という感じはないかもしれません。しかしアメリカではインフレが続いているため、仮に今後平均年2%のインフレが続いたとしたら、支払いを10年延期するだけで実質約22%の支払いが減る計算になります。
⓶相続時に時価で相続できる
アメリカでは相続人が亡くなった場合、一旦裁判所を通して資産が被相続人に渡ります。この裁判所を介すことを避けるために作られたのが「Living Trust」です。スムーズに遺産相続が可能になり、裁判所費用が5%ほどを節約できます。
また相続すれば、「Living Trust」に入っていても入っていなくとも、コストベース(取得価格)が相続時点での市場価格となります。これを「Step up cost basis」と呼びます。たとえば親が30年前に5,000万円で購入した家が、亡くなった時に1億円の価値になっていたとします。生前にこの物件を売却していれば5,000万円の部分にキャピタルゲイン税がかかってきます。相続した場合は1億円の時価が取得価格となり、相続後に時価1億円で売却したとしても、その売却にキャピタルゲイン税はかかってきません。また米国の連邦の遺産税(Estate tax)の控除額は$12.06milllion(18億円)ほど。州によっては相続税もしくは遺産税がかかってくる場合もありますが、少なくとも連邦の控除額に収まる場合がほとんどです。
米国ではこのシステムで代々資産を築いていくのが定番と言っても過言ではありません。不動産の税務メリットは他の資産に比べて圧倒的であり、「アメリカンドリームが不動産を保有すること」と同義語になっているのはいうまでもありません。
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