投資先の選定では、経営陣や主要株主の状況を重視
幾田 まず最初に、貴社の投資哲学と運用プロセスについてお話いただけないでしょうか。
クリス 私達の投資運用プロセスはグループを通じ、共通です。そのプロセスはウォーレン・バフェットの投資スタイルにとても似ていて、1つしかありません。
私達は質の高い企業を探し、長期で投資します。長い時間をかけ、会社を作る人間の経歴や素性、性格を理解しようと努めます。アジアでは、多くの会社が家族経営のようなスタイルを取っているので、主要株主の構成及びその背景、経営への影響力を注意深く見る必要があります。
私達は「手ごろな値段でつかめる成長」という意味で訳されているGARP(Growth At Reasonable Price)モデルを実践し、質の高い銘柄選定に重きを置きます。
アバディーン内では、スコットランド人がケチであるという世間一般に言われていることを揶揄して、「スコットランド基準の値段でつかめる成長」と言われているGASP(Growth At Scottish Price)モデルに従っているという人もいますけどね。
ゴールは可能な限り安い値段で質の高い銘柄を買うことです。私達が株式投資プロセスの中で企業調査をする際に、1番重要だと考えるのは、経営陣とその株主構成や、彼らの経歴、素性、またファンダメンタルズを重視する事です。そしてその次に割安か割高かのバリュエーションを考えます。
私達は可能な限り安い価格で購入し、小さなポジションをターゲットの水準まで膨らませていく手法でポートフォリオを作っていきます。なので、とてもシンプルでわかり易いです。私達の中にはチームを率いるスター的なファンドマネージャーはいません。すべて各チームメンバーの合意の基に取り組み、一貫性や客観性を保つ努力を欠かしません。
投資先とのコンタクトは年平均、6、7回といったところでしょうか。会社訪問は年に各2回程度を行い、会社の業績をチェックします。また、私達が投資している会社の年次株主総会や臨時株主総会にできるだけ参加するようにしています。
私達はアクティビスト投資家ではありませんが、コーポレート・ガバナンスを重んじるという点ではアクティブな部類に入るかもしれません。
アメリカにおけるアクティビスト投資家のように、公の場で経営に関する提案を声高に行うことはありませんが、経営陣と良いリレーションを保ちながら、可能な限り対話をしています。私達はトレーダーでも監査人でもありません。私達は異なるサイクルで投資をする事ができる長期の機関投資家です。
幾田 アバディーンのアジア不動産株式ファンドは日本を含めたアジア全体となっています。他のファンドは日本をアジア地域から除く場合が多いのですが、なぜ日本も一緒に含めたのでしょうか?
クリス 私達の会社はアバディーン・グループによるクレディ・スイスの一部買収に伴い引き継がれ、すでにその時には日本が戦略に組み込まれていました。それについては、私達の日本市場のオペレーションが既に他のアジア地域と統合されたものとなっていたので、何も問題はありませんでした。
日本を他のアジア全体に含めるのは、他社とのユニークな差別化になり、ファンドの運用には支障ないと考えています。日本はとても魅力的な不動産銘柄が幾つもありますので、投資対象が増えたということだけでも、我々の戦略にとってはプラスに働くものと考えております。
新興国市場で信頼できる銘柄を探すのは困難だが・・・
幾田 私達のお客様の中には不動産投資家や、デベロッパーもいらっしゃいます。シンガポール、香港、日本の3ヶ国での不動産デベロッパーの違いを教えていただけないでしょうか?
クリス 香港とシンガポールでは、大きな違いはありません。また、日本と比較しても、極端な違いはないでしょう。なぜなら、これらの市場でのルールと規制は明確で、市場で見られる不動産の利回りやキャップレートはとても把握しやすいからです。
また、きちんとしたデータもベンチマークとして入手・使用することが可能です。ですので、いろんな意味でこの3ヶ国の市場は他の市場と比べると似たような状況にあると言えるでしょう。
例えば、シンガポールに上場しているリートを幾つか見てみると、それらが香港、日本、オーストラリアの不動産を保有しているのが見受けられます。市場が洗練されていなければ、このように国を跨いだリスクを取るのは困難なはずです。
逆に難しいのは新興国市場です。例えば、インドネシアとインド。これらの国で私達の基準に合致する不動産銘柄を探すのは一筋縄ではいきません。私達のポートフォリオを見て頂くと、私達がこれら新興国で信頼できる銘柄を探すのに苦労した事がおわかり頂けると思います。
これらの国々ではいつも土地の所有者、所有権の問題がありますし、多くは汚職が蔓延しています。これは彼らの重要課題の1つでもあります。
ただ、人口増加による成長や住宅需要が高く、潜在的な成長力が期待できるのもこれらの地域です。こうした地域に信頼できる不動産会社がない場合、例えば企業統治がもっとしっかりしているセメント関連の会社に投資をすることで、その国や地域の不動産市場のアップサイドを捉える工夫をします。
幾田 株式やリートなどを用いた不動産への間接投資は個別不動産への直接投資に比べてどのようなメリット、デメリットが存在するのでしょうか?
クリス 流動性は間違いなく比較の対象の1つです。先日の英国EU離脱は投資家にとって考えさせられる機会だったのではないでしょうか。個別不動産に投資をする、もしくは個別不動産に投資をするファンドを購入する場合、投資対象が現金化しにくいので、危機時に現金化しようと試みても、難しい場合があります。
ここ最近の状況も手伝って、不動産投資家は強気一辺倒な方も多いのですが、右肩上がりの状況がいつまでも続くわけではありませんので、いざという時にすぐに現金化できないのは大きなデメリットといえるでしょう。
また、不動産は分散投資をするにも不向きです。対象資産の金額が大きいのと、地理的、制度的な多様性や、為替も絡んできますので、並みの投資家ではしっかり分散されたポートフォリオを組むのが困難です。これらが個別不動産に投資する時のデメリットです。
一方で、株やリートよりも優れた点としては、まず自身で購入した不動産に対するコントロールが効くことです。さらに、不動産ローンを使えば借り入れによるレバレッジ効果で運用リターンを向上させることも可能でしょう。