英国EU離脱決定を機に、資産分散を図る動きが活発化
幾田 英国EU離脱を経て改めて思いますが、こういう出来事があるたびに、ふと流動性や分散効果の重要性について気付かされるものですね。
クリス そうですね。現実に、10年に1回は金融危機が世界では起こっています。これは一種のサイクルになっていて、危機が起これば、誰もが不動産市場からはいち早く逃げたいと思うものです。
現在の不動産価値を見てみると、香港とシンガポールの不動産銘柄は金融危機前に比べて60~70%引きという非常に大きなディスカウントで取引されています。英国EU離脱後に予想される新規の量的金融緩和政策により、これまで以上に紙幣が増刷されれば、不動産も逃避先の一つとして改めて注目を浴びるでしょう。
国際情勢を見てみると、ロンドンは不動産投資家の間では、磁石の様にお互いを引きつけ合う場所でしたが、英国がEU離脱を決定した今、多くの投資家が分散を図りたいと考えています。アジアの不動産セクターはその分散先として候補なりうるポテンシャルを持っているのではないでしょうか。
アジアと言っても広いのですが、海外投資家に開放されている市場は多くはないので、香港、日本、オーストラリア等の国がもっとも恩恵を被るチャンスがあると考えています。他の市場にチャンスがないわけではないのですが、海外投資家に開放されていない部分が多いので、今申し上げた地域以外はまだまだこれからというところです。
幾田 そうですか。今までの話を総合すると、クリスさんはこういった先進国の不動産関連銘柄が割安だと考えているということでしょうか?
クリス 冒頭ご説明した通り、質ありきではありますが、その理解で合っています。多くの人が、なぜ私達が三菱地所に巨額の投資をするのかと尋ねます。
私達はこう答えます。東京駅周辺を見てみると、三菱地所は大地主であり、誰よりも好立地の物件を所有しています。この状況はすぐには覆りません。また、私達は郊外に良い物件を持っているJR東日本も所有しています。
不動産関連収益が大きい「インフラ企業」にも注目
幾田 あなた方が運用するファンドの幾つかは保守的と言えるインフラ関連株に割り当てられていますね。英国のEU離脱が銘柄選定に影響したのかはわかりませんが、少し慎重な運用にシフトしているのでしょうか?
クリス いいえ。多少の変更はありましたが、弱気になっているからではありません。JR東日本も不動産セクターの一部として見ているだけのことです。
香港の地下鉄、MTRもそうですが、こうしたインフラ関連銘柄では本業ではない不動産業が大きな収益源となっているケースが多々あります。特段変わったことといえば、インドネシアにあるインドセメントという銘柄を追加したことくらいでしょう。
幾田 あなた方にとって、2015年は厳しい年だったようですね。なぜその期間にパフォーマンスが振るわなかったのでしょうか?
クリス 私達のパフォーマンスを下げたのはシンガポールのリートとデベロッパー、また、香港のデベロッパーであり、政府の規制が強まった事とそれに市場が敏感に反応した事が原因です。
2015年だけを特に見てみると、シンガポールの持分がベンチマーク対比のアンダーパフォーマンスのほぼ半分を占めました。私達が指摘した様に、政府の規制が不動産デベロッパーに悪影響を及ぼし、アメリカの利上げにより、リートも全般的に下落しました。
また、この期間中は日本株の保有がまだ少なかったことも、ベンチマーク対比でアンダーパフォームする要因となりました。
幾田 ありがとうございます。まとめると、市場の平均を下回る成果になった大きな原因は、香港とシンガポール政府の政策または規制という事ですね。2013年~2015年に関して言えば、アベノミクスが台頭してきた時期なので、日本株式の組入れ比率が低かったのかもしれません。それが成果を上げられなかった原因の1つかもしれませんね。
クリス おっしゃる通り、当時は日本株の組み入れ比率は高くありませんでした。それまでの日本株のパフォーマンスが芳しくなかったので、私達だけでなく、グローバルにアンダーウェイトされていた市場だったのです。結果的に、私達はベンチマークを14%も下回ったので、この配分は私達にとっては痛手でした。
幾田 最後に、ゴールドオンラインの読者へアジア不動産株式投資またはアジア株式全般への投資に関して、何かアドバイスをいただけないでしょうか?
クリス アジアの株式市場全般に言える事ですが、現在の不動産セクターの状況はバラ色というわけではありません。ただ、そうした時だからこそ、今のうち仕込んでおくことで、後々状況が変わった時に大きな果実を得られることにつながるのではないでしょうか。
1995年からのアジア・パシフィック・インデックスの株価収益率(PER)の平均は13.8倍です。現在のPERは12.7倍で、来年の予想PERは11.7倍。同じく、株価純資産倍率(PBR)を1995年から見てみると、1.8倍、現在の同じ地域のPBRは1.4倍で取引されています。
割安な状況を投資家がいつまで放っておくか、はっきりとしたことはわかりませんが、欧州をはじめとする他の株式市場も悲観的な今、投資家が割安さと成長力の面で、アジアを再評価してくれるであろうことを期待しています。