●英国では経済対策発表後に市場が混乱、BOEは国債購入を決定、政府も減税案を一部撤回。
●これにより、ポンドは対ドルで上昇、英国債利回りも低下し、市場はいったん落ち着きを取り戻した。
●ただ再び混乱するリスクは残り、この先は中期財政計画や追加的な予算見直しの有無が焦点に。
英国では経済対策発表後に市場が混乱、BOEは国債購入を決定、政府も減税案を一部撤回
英国金融市場では、トラス政権が9月23日に打ち出した大規模な減税策と国債の増発計画を受け、財政悪化懸念が急速に強まり、通貨安、債券安、株安の「トリプル安」が進行しました。これに対し、イングランド銀行(BOE、中央銀行)は9月28日、残存期間20年超の英国債を10月14日まで金額無制限で買い入れる方針を発表し、10月上旬に予定していた保有国債の市場での売却開始を10月末に延期することも決定しました。
また、クワーテング英財務相は10月3日、減税策のうち、来年4月に予定していた所得税減税を撤回すると発表しました。撤回するのは、年収15万ポンドを超える部分にかかる所得税率を45%から40%に引き下げる計画です。税率の引き下げをめぐっては、与党・保守党内からも反対の意見が増え、トラス政権は議会での承認が難しいと判断し、軌道修正したものと思われます。
これにより、ポンドは対ドルで上昇、英国債利回りも低下し、市場はいったん落ち着きを取り戻した
このようなBOEとトラス政権の動きを受け、英国金融市場は、いったん落ち着きを取り戻しました。英国の通貨ポンドは9月26日、対ドルで1ポンド=1.0350ドル水準まで下落し、1972年の変動相場制移行後の最安値をつけましたが、その後は反発し、10月4日には一時1.1489ドル水準までポンド高・ドル安が進み、トラス政権の経済対策発表前の水準を回復しました(図表1)。
9月28日の英国債券市場では、BOEが国債購入を発表する直前、10年国債利回りは4.59%台、30年国債利回りは5.14%台の高水準をつけていました。しかしながら、国債購入が発表された後は、利回りが急低下(価格は急上昇)し、10月4日には10年国債利回りが一時3.74%近辺まで低下し(図表2)、30年国債利回りも10月3日に一時3.62%近辺まで低下しました。ただ、いずれも経済対策発表前の利回り水準まで戻っていません。
ただ再び混乱するリスクは残り、この先は中期財政計画や追加的な予算見直しの有無が焦点に
また、英FTSE100種総合株価指数は、3月7日につけた終値ベースでの年初来安値を、9月29日に更新しました。その後は、上昇に転じていますが、やはり経済対策発表前の株価水準まで戻っていません。さて、改めて今回のBOEとトラス政権の対応について考えてみると、市場の混乱に迅速に対処した点は、評価できると思われます。BOEの政策については、10月14日以降の買い入れ方針に注目が集まります。
所得税減税の撤回に関しては、全体の減税規模450億ポンド(政策効果がすべて出る26年度の見通し)のうち、20億ポンド程度の縮小にしかならず、依然として財政赤字は拡大する見通しです。したがって、市場が再び混乱するリスクは残るため、この先、①11月23日発表予定の中期財政計画で財政が持続可能であることが確認できるか、②トラス政権に追加で予算見直しの動きがみられるか、が重要なポイントになります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『金融市場の混乱を受けたBOEと英国政府の対応【ストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト