マスク着用、外出自粛、三密回避…これまでのコロナ対策に効果はあったのか?「全数把握の一律見直し」で改めて思うこと【医師が解説】

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山本 佳奈
医療ガバナンス研究所
マスク着用、外出自粛、三密回避…これまでのコロナ対策に効果はあったのか?「全数把握の一律見直し」で改めて思うこと【医師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

三密回避、会食の人数制限、マスク着用の協力、手洗いやうがい、往来や外出の自粛、厳しい水際対策…。コロナが国内で流行してから何度も耳にしたこれらの対策には、果たして本当に効果があったのでしょうか。山本佳奈医師はずっと疑問に感じていたといいます。コロナ対策の見直しが進み始めた今、日本に求められることとは何か。山本医師が提言します。

第7波は収束へ。コロナ対策の見直しが始まったが…

日本でのコロナの夏の流行(第7波)は峠を越え、収束に向かっています。第7波の終わりが見えてきた今、陽性者や濃厚接触者の隔離期間の短縮、「全数把握」の一律見直し、10月11日からの全国旅行支援と入国者数の上限撤廃や個人旅行客の受け入れ解禁などが発表されました。ようやく日本も「withコロナ」へと進み出したと言えるのではないでしょうか。

 

世界では、アメリカのバイデン大統領や世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が、新型コロナウイルス感染症の「終わり」について言及するなど、2020年3月11日に新型コロナウイルス感染症の「パンデミック(世界的な大流行)」が宣言されてから約30ヵ月か経過した今、新たな節目を迎えようとしているようです。

 

とはいえ、9月21日の記者会見で、松野官房長官は「現時点において、新型コロナウイルスのパンデミック(大流行)終了宣言を出すことは考えていない」と言及し、「(9月に)連休が続くことによる感染状況への影響に、注意が必要だ」と、引き続き警戒が必要だとの認識を示したといいます。

 

「連休期間中に、コロナの感染者数が増える」ということなのでしょうか。

 

これまでも、夏休みや大型連休、年末年始などで多くの人の移動が予想されるときは特に、「気を緩めないように」「感染リスクが高い場所への外出や移動は避けるように」「感染拡大地域との不要不急の往来は慎重に」など、日々の感染予防対策に加えたこれらの国民への協力が呼びかけられていました。

 

三密回避、会食の人数制限、マスク着用の協力、手洗いやうがい、往来や外出の自粛、厳しい水際対策など、コロナが国内で流行してから何度も耳にしたこれらの対策には、果たして効果があったのでしょうか。私はずっと疑問に感じています。

医師でさえ「発生届のまとめ」を見ることができない

新型コロナウイルス感染症は「新型インフルエンザ等感染症」に指定されており、感染症における分類の中で上から2番目に危険度が高い、鳥インフルエンザや結核、ジフテリアなどの2類感染症と同等の「2類相当」として扱われています。そのため、感染症法に基づき、医師には届出(発生届)の報告義務があります。

 

発生届には、陽性者の名前や住所などの個人情報のほか、ワクチン接種に関する情報や、重症化するリスクがあると考えられている基礎疾患、喫煙歴、妊娠の有無、重症化の有無などについて記載する必要があります。そのため、PCR検査を行う際に、これらの記載事項をすべて聞き取り、翌日PCRの結果が陽性だった人についてのみ、カルテに記載していたこれらの情報を発生届に記載し直すという作業を行う必要がありました。

 

それらをまとめることは、ワクチン接種によるコロナ感染予防効果など大変貴重な報告となり、私たち国民に還元されるべき情報になりえるのですが、匿名化された情報が公開されているかといえば、そうではありません。提出している医師も、それらの情報を見ることは可能ではないのです。

3回目接種の効果はどれくらい?福島県相馬市での調査

私たちの研究グループは、福島県相馬市にご協力いただき、第7波の流行時におけるコロナワクチン接種効果について検証しています。福島県相馬市は、新型コロナワクチン接種が全国で最も迅速に進んだ自治体の一つです。移動手段がない人のための集団接種会場までのバス送迎や、集団接種を始める前の意向調査の実施、何らかの理由によって集団接種会場で接種できなかった人が、医療機関での個別接種を終えるまでのフォローなど、徹底した準備とスムーズな集団接種運営が行われている様子を、昨年の夏に集団接種のお手伝いをした際に、目の当たりにしました。

 

「市長のおかげで早くワクチンを接種できたの。とてもありがたかった」という市民の方の声を聞いたとき、「相馬市のワクチン接種率の高さは、市長への信頼も要因の一つではないか」と感じたのでした。

 

そんな相馬市では、今年の6月15日時点で相馬市の中高生1,834人中1,066人(58.1%)が3回目接種を終えて、全国平均より24.9%も高い接種率でした。今年の4月1日から6月15日のオミクロン株の流行期の間に、中高生65人が新型コロナウイルスに感染し、そのうち、3回目接種完了者のコロナ感染率は0.67%、未完了者のコロナ感染率は7.16%であったことがわかりました。相馬市では3回目の追加接種により、中高生におけるコロナ感染を91%も予防したことになります。

 

もちろん、この追加接種の感染予防効果に関する調査については、予期せぬバイアスが影響している可能性もあるため、さらなる調査が必要です。たとえば、子どもに追加接種を受けさせる家庭はコロナ対策により関心があり、たとえ軽症であってもPCR検査や抗原検査を受けさせた可能性が高いため、結果として3回目の追加接種者ほどコロナ感染を検出しやすく、追加接種の効果は過小評価されやすいと考えられます。

 

また、コロナ感染者におけるワクチン接種の有無だけでなく、基礎疾患の有無や重症化の有無についても、確認する必要があります。しかしながら、感染症第12条に従い、医師が記入した発生届は保健所長を経由して都道府県知事に提出されており、県が管理しています。そのため、これまでコロナ全数で提出されていた発生届に、基礎疾患の有無や重症化の有無について情報が記載されているにもかかわらず、それらの情報を解析し、今後の感染予防に役立てることができないのが現状です。

情報開示をして、現実に即したコロナ対応を検討すべき

世界では、これまで18万本以上もの新型コロナウイルス感染症に関する論文が発表されています。ところが今年4月、科学技術振興機構(JST)の分析により、日本は総論文数で14位にとどまっていることがわかったと報道されました*。この報道では、日本の基礎研究力の低下とともに、感染症対策を海外の研究成果に頼ってきた実態が改めて浮き彫りになったと指摘されています。

 

*日本経済新聞 2022年4月3日付『コロナの研究論文数、日本14位 存在感薄く』(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59659180S2A400C2EA1000/)

 

なぜこうした事態に陥ってしまっているのでしょうか。私は研究力の低下だけが問題ではないと考えています。

 

先ほどの述べた発生届がいい例でしょう。匿名化していれば、情報を開示しても個人を特定することはできないため、本来は開示しても問題ないはずです。ところが情報が広く公開されていないために、研究者がせっかくあるデータを分析し、解析することができません。このことも要因の一つではないかと私は考えています。

 

これまでのコロナ対策の効果を検証する上でも、コロナに関する膨大な情報を匿名化した後に公開することは、結果として、私たち国民のためになることなのではないでしょうか。

 

 

山本 佳奈

ナビタスクリニック(立川・新宿) 内科医

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。