食事記録を録ってみよう
栄養療法の存在を知った私は、Aさんに一週間分の食事記録と排便状態の記録を録ってもらうことにしました。
すると朝は欠食・昼過ぎにパンやお菓子・夜はピザに缶酎ハイ…といった感じ、すなわち糖質だけが異様に多く、タンパク質やビタミン類などが極めて少ないことがわかりました。これは明らかな低栄養で、若さだけで生きている感じです。
しかも便秘と下痢を繰り返しており、消化吸収に問題があることがわかりました。服用中の薬が本当に吸収されているのかも疑わしい状態です。
家庭環境に問題があることは知っていたのですが、やはり食の知識がゼロで、コンビニなどの弁当依存の食生活で、家に包丁はないそうです。
Aさんはこのような食事記録を録るのは初めてなのだそうで、病気は薬が治すものと考える人が多い、現代医療のダークサイドを見たような気になりました。
しかしこれはもちろん、私が分子栄養学に触れていたからの判断で、標準医療の知識だけだったなら、思いつきもしなかったことです。
飽食の時代における低栄養の実態
こんなことを書くと「現代人に低栄養などあり得ない、むしろ余っているくらいだ!」と言われるのが普通です。
しかし現代人は意外にも《低栄養》です。図表2は平成26年国民健康・栄養調査報告と、日本人の食事摂取基準(2015年版)を基に作成された表です。
これによれば、特に30歳代の女性は多くの項目で推奨・目安量に達していません。栄養が余っているというのはカロリーの話で、タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルなどの個々の栄養素レベルで見ると、かなり問題があります。
少し古いデーターではありますが、今もなお食事内容が改善傾向にあるとは思えない上にコロナ禍も重なり、現状はさらに厳しくなっていると考えられます。
多くの人の食事記録を見てきましたが、みなAさんと似たような傾向にあり、特にタンパク質量が過少です。
タンパク質はそもそも体を構成する建築資材のようなものですから、欠品が続けば工期が伸びる、つまり病状の回復が遅れます。
一方で過剰なのは麺・菓子・甘味飲料などの糖質で、これらは安く手軽に摂れるように工夫され、積極的に宣伝されます。
そのため特に若い人が何も考えずに食事を選ぶと明らかに糖質過多になり、全体として低栄養になります。だいたい友人知人も同じなので、多少の不調があっても「みんながそうだから」と不思議がりません。
飽食の時代にありながら、実は低栄養が徐々に進行していたのです。