副腎疲労という“意味不明”な病気
副腎とは腎臓の上に乗っかる小さな臓器で、コルチゾールやアドレナリンなど、ストレスに対応するホルモンなどを作るところです。
すなわちストレスがかかるたびに副腎が活動するのですが、それがあまりに長期に継続すると、最終的にコルチゾールが作れなくなってきます。
この状態はあたかも副腎が休む間もなく働いたために疲労し、活動が落ちたように見えるので、副腎疲労と呼ばれるようになりました。
しかしその実態は本当に副腎が疲労しているわけではなく、ストレスで脳からの副腎への命令系統が不安定になり、コルチゾールがコントロールできなくなった状態です。本当に副腎に問題があってコルチゾールが出ない病気は、アジソン病という別な病気として昔から知られています。
実は副腎疲労とは俗称で、英語のアドレナル・ファティーグの直訳として輸入された病名です。そのためこの病気は誤解を伴ったまま今日に至っています。
ちょっと難しくなりますが、コルチゾールは脳の視床(Hypothalamus)・下垂体(Pituitary)・副腎(Adrenal gland)の3つを繋ぐ指令系統(頭文字を取ってHPA軸と言います)を経て作られます。ここがストレスで障害を受けると副腎をコントロールできなくなり、最終的にコルチゾールが出づらくなります。
したがって副腎疲労の正式な病名は《HPA軸機能障害》となるのですが、名前が難しく患者さんには病態がイメージしにくいので、今も副腎疲労という病名が使われています。
ところが一般医学では副腎がそうそう疲労するはずないのが常識ですから、初めて耳にする医師の先生からはまったく意味不明な話として扱われてしまいます。副腎疲労をニセ医学と一蹴する医師もおり、俗称による誤解もあって、その実態は今も理解されていません。
おそらくこのような経緯からAさんはHPA軸機能障害と診断されないまま、苦しんで来たのだと思われます。
血液検査の「低い値」を問題視しない現代医療の盲点
私のところでは外科治療が多いこともあり、患者さんには初診時に直近の血液検査データーを持ってきてもらうようにお願いしています。
Aさんの検査データーを診ると、服薬量が多いだけでなくお酒をけっこう呑むことも相まって、肝機能検査の値が高めでした。しかし他はいわゆるA判定で基準値内。当時の私はこれを異常とはみず、他の医療機関でも同じ判断だったと考えられます。
基準値とは検査値の隣に必ず書かれているものですが、その範囲内なら異常ナシと機械的に扱われるのが一般的だからです。
しかし近年、これとはちょっと視点を変えた検査値の読み方が普及してきました。それが栄養療法・オーソモレキュラー療法・分子整合栄養医学などと呼ばれるものです。
簡単に言えば生理学や生化学の理論に基づき体のエネルギー産生やストレスなどを評価し、病状の改善に役立てようとする方法です。
詳しい話は別の機会に譲りますが、この方法によるとAさんは、低タンパク・低血糖・低中性脂肪・低尿素窒素・低フェリチン・低ビタミンDなど、《低栄養》を示唆する数値がズラリと並んでいることになります。
標準医療は、検査値の高い状態を問題視する傾向があります。たとえば血糖値は高ければ糖尿病や動脈硬化のリスクとなりますので、低い分には安心です。
栄養療法ではそれに加え、低すぎる場合はその原因にも注目します。血糖値が低すぎた場合は、気分障害が出やすい・糖を作る過程(糖新生と言います)に問題がありそう・インスリンの出方に問題がありそう・低中性脂肪になるかも、と考えることができます。
実際Aさんの血糖値は72mg/dL、中性脂肪は34mg/dLで、エネルギー産生が滞っているために副腎疲労に至った可能性もあると考えられました。
しかしこの値は、標準医療では直ちに問題があるとは考えません。