「親のこと、あまり知らなかったな」子が後悔するワケ
もともとその「役」は、“時間的にあるいは精神的に縛られていた事柄”だったにもかかわらず、やっているうちに、それこそが自分だと勘違いしてしまう。だから、退職や子の独立というきっかけがあっても解放された感覚がなく、やりたい意欲が湧いてこないのだと思います。
もちろん「役」に没頭し、それを全うされたことは素晴らしく、称賛されるべきではありますが、高齢期にはそれは「役」だったと気づかねばなりません。
親の「本来の自分」は、その子にとっても極めて重要です。親を亡くしたとき、その子が「親のことを、あまり知らなかった」と後悔することがとても多いからです。そのとき子が「知りたかった」と思うのは、親が頑張って演じていた「役」では決してありません。
子が知りたいのは、まとめの段階で「やりたいことをやっている」親であり、アンコール段階で「個性的な人格として肯定的に認められる」親であるに違いありません。
幸福な人生の最終盤を送る親を見ることができ、親が亡くなったあとも、本来の親の姿を思い出して自分の子どもたちに語って聞かせられる。こういう子は、本当に幸せだと思います。
この4ステップは、理想的な「終活」のガイドラインになります。介護、医療、相続、遺言、墓、葬儀、モノの処分などをどうするか具体的に決めようという、今のよくある「終活」もいいのですが、この4つのステップを参考にすれば、人生の終盤の生き方、終い方についてもっと高い視点から考えられるようになるはずです。
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川口 雅裕
NPO法人「老いの工学研究所」理事長。 1964年生。京都大学教育学部卒。 株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)で、組織人事および広報を担当。 退社後、組織人事コンサルタントを経て、2010年より高齢社会に関する研究活動を開始。約1万6千人に上る会員を持つ「老いの工学研究所」でアンケート調査や、インタビューなどのフィールドワークを実施。高齢期の暮らしに関する講演やセミナー講師のほか、様々なメディアで連載・寄稿を行っている。 著書に、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「速習!看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「実践!看護フレームワーク思考 BASIC20」(メディカ出版)、「顧客満足はなぜ実現しないのか」(JDC出版)、「なりたい老人になろう~65歳からの楽しい年のとり方」(Kindle版)がある。