※本稿は8月23日時点の情報に基づくものです。
「2類相当か、5類引き下げか」が議論される背景
新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の全感染者を把握する「全数把握」の見直し検討を含めた、感染症法におけるコロナの「2類相当」のあり方についての議論が進んでいます。
しかしながら、報じられている「全数把握」を見直す理由は、「感染拡大に伴い、医療現場の負担が増しているため」という医療提供サイドの視点から語られたものであり、コロナに罹患した患者サイドの視点は皆無です。
現在、医師が提出するように義務付けられている「発生届」には、患者の住所や年齢といった個人情報や、コロナワクチン接種に関する情報、重症化リスクの有無、現在の重症度などを記入する必要があります。多い日には100枚近い「発生届」を作成しなければならなかったときは、休憩時間を返上して記入しなければならず、診療業務に影響を与えたことは間違いありません。
しかしながら、1日あたりにコロナと診断した数のみを保健所に報告するのであれば、医療機関もそこまで負担はないはずです。「全数把握」の代案として、コロナ感染者に関する報告対象を高齢者や重症化リスクのある人だけにする案が検討されているようです。そうであれば、なぜそれらの人に関する報告が必要なのか、しっかりと説明してほしいと思います。
感染状況が変わっても一律のコロナ対応を強いる“根拠”
そもそも、コロナを「全数把握」しなければならないのは、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、感染症法)で規定されているからです。感染症法では、コロナやインフルエンザを含む様々な感染症が、症状の重症度や感染力などから分類されています。その分類に応じて、入院措置、就業制限、外出禁止令、入国審査、検疫措置といった様々な措置が規定され、必要に応じて、その措置を講じることができるようになっています。
コロナ対策も感染症法に基づき、厚生労働省や保健所を中心に実施されています。現在、コロナは「新型インフルエンザ等感染症」に指定されており、感染症における分類の中で、上から2番目に危険度が高い、鳥インフルエンザや結核、ジフテリアなどの2類感染症と同等の「2類相当」として扱われています。そのため、コロナに感染した人は感染症法に基づき、発症日から10日間の療養が求められているのです。
コロナの感染状況は刻一刻と変化しています。そのたびに法律を変えることは、現実的ではありません。そこで、厚生労働省はCOVID-19の感染状況に応じて、感染症法に基づく「技術的助言」として法的根拠のない「通知」を発行し、医療機関を始めとする様々な機関はその「通知」に基づいてコロナ対策を実施しているというわけです。
「2類相当」のコロナ対策が患者にもたらした弊害
さて、パンデミックから2年以上が経過した今、「2類相当」とする感染症法に基づく一連のコロナ対策によって、国民の権利の一つである「教育を受ける権利」が侵害されている問題が浮かび上がってきました。学生がコロナ罹患中に受けられなかった講義分の補修を受けられず、単位が取得できなかった結果、留年になってしまったという事例です。
東京大学の教養学部2年の杉浦蒼大さんは、今年の5月初旬にコロナに罹患しました。コロナに罹患したからといって、誰しもが10日間で回復するわけではなく、また症状もその重症度も様々なのですが、特に咳や倦怠感がひどかった彼は、対面でもオンラインでも授業を受けられる状況ではありませんでした。
保健所の指示に従い、10日間の自宅療養を行った彼は、コロナ療養中に講義が行われていた必修科目を受講できなかったため、コロナに罹患したため欠席したという旨を記載した連絡を入れるも、彼の欠席連絡は未受理。療養後に彼が提出した「コロナ感染の診断書」も認めることはなく、コロナ療養中に休まざるを得なかった講義や課題への補講対応は一切認められませんでした。そんな大学の一連の対応に対し、異議申し立てを行ったところ、なんと成績表の点数が元の点数から17点も減点されたといいます。つい先日、彼は必修科目の単位を取得することができず、留年が確定してしまいました。
「患者側を無視したコロナ対策」を見直すべき
コロナに罹患したことで補修を受けられず、また単位が取得できなかったという学生は、彼だけではないはずです。コロナウイルスが根絶されることはなく、日常生活を送っていれば、誰しもコロナに感染するリスクがあります。「2類相当」のコロナに罹患し、10日間の療養期間を求める措置に応じたにも関わらず、補修や補講が認められない現状は、学生が「教育を受ける権利」を侵されていると言わざるを得ず、決して許されるものではありません。
“コロナに罹患することは自己責任である”とする姿勢が許されてしまえば、卒業するまでコロナにならないよう、常に神経を尖らせなければなりません。部屋から一切出ることなく、人にも会うことがなければ原理的にコロナにならないでしょうが、そんな生活を送ることも現実的に困難です。そもそも、感染対策を徹底すればコロナにならないのであれば、真夏日であってもマスクを着用し続けている日本でコロナの流行の波が生じることもないでしょう。
コロナを「2類相当」として今後も扱い続けるのであれば、一律に10日間の療養期間を求める措置を強制するだけで終わるのではなく、それによって失われた権利や生じたあらゆる影響にも目を向ける必要があると私は思います。パンデミックも3年目に突入し、治療薬やワクチンが開発され普及した今、提供者側の理屈や解釈で動いている日本のコロナ対策を見直す必要があるのではないでしょうか。
山本 佳奈
ナビタスクリニック(立川・新宿) 内科医
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