(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

大切な家族を失った花屋の店主

最近、うちの会社にはいつもきれいな花や観葉植物が飾られています。

 

それは、一年ほど前から付き合いの始まったお花屋さんから買ったり、いただいたりしているものです。その付き合いは、ある相続から始まりました。

 

とても悲しい、相続でした。

 

生花店を営む鶴川さんは、三〇代の息子さんと二人で暮らしていました。奥さんは認知症を患い施設に入居されていて、娘さんは遠方に嫁いでいます。花の仕入れなどがあるため鶴川さんの朝はとても早いのですが、息子さんはいつも深夜に帰宅するような仕事で、二人はすれ違いの生活でした。

 

それでも、鶴川さんは自分の夕食を作る際には息子さんの分も用意しておき、帰宅した息子さんはいつもそれを食べてから寝るという生活を送っていたのです。

 

ある早朝、鶴川さんが台所に入ると、いつもは片付けてある食器がそのままになっています。「おかしいな」と思って近づいてみると、すぐそばに息子さんが倒れていたのです。大至急で救急車を呼びましたが、息子さんはそのまま帰らぬ人となりました。

 

息子さんは生命保険に加入されており、その手続きの相談で僕と鶴川さんのお付き合いは始まりました。

 

ところが、息子さんの相続の手続きを進めている間に、今度は施設に入居されていた奥さんも亡くなってしまったのです。突然、二人の家族を失った鶴川さんは、生気を失ったようにひどく落ち込み、何をする気力も起きないようでした。

 

「もう、花屋も辞めようと思う」

 

もともと鶴川さんが家族を養うために始めたお店です。その家族を失ったのですから、辞めたくなる気持ちもわかります。でも、今お店まで辞めてしまったら鶴川さんはきっと立ち直れなくなる。それが何より心配でした。

 

僕は、事務所に置くにはどんな花がいいのか相談に行ったり、いただき物のお裾分けをしたりと、ちょっとした理由をつけては、鶴川さんの様子をうかがいに行きました。

 

それでも、毎日顔を出せるわけではありませんし、それが鶴川さんの立ち直るきっかけになるわけでもありません。どうしたらいいのか、本当に悩みました。

 

そんなある日、僕は鶴川さんのお店の店番をすることになりました。銀行へ行く用事を忘れていたという鶴川さんに代わって、ほんの一時の店番です。

 

そこに、六〇代くらいの女性のお客さんがやってきました。事情を説明すると、その人は、「あなた、鶴川さんとはどういう関係の人?」と、怪しい人を見る目で問いかけてきたのです。

 

次ページ息子が残してくれたもの

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

家族の笑顔を支える会

扶桑社

もしも明日、あなたの大切な人が死んでしまうとしたら──「父親が家族に秘密で残してくれた預金通帳」、「亡くなった義母と交流を図ろうとした全盲の未亡人」、「家族を失った花屋のご主人に寄り添う町の人々」等…感動したり…

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