2. 価格リスク
必ずしも節税を目的とせず、資産形成の一部としてタワーマンションの購入を検討される方もいらっしゃるでしょう。そういった方は価格リスクを考える必要があります。
過去15年分の首都圏のマンション価格を見てみると、1平方メートル当たりの平均価格は右肩上がりに上昇しており、2021年には不動産バブルと言われた1990年の93.4万円を上回る93.6万円となりました。今年6月のデータでは過去最高だった2021年を上回り、99.7万円となっています(※1)。
また、首都圏分譲マンションの平均価格のグラフを見ても、バブル以降下落していた価格がバブル期と同水準以上にまで上昇していることがわかります。首都圏のマンション価格が過去最高を記録している中で、今タワーマンションを購入すると、これから価格が下落してしまうリスクがあります。
また、多くの方はローンを借りてタワーマンションを購入することになると思いますが、ここにもリスクが潜んでいます。投資の世界では、お金を借りて投資を行うことを「レバレッジをかける」と言います。たとえば、頭金を現金で支払い、その4倍のローンを組んだ場合、5倍のレバレッジをかけたことになります。この場合問題になるのは、リスクもレバレッジ分だけ大きくなっているということです。
さらに、タワーマンションの価格には下落するリスクもあります。東京で直下型地震が30年以内に発生するリスクは70%程度と予測されており(※2)、不動産としての価値を失う可能性があります。
不動産価格は安定しているという言説がありますが、実際には、不動産価格は現在高い水準となっており、今このタイミングでタワーマンションを購入することは価格下落のリスクが伴います。
※1 株式会社不動産経済研究所『首都圏新築分譲マンション市場動向2022年6月度』
※2 国土交通省『国土交通白書 2020』
3. 流動性リスク
不動産特有のリスクとして流動性リスクがあります。流動性リスクとは好きなときに、希望する金額で現金化することができないリスクになります。たとえば、上場株式などであれば商品の流動性が高いため、いつでも市場価格で売却することができます。しかし、不動産の場合はすぐに買い手がつくとは限りませんし、早く売ろうとすれば市場価格より低い価格で売らざるを得なくなる場合があります。
2021年のタワーマンションの合計戸数は約37万戸(※3)あり、前年から約1万個増加しています。2022年以降完成予定のものは約11万に上る(※4)なかで供給過多の可能性が指摘されています(※5)。供給が多すぎると、中古のタワーマンションに買い手が付きにくくなる流動性リスクの発生が懸念されます。
これが特に問題になるのはライフイベント等で急に資金が必要となった場合、そして万が一返済に行き詰まった場合です。急に現金化して返済しようとしてもなかなか買い手がつかなかったり、市場価格を大きく下回る価格で売却しなければいけなかったりするかもしれません。返済でなくても、急に現金が必要な場面で現金化が難しい点は、タワーマンションを含む不動産の欠点といえるでしょう。
※3 株式会社カンテイ『2021年 タワーマンションのストック数』
※4 株式会社不動産経済研究所『超高層マンション動向2022』
※5 日本経済新聞 2022年3月3日付『東京の再開発、住宅なお活況 供給過剰に懸念』
まとめ:リスクを理解した上で検討することが大切
ここまでタワーマンションを購入するにあたって三つのリスクを解説しました。もちろん終の棲家としてタワーマンションを購入される方や、タワーマンションを居住環境として魅力的に感じていらっしゃる方も多くいらっしゃることでしょう。そういった方でも、万が一返済に行き詰まった際には流動性リスクがあること、資産価格が下落する可能性があることを認識する必要があります。より多くの方がリスクと利点とを天秤にかけて、より良い決断ができることを願っております。
篠田 丈
株式会社アリスタゴラ・アドバイザーズ 代表取締役会長