遺産分割で紛争中だが…「賃貸物件のローン返済お願いします」金融機関が迫る、相続現場の過酷【弁護士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

アパートやマンションの賃貸経営を行う場合、物件を全額キャッシュで購入・建築する方は滅多にいません。まずは金融機関から借り入れを行い、運営するのが一般的です。しかし、借入のある収益物件を残して所有者が亡くなったら、どうすればいいのでしょうか?不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。

「ローンあり賃貸物件」を相続するという恐怖

今回筆者のもとへ相談に見えたのは、30代会社員の鈴木さんです。鈴木さんの父親は土地活用のために価格1億円、ローン8000万円のマンションを建築・運営していましたが、突然の病に倒れて亡くなってしまいました。

 

「父と母とは離婚しているため、相続人は私と弟の2人だけです。父の遺産の分割をどのようにすればいいのか、さっぱりわからなくて…」

 

今回のようなケースでは、相談者の方が悩むのは、ある意味当然なのです。実は、鈴木さんが父親から残された「8000万円の負債」は、遺産分割協議の「相続財産をどう分けようか?」という話し合い・手続きとは、完全に別の理屈で考えなければならず、これが一般の方の理解を難しくしています。

 

相続が発生すると、マンションはその瞬間から「共有状態」となり、マンションの分割方法が決まる前に凍結されてしまい、一切が動かせなくなります。しかし、ローンのほうは違います。「借金」として相続人へ自動的に振り分けられてしまいます。

 

今回の場合、鈴木さんと弟さんは自動的に「4000万円ずつ」の借金を背負ったことになります。

 

一方、借金の返済は待ってくれません。金融機関の取り立ては極めてビジネスライクであり、肉親を亡くした悲しみや、親族間でのいざこざなどは軽くスルーされ、普通に資金回収が行われます。物件は凍結・共有状態にありながらも、借金だけはこれまで通り返済する必要があるというわけです。

 

とはいえ、数ヵ月程度なら様子を見てくれる可能性もあるでしょう。しかし、それ以上長引くのであれば、「だれかが責任持って、代わりに返済してください」と迫られることも十分に考えられます。

「処分できないが返済義務が発生する」のが最大の問題

不動産の相続の最大の問題は、「処分できないのに、返済義務が発生する」ことだといえます。

 

賃貸物件の購入時や建設時には、関係各社が手を尽くして面倒を見てくれますし、融資を引くときにも、やはり周囲が世話を焼いてくれ、問題なく話が進むことがほとんどです。

 

しかし、相続時は違います。購入時や建築時にサポートしてくれた不動産会社、建設会社、そして金融機関が手を差し伸べてくれることはありません。

 

相続人はだれの手も借りられないまま、ローンのある不動産を抱え込み、金融機関を相手に今後の返済交渉を行うことになるのです。

 

賃貸経営者の相続人だからといって、同様の知識があるとは限りません。不動産経営の経験のない方が、いきなり物件を相続すれば、金融機関にイニシアティブをとられ、場合によっては不利な条件を飲まされるかもしれないのです。

 

不動産の購入時には、所有者が亡くなるとローン返済が不要になる「団体生命信用保険」に加入することになりますが、実際のところ、全員が加入できるとは限りません。また、加入せずにアパート事業をしている方のほうが多数であるというのが現場の印象です。

 

本来、団体生命信用保険は自宅を持つために作られたものであり、アパート事業に対応するようになったのはここ数年です。

 

その点を踏まえ、上記のような不都合を解決するなら、使える場合には、団体生命信用保険への加入は効果的といえますが、加えて相続発生後の賃料収入を確保するためには、やはり遺言書の活用すべきだというのが、筆者のアドバイスです。

「相続手続き」「ローン返済の対処」が同時並行

賃貸物件の相続の大変さは、遺産分割をはじめとする相続手続きが完了するまでに「賃料」「借金」という金銭的な問題が同時並行で起こることにあります。

 

団体生命信用保険ですべての物件の借金がなくなるなら、借り入れをしてマンションやアパートを建てればいいのでしょうが、実際にはその通りになるとは限りません。

 

ですが、相続人のだれがひとりを指定して権利をまとめ、後日、そのお金で精算するよう遺言書に明記しておけば、不動産の権利を単独処理できることになります。そうなれば、ひとりの相続人が賃料も借入金も処理できるため、手続きは一気に楽になるのです。

 

このように、賃貸物件の相続では「遺言書の活用」にメリットがあり、賃貸物件オーナーには、万一を見据えた遺言書の準備が重要だといえます。

 

 

山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦

 

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     代表弁護士

    実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。

    数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。

    相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。

    クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。

    現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数6名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。

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    連載相続と不動産に強い弁護士が解説!損しない相続・遺産分割の「奥の手」

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