年齢やスキルが及ばないケースは少なくないが・・・
「まだ若い息子にいきなり継がせるのは不安だ」このような悩みをお持ちのオーナー経営者もいます。息子さんがいて、それなりの才覚があるばかりか本人も親の会社を継ぐ気でいる。けれども年齢やスキルなどがまだ不十分で、しばらくしてから事業承継をしたいといったケースです。
同様に、都会に出て大企業で頑張って働いていたり海外勤務で公私共に充実していたりする息子を、事業承継のために呼び戻すべきか? とお悩みのオーナー社長もいます。中小企業を継がせて苦労をかけさせるよりも、誰もが知っている大企業で自由に活躍できるなら、そのほうが息子にとっても幸せかもしれないという親心もあるでしょう。
また、仮に息子さんが会社を継ぐ気になってくれたとしても、辞めどきが難しいという問題もあります。特に、それなりのポジションを得て責任ある立場でプロジェクトを推進中といったケースでは、いきなりそのプロジェクトを投げ出すわけにもいかずに、「キリのいいところ」を見出すのが難しいこともあるでしょう。
経営幹部や経営者候補の人材を外部から呼び込む
このような場合に有効な手法があります。それは、野球でいえばワンポイントのリリーフピッチャーです。先発のオーナー社長がリタイアしてマウンドを降りる。1回か2回、リリーフのピッチャーにリードを守りきってもらい、本命の抑え役の投手である息子へと継投するのです。
息子はオーナー社長が経営する会社で働いていることもあれば、都会や海外の企業で働いていることもあります。いずれにしても、スキルや年齢、他社での一区切りといった準備が整うまで、リリーフピッチャーにマウンドを託すのです。息子はその間、ブルペンで入念に肩を作るというわけです。この場合、リリーフピッチャーは社内の専務などでもよいですが、思い切って外部から適切な人材を招聘するという方法もあります。
ビフォーM&Aの一つとして、外部から経営コンサルタントを招く方法について指摘しました。それと同様に、経営幹部や経営者候補の人材を思い切って外部から呼んでくるのです。
この場合、注意点として「リリーフの役割はあくまでも本命までの中継ぎ」ということを文書などで合意しておく必要があります。というのも、条件交渉が曖昧なままでは、リリーフピッチャーがごねて、「オレが最後まで投げきる」と言い出しかねないからです。
創業家とリリーフ役の社長の間で、社長の間の報酬だけでなく退任時期の目安やその際の退職金、株の一部を保有している場合は株の買取価格などを定めておく必要があります。
ちなみに当社では、08年から経営幹部や後継者候補を紹介する事業を始めました。リリーフ役社長の年収の一定割合を紹介料として受け取るスキームです。M&Aの相談に乗ってきた企業の6~7割は後継者不足に悩んでいるため、このような事業を始めたのですが、安易な清算・廃業を選ばずに済むという点では貢献できていると感じています。
【図表】外部招聘の必要性を知る
スムーズな事業承継には十分な準備と時間が必要
日本の中小企業を巡る厳しい環境、なかでも後継者不足という問題がクローズアップしています。
そんな状況下でも、清算・廃業を安易に選ばず、親族やスタッフ、第三者に事業を承継していくべきことも既に述べた通りです。どのような人にどのような方法で事業承継をするにしても、十分な準備とそれなりの時間が必要であることをご理解いただけたのではないでしょうか。
実際、後を継ぐ気だった息子さんの気が変わることもあれば、不幸にも息子さんが先に他界することもあります。また、外部コンサルタントとリリーフ役の社長の活躍で業績が好転し、いっそM&Aで会社の譲渡を選んだほうが有利といった状況が生まれるかもしれないのです。