解決策
遺言がなければ遺産分割協議で決めるしか方法はありません。長女と三女に思いを汲んでもらうしかないのですが、残念ながらこの事例の場合は結局銀行預金を3等分することになりました。
それでも「どうしても3等分では納得できない。私だけが親の面倒をみた。介護費用も立て替えた。私には他の姉妹よりも多く遺産をもらう権利があるはずだ。寄与分を請求する」と次女が家庭裁判所に調停を申し立てたとしたら、どうでしょう。
もし家庭裁判所が認めてくれれば、次女に寄与分をプラスしてくれるでしょう。しかし、寄与分は通常想定される以上の「特別の寄与」をした場合に認められるものです。
この事例の次女の場合は、親子の扶養義務や同居家族の相互扶助義務等からみて「特別な寄与」とは認められないでしょう。つまり、次女が「立て替えた」「返してもらえる」と思っていたお金は、「ただ支払っただけ」「ただ負担しただけ」となってしまうのです。
この事例の場合、「家を売ったお金で老後の面倒をみてほしい」と母に言われた時点で、「家族信託」を利用しておけば、母が認知症になったあとも母の介護費用を母のお金で賄うことができました。立て替えなくてよいのです。
生前贈与をしてもらうという手段もありますが、そうすると贈与税を支払わなくてはならないため、家族信託をしてもらうのがお勧めです。
家族信託をすると次女に託されたお金は、自分のお金とは別にして管理しなくてはいけないため(分別管理義務)、次女は専用の銀行口座(信託専用口座)を作って管理し、そこから母の介護費用を支払います。
母が亡くなればこの信託は終了し、信託専用口座に残ったお金は娘3人に譲るということまで契約時に決めておきます。母が同居した次女に多めに渡したいと考えたのなら、次女が2分の1、長女と三女が各4分の1などと取得させる割合を決めておくことも可能です。
遺言を作らなくてもここに遺言の機能が入っているので、財産の行き先を決めておけます。遺産分割協議をしなくても決められたとおりに分割、取得することができます。
また、この家族信託をするときには、長女と三女も交えて、家族会議をしておくことが大切です。託すお金がいくらで、残余財産はどうやって分けるかということなど、全員が理解している状況でないと、あとで揉める可能性があります。
実際には第2受託者や信託監督人として長女や三女も信託契約の中に出てくるようにすることが多いです。信託監督人とは、受益者のために信託財産の管理・運用が適切に行われているのかを、受益者に代わって受託者を監視する立場です。
母と次女の間で信託契約
委託者:母
受託者:次女
受益者:母
信託財産:自宅を売却した母のお金
信託財産の管理:次女が管理する
家族信託の終了:母の死亡時
残余財産の帰属先:次女2分の1、長女4分の1、三女4分の1