(※写真はイメージです/PIXTA)

超高齢社会となった日本。公的年金や健康保険の懸念についてしばしば議論されていますが、それ以前に「65歳以上の5人に1人が認知症」という重大な健康問題が、私たちの目の前に立ちはだかります。厳しい現状を見ていきます。

複数の種類がある「認知症」

認知症とは、脳の病気や障害など様々な原因によって認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいう。

 

認知症のなかでも最も多いのが「アルツハイマー型認知症」。脳神経が変性して脳の一部が萎縮することで起き、進行は比較的ゆっくりで、よく見られるのは物忘れの症状だ。

 

次に多く見られるのが脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による「血管性認知症」だ。障害された脳の部位によって症状が異なり、一部の認知機能は保たれた「まだら認知症」が特徴的な症状となる。症状の進行はゆっくりの場合も、急速な場合もある。また、血管性認知症にアルツハイマー型認知症が合併するケースも多くみられる。

 

その他、幻視のほか、手足の震え、歩幅が小刻みになって転倒しやすくなるパーキンソン症状があらわれる「レビー小体型認知症」、言葉がうまく出ない、言い間違いが増える、感情が抑制できない、社会的ルールが守れなくなるといった症状の「前頭側頭型認知症」もある。

軽度認知障害で早期発見・早期対応を

日常生活に支障をきたすほどではないが、記憶などの能力が低下し、正常とも認知症ともいえない状態のことを「軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)」といい、MCIの人の約半数が5年以内に認知症に移行するといわれている。しかし、MCIの段階から運動などの予防的活動を開始することで、認知症の進行を遅らせることができると期待されている。

 

認知症とまではいかないが、以前よりもの忘れが増えている、もの忘れの程度がほかの同年齢の人に比べてやや強いと感じたら、念のため専門医を受診しよう。

認知症のサインと、実際の症状

認知症の症状には、記憶障害や理解力・判断力の低下といった「中核症状」と、「行動・心理症状」に大きくわけられる。

 

◆中核症状

認知症の中核症状の例としては、数分前、数時間前の出来事を忘れる、繰り返し同じことを言う・聞く、などといった、「もの忘れ(記憶障害)」や、日付や曜日がわからなくなったり、慣れた道で迷ったりしてしまう「見当識障害」が挙げられる。

 

そのほかにも、手続きや貯金の出し入れが困難になったり、状況や説明が理解できなくなったりする「理解力・判断力の低下」や、仕事や家事・趣味の段取りが悪くなり、時間がかかるようになることや、身だしなみを構わなくなる、食べこぼしが増える、失禁が増える、といったことも中核症状に含まれる。

 

◆行動・心理症状

行動・心理症状は、上記の中核症状により、二次的に引き起こされる症状で、何をするのも億劫がるようになって、趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなったり、怒りっぽく、些細なことで腹を立てるようになったり、目的のために外出しても途中で忘れてしまい帰れなくなってしまう、といった症状が多くみられる。

 

また、自分のものを誰かに盗まれたと疑う「もの盗られ妄想」や、誰もいないのに誰かがいると主張する「幻視」も行動・心理症状の一種である。

65歳以上は「5人に1人が認知症」

日本の65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されている。今後ますます、認知症に向けた取組が重要になるといえる。

 

比較的若い年齢でも、脳血管障害やアルツハイマー型認知症のために認知症を発症することがある。65歳未満で発症した認知症を若年性認知症といい、こちらは3.57万人と推計されている。

 

認知症はだれもが罹患の可能性があり、決して他人事ではない。そのためにも認知症への理解を深め、認知症でも希望ある日常を過ごせる共生社会を創っていくことが重要だ。

地域社会の協力の重要性

「コロナがひどくなる前に、仕事で世田谷の古い商店街を訪れたときです。〈駅はどちらでしょうか? 迷ってしまって…〉と高齢の女性から声をかけられました。きれいにお化粧してかわいらしいワンピースをお召しになっていましたが、足元はつっかけで手荷物はなく、首からかけたPASMOを握りしめているだけ。これは認知症の方だと青くなり、最寄りの交番にお連れしたのです」

 

そう語るのは、仕事で日々都内を移動している40代のライター。

 

「警察の方に〈こちらの女性が迷われたようです〉と声をかけると、〈ああ、〇〇さん! また来たの?〉と…。聞けば、商店街のそばのアパートにお住いの方で、周囲の商店街の方々が行く先々で見守っているというんです。警察の方がそばの花屋さんに一声かけると年配の女性が出てきて、〈〇〇さん、帰るわよ〉と手を引きました。花屋さんは振り向きざまに〈いつものことなのよー〉と、私に笑いかけました」

 

ライター氏は、そんな周囲の人たちの「いつもの光景」といった空気に驚いたという。

 

「あっさりと、普通に家族へ接するような対応で驚きました。想像ですが、お年寄りだけではなく、近所のお子さんたちにも同じようにしているのではと思いました」

 

周囲のちょっとした気遣いや見守りが、高齢者や子どものセーフティネットになっているのだろうか。コロナが収束しない現状では難しい部分もあるが、周囲との付き合いによって助けられるケースも多いに違いない。

 

認知症の症状にいち早く気づき、対応できれば、医療・介護・福祉サービスへ速やかにつなげることができる。何より、本人や家族が不安に思う期間が短くなる点で、メリットは非常に大きい。

 

一般にもよく周知されているのが、認知症予防には心身の健康維持、そして社会的孤立の回避が有効との研究結果だ。

 

地域社会にこのような「相互扶助」の空気を作ることは、いまいるお年寄りへのサポートばかりではなく、将来の自分へのサポートにもつながっていくのではないだろうか。

 

参考資料:「みんなのメンタルヘルス総合サイト」https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html

 

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