「悪い円安」が新たな挑戦の背中を押す
1980年以降の米ドル/円推移について、一定期間内の円相場の変化がどれだけ急激かを比較するため、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)からのかい離率を作成してみました[図表1、2参照]。プラスかい離率が大きくなるほど、円安(米ドル高)の動きが急激になっています。
これをみると、1980年以降で同かい離率がプラス20%以上に拡大したのは1982年、1998年、2015年の3回でした。
このうち1998年にかけての円安に対しては、円安を止めるべく円買い介入が行われたことが財務省の資料から確認できます。
また、1982年にかけての円安に対して円買い介入が行われたかについては公式資料では確認できなかったものの、当時の報道などから、日本経済にとって悪影響の大きい円安との見方があったと考えられます。
一方で、2015年にかけての円安局面は、「悪い円安」との批判は目立ちませんでした。
当時は、アベノミクス3本の矢の1本である日銀による大胆な金融緩和を受け、円安・株高が大きく進んだ局面でした。いわば「国策としての円安」とみられたことから、これまでの急激な円安と異なり、円安批判が高まらなかった特殊なケースだったのではないでしょうか。
さて、今回の円安においても、米ドル高・円安が135円を超えたころから5年MAかい離率は20%以上に拡大してきました。したがって、現段階でも1980年以降で3~4番目に急激な円安ということになるでしょう。
先述した「急激な円安トップ3」では、特殊ケースの可能性があった2015年にかけての円安を除き、日本経済にとって悪影響の大きい「悪い円安」懸念が広がったことを考えると、今回の場合もその懸念が広がっていてもおかしくはありません。
ところで今回の円安は、インフレ・物価高と円安の同時進行という点で1982年にかけての円安と類似しています(1998年についてはむしろ日本でデフレが広がり出したタイミングでした)。輸入物価の上昇を通じて物価高が後押しされる円安は、インフレ局面ではより庶民生活における批判が強まります。
したがって今回は、1982年以来約40年ぶりに庶民感覚で「痛み」を実感する円安なのかもしれません。人の「性」として、「痛み」を感じることで初めて新しいことに挑戦する気になるのではないでしょうか。
そう考えると、これまでにないほど新たに外貨投資を考える人が増えているのは、円安が進むなかで自身の資産や生活を防衛するためにはなにが必要か、改めて現実的に考えた結果なのかもしれません。