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今春から急速に円安が進み、ドル円相場は一時、約24年ぶりに1米ドル=136円台を付けました。この円安の主な要因には、日米の金融政策の方向性の違いや、日米金利差の拡大などが挙げられます。ただ、今回の円安には、拡大する『貿易赤字』による円売りドル買い圧力の影響も表れている模様です。今回は、『貿易赤字』の現状とその構造を掘り下げて見ていきます。
過去最高に迫る『貿易赤字』
■日本の貿易収支を見ると、最新5月の統計では、2兆3,847億円の『貿易赤字』となりました。『貿易赤字』となるのは10ヵ月連続のことですが、その赤字幅は比較可能な1979年以降で2番目に大きいものとなっています。
■名目輸出額は前年同月比+15.8%と堅調でしたが、名目輸入額が同+48.9%と大幅に増加し、『貿易赤字』の額は大きく拡大しました。名目輸入の数量指数を見ると同+4.7%だったものの、エネルギーや食料品などを中心に輸入品の価格が上昇していることや、足元で円安が進行していることによって輸入金額は大きくなりました。
最近の日本の貿易構造
■最近の日本の貿易構造を品目別に見てみます。輸出額では、一般機械、電気機器、輸送用機器の上位3項目で半分程度を占めています。これらは、足元では中国・上海市等でのロックダウンなど、新型コロナウイルスの感染拡大による経済停滞の影響が見られます。
■一方輸入額では、原油、石油製品、液化天然ガスなどの鉱物性燃料が27.3%となっています。ウクライナ情勢によって、原油価格が大幅に上昇するなど、鉱物性燃料は価格が上昇しています。ウクライナ情勢が長期化しつつある中、欧州を中心にロシアからのエネルギー輸入を減らす取り組みが続く見込みです。その不足分を他で補う必要があるため、世界的に需給がひっ迫し、エネルギー価格は高止まりすると見られます。このため、今後も『貿易赤字』の大きな要因となりそうです。
貿易収支の推移を見ると赤字定着のリスクが見えてくる
■貿易収支を項目別にみると、ほぼ輸入に頼っている鉱物性燃料に次いで、食料品や原料品は輸入が輸出を上回る状況となっています。ウクライナ情勢によって、ロシアやウクライナを一大産地とする穀物を中心に食料品価格も上昇しており、『貿易赤字』拡大の一因となっています。
■エネルギーや食料品のウクライナ情勢による価格上昇に加え、円安による輸入価格全般の上昇により、『貿易赤字』になりやすい構造にあると言えます。『貿易赤字』が円安を生む要因の一つと考えると、日本の現在の貿易収支の構造は、円安が円安を生みやすくなっています。
■少し長い目で貿易収支を見ると、鉱物性燃料など、輸入に頼っている財の価格が上昇すると『貿易赤字』となる様子が見て取れます。これは、原材料を輸入し、加工し輸出している日本の経済構造上、避けられないことと考えられます。日本と同様の経済構造となっている韓国やユーロ圏も、現在の貿易収支は赤字です。
■エネルギー価格が高止まりした場合でも貿易収支の黒字を確保したり、赤字幅を抑える為には、製品の国際競争力を高めていくことや、サプライチェーン見直しの中で日本での製造力が強化される必要があります。ただし、それが実現するとしても時間がかかるため、当面は前述の通り『貿易赤字』が続き、円安が円安を生みやすい状況が続きそうです。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『バックグラウンドで円安に効く、日本の『貿易赤字』【専門家が解説】』を参照)。