(※画像はイメージです/PIXTA)

高齢の父親が亡くなり、相続が発生。遺産は築古の実家と、大昔に買った賃貸マンションが一室だけ。妹2人は価値のないものと思い込み、兄からの「ハンコ代程度」の遺産分割案に納得しかけていましたが…。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。

父の遺産はボロボロの不動産、しかし立地が…

先日、60代の姉妹が、相続関係の書類について、問題がないかどうか見てほしいということで、筆者の事務所を訪れました。

 

「先日、父親の葬儀があったのですが、そのあと兄が〈必要書類に記入と印鑑を頼む〉といって書類を送って来たんです。父親は普通のサラリーマンだったので、たいした財産もありませんし、私も妹も20代で家を出てしまったので、なにかもらおうとは思っていません。ですが、万一問題があってはと思いまして…」

 

相続人となるきょうだいは、兄と姉妹2人の合計3名とのことでした。

 

「ご実家の財産構成を教えていただきたいのですが、不動産などはありますか?」

 

筆者が尋ねると、

 

「父親は中小企業のサラリーマンでしたので、貯金はわずかだと思います。あとは昭和時代に建てたボロボロの狭い実家と、父親が大昔に買った、小さな賃貸マンションが1室あるだけ。全然たいしたことないですよ」

 

相談者の姉妹は「財産はほとんどない」との認識を持っており、懸念点は〈書類の記載漏れがあったら大変〉〈万一借金があったら困る〉という2点に尽きるようでした。

 

しかし、筆者が実家とマンションの所在地を確かめたところ、いずれも山手線の人気駅のそばという、非常にいい立地にあることがわかりました。資産額を考えると、とても「たいしたことない」とはいえません。

 

筆者がその旨をお伝えしたところ、2人で顔を見合わせ、非常に驚いていました。

 

長男が郵送してきたという書類を確認したところ、わずかなハンコ代の代わりに相続財産をすべて長男が相続するといった内容の遺産分割協議書でした。

 

「穏便にすませたいとのお考えは、重々承知のうえですが…」

 

筆者はそう前置きして話を続けました。

 

「お父様の財産は、とても大きな価値があります。裁判で争うお考えはないにしろ、お兄様と少し交渉すれば、老後資金はもちろん、お子様に残す財産も増えますよ」

「あら、そうなの?」「まあ、あの家がねぇ…」

筆者の言葉を聞いた2人は、

 

「あら、そうなの?」

「まあ、あの家がねぇ…」

 

「でもさ、借金じゃなくてよかったじゃない?」

「本当にそうよね!」

 

とひとしきり感想をいい合いました。そして、筆者が次の言葉を待ち構えていると、

 

「面倒だし、兄がいうとおりに書くわ」

 

と口をそろえ、思わず筆者は椅子から落ちそうになりました。

多額の相続財産を「もらい損ねている」場合も

この件は「お持ち帰り」となったため、最終的なところまで見届けていないのですが、恐らく兄に促されたとおり、書類に印鑑を押したのではないかと思われます。

 

いちばん大切なのは相談者の方のお気持ちなので、これもひとつの解決の姿です。また、個人的にも、円満・穏便にすむなら、それがなによりだと思います。

 

しかし、このケースのように、相続人が遺産の価値に気づいていないケースは少なくありません。今回は相談によって相続財産の価値を知ることになったわけですが、よくわからないままほかの相続人に促されて印鑑をつき、本当なら相続できるはずだった高額な遺産をフイにしている人もいます。

 

資産は一見して価値がわかるものばかりではありません。

 

今回の類似のケース例として「借金の多い実家の会社の株」の相続もあります。中小企業経営者の方はよくご存じだと思いますが、会社の株の評価も一筋縄ではいきません。多額の借金があっても十分な売上がある、あるいは、特殊な技術等によって大手ファンドからM&Aをオファーされており、株式の時価総額がとんでもない金額になっている、といった事例はいくつもあります。

 

資産形成は人生における重要な課題です。「たいしたことないはず」という思いこみや、「面倒くさい」「もめごとは煩わしい」といった気持ちで結論を出せば、後悔することになりかねません。

 

もちろん、諍いを引き起こす必要はないですし、すべてを理解したうえで「もらわない」と決断するのであれば、それでいいでのです。

 

ですが、相続が発生したら、しっかり状況を把握・理解して決断をしましょう。それが後悔ない、もっともスムーズな対処法なのです。

 

 

(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)

 

 

山村法律事務所

代表弁護士 山村暢彦

 

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