(※写真はイメージです/PIXTA)

今後、開業医の生き残りはますます難しくなっていくことが予想されます。競争力の高いクリニックを開くには、どうすればよいのでしょうか? 老木浩之氏の著書『開業する医者の9割が知らないクリニック経営で本当に大切なこと』(日本医療企画)より、クリニックの「立地選定」について解説します。

開業の成否は「立地がすべて」?

「立地が開業の成否を握る」とは、開業支援業者の決まり文句です。ある意味、これほど医者をないがしろにした言葉はありません。しかし、悔しいのですが、否定しきることもできません。「近いだけではダメだ」というのが筆者の主張ですが、近いほうがいいに決まっています。

 

立地はアクセスの利便性と広告活動の一部を担う非常に重要なものです。ただ、コロナ禍以降、患者さんは医療機関を慎重に吟味するという意識が高まっており、アクセスよりも診療内容のほうが重要性は増していく傾向にあると思います。とはいえ、少しでも有利な場所で開業したいと思うのが人情でしょう。

 

開業場所の選定は、アクセスに加え、周辺の人口構成やターゲットとなる年齢層、近隣にある同じ診療科の状況(評判)などを要因として検討されてきました。しかし、従来の価値観で開業場所を探すと、既存クリニックが好適地を占拠しています。既存クリニックとの軋轢を生む競争にあえて挑むのか、別の価値観で他の開業場所を探すのか。私が特に重要視するポイントは「アクセス」と「近隣クリニックの診療状況(評判)」です。

「駅近=アクセスが良い」とは限らない

アクセスとは、到達のしやすさ、入りやすさと表現したらよいのでしょうか。たとえば、駅に近ければ近いほど人の流れが集中するので、電車を利用する人にとっては通院の利便性が高まります。一方、車や自転車による通院では、返ってアクセスが悪くなる場合があります。駅には車や人の流れが集中し、特に駅前に商業施設があれば、その傾向は顕著です。つまり、駅に近づくほど混雑しているので、車でのアクセスに時間がかかります。また、駅前の駐車・駐輪施設は限定的であることが多く、車を降りてからは徒歩になる場合も少なくありません。100~200メートルの短い距離でも高齢者や乳幼児を抱えての移動はかなりの負担になります。

 

その点、郊外の戸建てで、敷地内やごく近くに駐車場が確保できれば、車での通院は理想的だと言えます。道路の渋滞なしに来られて、駐車場からはほとんど歩くことなくクリニックにたどり着きます。ただ、駐車場が十分に確保できない場合、周辺の迷惑駐車が問題になったり、患者数増加の足かせになったりというリスクが発生します。

 

また、診療科によっては、通院している姿を見られることに抵抗を感じる人がいます。この場合、目につきにくい入り口であることが大切です。

 

また、駅前で電車の乗降客をターゲットにする場合でも、ほんのちょっとした人の流れでその思惑は大きく外れる危険性があり、駅から50メートル北側で開業しても、バス乗り場が駅の南側にあれば、思惑通りに乗降客を確保できないこともあり得ます。

 

要は、全般的な人の流れを見るのではなく、ターゲットとなる患者さんの身になって受診するときの状況を想像することです。それによって、どのような立地が支持されるのか、見えてくるものがあるのではないでしょうか。

近隣クリニックの診療状況(評判)を調べるには?

立地の選定でもう1つ重要なことは、やはり近隣にある同じ診療科クリニックの診療状況(評判)です。負けるリスクの高い勝負は避けなければなりません。

 

客観的なデータとして近隣クリニックの医師の年齢や後継者の有無がありますが、この2つはあまりあてになりません。70歳前後の開業医がその後10年以上、診療を続けることはありますし、後継者がいなくても継承で他の医師が来ることがあり得るからです。

 

近隣クリニックの診療状況の評価は容易ではありません。情報ソースとしては2つが考えられます。1つはネット情報で、ホームページの充実度、提供している医療の状況などが把握できます。ホームページがないクリニックには勝負を挑んでもよいのではないでしょうか。医療機関検索サイトの口コミにその評価が掲載されていることがありますが、好評価だけが並んでいる場合は信ぴょう性を疑う必要があります。また、スマートフォンでの予約制を採用しているクリニックが増えており、その待ち時間状況から混雑具合を知ることができます。

 

もう1つの情報ソースは地元業者で、生の有力情報を得られることがあります。製薬企業やその伝手を使って医薬品卸に評判などを尋ねます。ただ、こちらの新規開業計画をリークされるリスクも考慮しておく必要があるでしょう。

 

加えて、実際に自分の目で見に行くという手段があります。朝の開院前に行列の有無を確認したり、時間帯や季節・曜日を変えて観察することで、感じられるものがあるかもしれません。

開業予定地の「医師会」にも着目

開業予定地が同じ診療科の医師会会員のクリニックと近ければ、すんなりと医師会入会が認められないケースがあるかもしれません。直線距離の近さだけでなく、駅や幹線道路、川などとの位置関係が重要で、駅の反対側などではほとんど影響しないことから反対はされないケースもあり得ます。また、既存クリニックの医師が高齢で引退間近であれば、反対されないかもしれません。

 

 

医師会のなかに反対者がいるかどうかがまず問題になり、その先の扱いは医師会のスタンスによって大きく異なります。反対者の声を反映させる仕組みがあるのか、そして、反対者の意見を聞く場があったとしてもほぼ無条件で入会を認めるのか、反対者が意見を下げない限り入会できないのか、医師会のスタンス次第なのです。

 

 

老木浩之

医療法人hi-mex 理事長

 

 

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本連載は、老木浩之氏の著書『開業する医者の9割が知らないクリニック経営で本当に大切なこと』(日本医療企画)から一部を抜粋し、再構成したものです。

開業する医者の9割が知らないクリニック経営で本当に大切なこと

開業する医者の9割が知らないクリニック経営で本当に大切なこと

老木 浩之

日本医療企画

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